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2005年03月01日（火）
アメリカ国内でのイラク派兵批判　　　　

３月１日。ビキニデーでもあり、三・一運動（万歳事件）の日でもある。
それにちなんだ何かを書きたいと思ったのだが、いずれも気の重いテーマ。気合いのはいったときでないと書けない。そう、今日は気合いがはいっていないのだ。

アメリカ国民のイラク問題に対する姿勢に関して興味深い報道が２件。
ゴールデン・ラズベリー賞というものがある。アカデミー賞のパロディーで、最低の映画や俳優を選んで授賞する。批評家やファン７００人の投票で決まるそうだ。その２５回目の授賞が発表され、最悪男優賞にブッシュが選ばれたという。最悪助演男優賞がラムズフェルド。ライスも最悪共演賞に。「自然体のまま醜態をさらした」のが各受賞理由と報道されている。
アメリカの懐の広さ、国民の多様性に目を瞠る思いがする。

もう一つ。
米バーモント州の話。１日同州の大半となる約２５０の町がタウンミーティング（住民集会）を開く。このうち約５０の町で、イラク戦争への州兵の派兵の是非を問う決議案が議論され評決される予定だという。「採択されても法的拘束力はないが、州の緊急時のために存在する州兵の海外派兵に反対することで、イラク戦争そのものの意味を問い直す試みだ」と報じられている。
この決議案を提案するのは、ＮＧＯ「イラク戦争決議のバーモント・ネットワーク」。決議案は、イラク派兵が人的資金的に州の大きな負担になっていることをあげ、そもそもイラク戦争は間違った情報、判断によって始められたと批判。期限は限定しないものの、兵の引き揚げを要求する。このＮＧＯは、昨年１１月から活動を開始し、集会への議案提案に必要な町の有権者の５％の署名を５２の町で集めた。集会を事前に開いた二つの町で、すでに決議が採択されているという。（以上、アサヒコムから）

これも、アメリカの民主主義的伝統のなせるワザ。アメリカは広い。とても一色ではない。この提案をしているグループの真摯さ。その地道な地域密着の活動ぶりこそ、民主的活動のお手本ではないか。敬意を表せざるを得ない。住民投票の結果に注目したい。そして、他州への波及にも。


2005年03月02日（水）
政治主義と経済主義とのバランス　　

すっかり風邪をこじらせてしまった。昨夜は一晩中咳が止まらない。腹筋が痛んでならない。気管支炎かしら。病を得て、健康のありがたさが身に沁みる。

病を押して盛岡の法廷に。粉雪の舞う盛岡は、美しいが実に寒い。この時期、東京との寒暖の落差に身が縮む。本日の最低気温は氷点下１０度。最高気温で氷点下２度の予報だという。帰りの「はやて」の車内では、完全にグロッキー。帰宅後ダウン。板橋高校威力業務妨害事件の公判前準備手続きを欠席。健康上の理由で仕事に穴を開けてしまったのは、３０年余の弁護士生活で初めてではないか。これも、弁護士ひとりの事件であれば、這ってでも出廷しなければならない。前回は１８名の弁護士が出席した弁護団事件だから休ませていただく。

２月の会計を締めていた妻が言う。「２月は、着手金・報酬とも入金なし」「改憲阻止だの、イラク派兵反対だの、日の丸・君が代強制反対だの、ＮＨＫ番組改変問題だのって言っておられる場合かね」。このような現実を突きつけられることによって、政治主義と経済主義とのバランスがとれることになる。

給与生活者には、この感覚はなかなか分かってもらえない。文字どおり弁護士は自由業。誰にも束縛されない自由は、飢える自由でもある。明日の糧の保障はないのだ。

「農耕民族＝給与生活者」と「狩猟民族＝自由業」というイメージで語られることが多いが、実は狩猟民族というのは豊かな人々であったようだ。豊かな自然の中に少数の人間が暮らす社会。狩猟・採取の生業で持続可能な社会とは贅沢なのだ。人口の増大、自然の疲弊の中で、人は農耕・牧畜をせざるを得なくなったのだろう。

弁護士はそのような意味での豊かな狩猟民族ではない。精神的な矜持を保つことと経済的な豊かさとは、二律背反である。両者のバランスを微妙にとりつつ、生きていかねばならない。

身体が弱ると、情けない日記になってしまう。


2005年03月03日（木）
再浮上した人権擁護法案　　

体調はやや持ち直した。咳は出ない。が、声を出すのがつらい。体を動かすのが億劫だ。

午前中は、「司法に国民の風を吹かせよう」の集会での講演。これは断れない。今さら他の人に振ることも不可能だ。苦しい喉で、しゃべることにする。ぼうっとした状態で、まことに心もとない。「風邪をひかせよう」になってしまいはせぬか、心配だった。

テーマは、「司法改革の全体像について」という難しい注文。傍目には、私がこのテーマで語ることが出来ると映るのだろうか。だいたい、司法改革の全体像を自信をもって語れる人がいるだろうか。私の知る限り、渡辺治さん、それと生前の本間重紀さん、くらいであろうか。司法内部の人間には到底全体像は見えない。とても私には荷が重い‥。それでも、講演を引き受けるのが私の図太さ。なんとかしゃべるのが、私の取り柄。

夕方、赤旗から依頼のあった人権擁護法案についての原稿をようやく書き上げる。私に赤旗からの原稿依頼とは珍しい。確か、生涯で２度目の経験。依頼は文化部のＫさんから。実は、この方私の息子が麻布中学に通っていた当時の若い国語教師だった。いまは、赤旗文化部で文学者のインタビュー記事などに名を見せている。その人との個人的なご縁あっての依頼なのだ。

人権擁護法案は、０２年３月に国会上程されたが、悪評さくさくで０３年１０月に廃案となった。それが、そのままに再登場である。まるでゾンビ法案。弁護士報酬敗訴者負担法案の再上程も、絶対にないとはいいがたい。

難しいのは、法案が一面で人権侵害救済の積極面を持っていることだ。すべての制度が、運用次第で良くもなり、悪くもなる。全面的に没にしてしまってよいのか、という批判に答えなければならない。

しかし、あらためて法案全文を読み、あまりに規制対象が広範なこと、人権委員会が過度に規制をなし得ることの危険を重視すべきだと思った。

それ以上のことは、今の体調では考えられない。短いものだけに難しいが、開き直って「抜本的な修正ないままの再提案には、再度の廃案の道しかありえません」との結論でまとめた。


2005年03月04日（金）
米軍死者１５００人に　　　　

東京は大雪だった。東京の大雪なのだから多寡が知れてはいるが、それでも早朝の景色は美しかった。枯れ木残らず花が咲く、雪化粧の風情。だが所詮は東京の春の雪。薄化粧は直ぐさまの厚化粧に。木の枝の雪折れを心配しなければならないベタ雪。予報のとおり、昼ころには降り止んで一安心。豪雪地帯の地震被災者を思わずにはおられない。

「イラク戦争での米兵の死者が３日、０３年３月の開戦以来、１５００人を超えた」そうだ。国防総省の発表によるものだが、占領が長引けば、さらに数を積み上げることになるだろう。注目すべきは、「死者数が増加するなか、軍への志願数が求人数を下回る事態になっている」というニュース。「米陸軍の求人担当当局者によると、今年２月の陸軍への志願者数は求人目標の７０５０人に対し、５１１４人にとどまり、２７．５％の不足となった」という。

アメリカの世論は、自国兵士の死には敏感だ。大義のない戦争の死傷者が増えてくれば、軍への志願者が減るのは当然。逃亡者、一時帰還兵の現場復帰拒否も多いという情報もある。今やアメリカも徴兵制の国ではない。兵として、苛酷な環境におかれるのは恵まれない階級の若者である。手当や資格取得などの好条件を与えてなおの志願者不足である。こんな戦争をいつまで続けておられるのか。

ブッシュの手の者は、力任せにパンドラの箱をこじ開けた。しかし、誰もその閉め方までは考えていなかった。誰も閉め方を知らない。もう、箱には希望のカケラも残っていない。

アメリカには、イラクの兵の安否を気遣う多くの家族がいるだろうに。どうして、こんな醜悪な戦争をする政府を支持するのだろうか。


2005年03月05日（土）
米軍がイタリア人女性記者を銃撃　　　　

啓蟄である。が、虫も縮こまる寒さ。近いようで春は遠い。イラクに平和の春が訪れるのはもつと遠い。

反米武装勢力に拉致され、約１カ月ぶりに解放されたイタリア人女性記者ジュリアナ・スグレーナさんの車が４日武装勢力からの解放直後に、バグダッドで駐留米軍の銃撃を受けた。スグレーナさんら３人が負傷、スグレーナさんをかばった護衛のイタリア情報機関員一人が死亡したという。これは、深刻な大事件だ。

「イタリアでは解放を喜ぶ間もなく、米軍への怒りの声が高まっている」「マニフェスト紙の編集者は『喜びの知らせが、米軍の銃撃によって台無しになった。イラクで起きていることが無意味で狂っているという悲劇的な証明だ』と述べた」と報じられている。

スグレーナさんは「左派系新聞」と紹介されるマニフェスト紙の記者。先月４日、バグダッド市内のイスラム教スンニ派モスクでファルージャからの避難住民らを取材した後、武装グループに拉致された。同１６日に「イタリア政府はイラクから撤退して」と涙ながらに訴えるビデオ映像が流れた。ローマ法王やチャンピ伊大統領らが解放を求めたほか、ローマで開かれた１９日の集会・デモには約２０万人が参加した（「朝日」による）。

日本と違って、自己責任などという馬鹿げた論議はなかったようだ。ただ、ベルルスコーニ首相率いる中道右派連合の議員らは「デモは無意味で、解放を妨げる危険性すらある」などとして１９日の大デモには参加しなかった。

そのベルルスコーニも黙過してはおられない事態。ポーズにせよ、米軍の責任を追及せざるを得ない。スグレーナさんは、武装勢力の拘束下にあって自由は奪われていたが、負傷させられることはなかったようだ。解放直後に、アメリカ兵に撃たれた。武装勢力よりも米軍が遙かに危険な存在であることを示した。イタリア部隊のイラク撤兵論が強力になるだろう。政権交代だってあり得る。アメリカを支持し支援して、イタリアに何かよいことがあったと言えるだろうか。

今回は、世界が注視している舞台での銃撃だが、同様の事件は実は日常繰り返されていると見ざるを得ない。すべて「誤射」「撃たれる方の不注意」で済まされているのだろう。外務省の奥参事官らを襲撃したのも米軍だという説も根強く唱えられている。十分にあり得る。

他人事ではない。続報を待ちたい。事態の推移を見守りたい。


2005年03月06日（日）
ビラ配り被逮捕者への勾留請求却下　　　

都教委の異常は今に始まったことではない。石原都政誕生以来の一途異常ではある。が、今春の異常さは度を超している。教育を司る部門の感覚ではない。公安部門の感覚そのものだ。これがわが国の首都の教育行政である。時代はおそるべき方向に暴走しつつあるのではないか。

「学校にビラが撒かれたら警察に通報をし、逮捕してもらえ」
都教委は、都立校の各校長にそう指示をしていた。指示中の「逮捕」は言葉の上では「対応」であるが、ニュアンスは完全に「逮捕してもらえ」である。学校敷地内であれば住居侵入、敷地外であれば道交法違反を根拠にせよ、と言う。ここには、表現の自由への配慮は一顧だになされていない。おそるべき「教育」委員会である。

当然に、「日の丸・君が代」強制反対運動を意識してのこと。そのような指示自体の存在が信じがたいこと。「教育の場に警察」は、教育の敗北を表すものとして、極力避けられてきたものである。「こんな指示に従う校長などいるはずもなかろう」と思うのが健全な常識。

その常識がいとも簡単に破られた。都教委のへんてこりん指示を、文字どおりに実践したへんてこりん校長が現れた。それによって、２人の市民が逮捕された。大きな問題である。

４日午前８時４５分ごろ、東京都町田市の都立野津田高校の校門外ロータリー・バス停付近で、「日の丸・君が代」に反対するビラを配ったとして、警視庁町田署は、建造物侵入の疑いで、６０歳前後の男性２人を現行犯逮捕した。

ビラ配布の場所は明らかに校門の外である。それでも校長は「被害届」を出した。「ビラ撒きの場所は校地として囲われた塀の外側ではあるが、学校の敷地の範囲内だ」と主張した如くである。それで、「校門の外の学校敷地に侵入」という奇妙な被疑事実が大まじめにこしらえられた。

都教委も都教委なら、校長も校長、そして逮捕に踏み切った警察も警察。戦前の言論弾圧体制を彷彿とさせる事態ではないか。北朝鮮から嗤われそう。これが、「教育現場」の実態なのだ。

幸い、その日の内に弁護士接見があり、５日には学校と町田署に抗議行動が組まれた。そして今日、東京地方裁判所八王子支部は、検察官の勾留請求を却下し、さらに検察官の準抗告も棄却された。人権擁護のシステムは、いまだ錆び付かずに健在だった。ひとまずは胸をなで下ろした。

それにしても、である。これは由々しき大事件ではないか。国民の自由や民主主義が危殆に瀕している証しではないか。にもかかわらずマスコミはほとんど無視。ベタで載せた朝日も、事実関係については警察の言い分だけを載せている。

教育よ、しっかりせよ。言うだけ無駄か。むなしい。
マスコミよしっかりせよ。まだ、言う甲斐はあろう。
警察よしっかりせよ。批判が大切だ。
検察官よ、都政や警察の言いなりになるな。法律家としての矜持を忘れるな。

都教委には、選挙のお灸がもつとも効くことになるだろう。まずは都議選。そして都知事を変えることによって、教委・教育長・幹部人事を総入れ替えしよう。それが、時代の暴走を抑止する途だ。


2005年03月07日（月）
響けホイッスル

ホイッスルブローアー私のこの「日記」を書き始めたころに、トナミ運輸（富山県・高岡市）の串岡弘昭さんの話題を提供した。彼の書、「ホイッスルブローアー」（副題「我が心に恥じるものなし」「私は口をつぐまなかった」ー桂書房）も紹介した。

串岡さんは、１９７０年に入社し､７４年にこの会社が行っている運賃闇カルテルを内部告発した｡彼の正義感が不正の黙認を許さなかったのだ｡
以来約３０年､彼は会社から徹底的な隔離と差別､嫌がらせを受け続けた｡賃金は､今も月額２０万円に満たない。解雇のためのでっち上げも画策された｡それでも彼は､脅されてもほされても屈せずに筋を貫いて頑張りとおし､２００２年１月トナミを被告とする損害賠償の提訴に踏み切った｡請求金額は、差別による生涯賃金差額と慰謝料合計で４８００万円。

２月２３日その事件の一審判決が言い渡された。富山地裁永野圧彦裁判長は被告トナミ運輸に対して、１３５６万円の賠償の支払いを命じた。この判決は、「原告の全面勝訴」と好意的に報じられた。公益通報者保護法案の審議を通じて、世間の注目するところとなったこの訴訟の判決に、世論はひとまず胸をなで下ろした。

一部勝訴事件であるから、原被告双方が控訴の権利を持つ。まず、被告が控訴断念を表明した。のみならず、串岡さんに対する処遇の改善をも検討するとも口にした。内部告発者に対する企業からの不当な差別事件の典型事例として世間の耳目を集めたこの事件である。串岡いじめを始めた当時のトナミ運輸会長は、綿貫民輔衆院議長という事情もある。企業イメージの回復をはからざるを得ないとの判断に至ったものであろう。

これで大円団、と誰もが思った。しかし、今度は串岡さんが控訴の意向を明らかにした。ここが、串岡さんのただ者でないところ。報じられているところでは、「地裁判決は串岡さんへの謝罪を認めなかった。串岡さんは『会社トップからの謝罪を勝ち取るまで闘いたい』と話している」とのこと。舞台は、名古屋高裁金沢支部に移る。社会の進歩は、こだわりを持つ人に負うところが多い。串岡さん、もう一息がんばれ。

それにしても、社会にとって内部告発は貴重だ。利益を受ける「社会」が、内部告発者を保護できなくてどうする。「公益通報者保護法」のみみっちい枠にとらわれず、損害賠償・解雇制限の法理と世論の力で告発者を守りたい。

「ホイッスルブローアー」とは、社会に警笛を吹く人という意味。だが、自らに迫った危難を世に訴え、危難救出を呼び掛ける笛のようにも聞こえる。串岡さんや長井暁さんに続く人の輩出を期待し､受難者としての串岡さんに続く者を再び出してはならないと思う｡

ソロでなく、合奏で、響き渡れ。ホイッスル。


2005年03月08日（火）
また、ビラ配りに逮捕　　

３月は卒業式のシーズン。４月は入学式。本来なら晴れやかでお目出度いこの時期、東京だけは陰鬱で重苦しい雰囲気。ひとえに「日の丸・君が代」強制という馬鹿げた教育行政のたまものである。

都立高等学校は２０１校、都立高等専門学校が２校、そして都立盲・ろう・養護学校が６０校ある。そして、都立高校の多くに全日制と定時制があって、その数だけ、卒業式・入学式が行われる。３月１日から式は始まって、１１日にピークを迎え、２７日まで続く。なお、区市町村立小学校は１３４１校、区市町村立中学校が６５０校。ここでも式があり、「日の丸・君が代」が強制されている。

青年法律家協会東京支部は、教員から要請のあった学校に弁護士を派遣している。無用の混乱を回避するための監視活動が目的。参加者から次のような報告が寄せられている。戒厳態勢下での卒業式だ。
○ほとんどの学校で、公安が数人待機している。
○「卒業式には保護者以外出席不可」と校門にかかげてあるところが多い。
○学校側でも、校門で教員が見張っている。都教委の職員が見張っているところもある。
○教員が生徒に「ビラを受け取るな」と指示したり、生徒が受け取ったビラを回収しているところもある。
○今のところ、弁護士が行っているところでは、大きなトラブルはない。公安も、ほとんどが黙ってみているだけ。

今年の立会はの焦点はビラ配布行動をめぐるものになっている。到底、すべての式に弁護士の立会手配はできない。今朝、また逮捕者が出た。卒業式があった葛飾区の都立農産高校で、ビラを配っていた男性が警視庁に現行犯逮捕された。被疑罪名は、またまた、建造物侵入である。

朝日夕刊は、「亀有署などによると、男は８日午前８時２５分ごろ、同校の敷地内に侵入した疑い。正門から約５メートル入った場所で逮捕されたという」と報道している。なんとも気が重い。


2005年03月09日（水）
君が代解雇訴訟での陳述　

１　原告ら代理人の澤藤です。
　　本件は、まことに乱暴に強行された事実上の解雇であり、その解雇事由とされたものは、都教委の「１０・２３通達」に基づく「日の丸・君が代」強制への不服従であります。
　　１０・２３通達では、卒業式等の式典会場において「教職員は、会場の指定された席で国旗に向かって起立し、国歌を斉唱する」とし、違反者あれば「服務上の責任を問われることを、周知すること」と明記されています。
　　原告準備書面(4) の第８章では、「日の丸・君が代」強制の違憲・違法・そして国際条約違反を詳論しています。
(1) 現行日本国憲法の基本的人権尊重の原理、
(2) 憲法２３条・２６条そして教育基本法を頂点とする教育法体系、
(3) 極めて水準の高い教育に関する国際条約
という３通りの実定法体系上、原告らに対する「日の丸・君が代」の強制は許されず、本件に即して言えば、「４０秒間の不起立をもって、雇用期間内の勤務成績不良との評価をすることは許されない」のです。
２　本準備書面の構成は、第１章から第７章までが、第８章の法的考察の前提ないし根拠となる主張、第８章が結論と言うことになります。
　　まず、裁判所にお願いしたいことは、教育という事象そのものについてのご理解です。医療過誤訴訟において身体の構造や生理機能、そして基礎医学や臨床医学の基本的知見の把握なくして医療行為に対する法的評価はなしえません。
　　同様に、教育訴訟においては、教育という事象を十分に理解せずして、判決は書けません。これが、教育条理に則った解釈の必要性として原告が強調するところであり、第８章の法的評価までのアプローチとして、７章までを必要とした理由です。
　　理解すべき対象は現実の教育にとどまりません。過去の教育、過去の教育のどこに欠陥があったのか、現行法体系が理念型とした教育、民主社会のモデルとしての教育、今国際社会で認知されているあるべき教育。人間の発達と教育、公教育の原理原則、権力的支配と教育など、教育を対象とする学問体系である教育学あるいは教育法学が蓄積した教育への理解を前提とした教育条理を的確に把握することが必要であり、そうして初めて教育条理に則った法解釈が可能となります。
３　まず、教育条理に基づいて教育基本法を正確に理解した場合の結論を簡明にご説明いたします。
　　「教育とは、本質的に全人格的な接触において、子ども・生徒の可能性を引き出す営み」であって、それを担うものは教師です。教師は、子どもの成長・発達の権利に対応する責務を担うとともに、憲法２３条（学問の自由）に基づく教育の権利をも有する立場にあります。
　　一方、教育行政は、教育条件の整備をすることがその使命であって、教育の内容に介入してはなりません。このことは、教育の本質から導かれる公理であると共に、戦前の過度な教育への国家管理を反省した現行教育法体系の基本原理でもあります。
　　教育行政が教育条件整備の範囲を超えて、内的事項に立ち入って子どもたちに特定の考え方を注入しようとすることは、教育基本法１０条１項の「不当な支配」に該当するものとして、違法であります。ましてや、国家主義的イデオロギーを注入しようとすることは、許されません。
　　教育行政の違法行為に抵抗して子どもの成長発達を擁護することは、教師の権利でもあり責務でもあります。
　　１０・２３通達に基づく「日の丸・君が代」強制は、「不当な支配」に該当する教育行政の権力的介入にほかならないと言わねばなりません。
　　１０・２３通達は、自らの正当性について学習指導要領を根拠としています。しかし、学習指導要領は、憲法・教育基本法の下位法である学校教育法の、その施行規則（省令）からの委任を受けた、文部大臣告示という最下位の法形式にすぎません。
　　当然のことながら、告示は上位の法形式に内容において抵触してはならず、その意味で、学習指導要領の「国旗国歌条項」は、憲法・教育基本法に違反するものとして違法であって、これを根拠とする職務命令は違法・無効です。
　　旭川学テ事件最高裁大法廷判決も、「教育における機会均等と全国的な一定水準の維持のために必要かつ合理的と認められる大綱的基準」である限りにおいて、遵守すべき基準として認められる、としています。
　　必要かつ合理的という具体的な要件として同判決が挙示するものは、「教師による創造的かつ弾力的な教育の余地や地方ごとの特殊性を反映した個別化の余地が十分に残されているか」です。１０・２３通達が、教師の創造性・弾力性・地域性・個別性を蹂躙して、がんじがらめに、画一的に現場を押さえつけるものであることは一見明白ではありませんか。
　　したがって、１０・２３通達は、教育基本法１０条に反するものとして違法である。
４　次いで、１０．２３通達をはじめとする被告による「日の丸・君が代」の強制が、原告らの思想・良心・信仰、それらの表明の自由を侵害する違憲・違法な行為であることについて、申し上げます。
　　思想・良心の自由をはじめとする精神的自由が、人間の尊厳を支える基本的な条件であり、かつ民主主義存立の不可欠の前提であることは言うまでもありません。
　　そもそも国旗・国歌をどう受け止めるか、個人が国家とどう関わるかは、１人１人の人生観・社会観・国家観の基本にかかわる人格の核を形成する問題というべきです。個人が自己の思想・良心の問題として、熟慮して回答を出していくべき事柄であって、公権力から押しつけられる性質のものではありません。公権力は、特定の教説やイデオロギーを持ってはならないのです。
　　特に、「日の丸・君が代」については、その歴史的経緯から、戦争や天皇制と切り離して考えることができず、様々な政治的価値観と密接に結びついて、人によって様々な受け止め方があるのは、周知のことです。
　　そして、掲揚した「日の丸」に相対して起立し「君が代」を斉唱するという行為は、「日の丸・君が代」に対して敬意あるいは尊崇の念を表すという意味づけがなされることが明らかであって、「日の丸・君が代」に対して否定的な評価を持っている者には、耐え難い精神的苦痛となります。それを処分といういわば恫喝を加えることによって、強制しようというのが１０．２３通達です。
　　憲法１９条は、「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」と規定し、�〇彖曄ξ豹瓦龍�制の禁止、�∋彖曄ξ豹瓦砲茲詆塒�益取扱いの禁止、��思想・良心についての沈黙の自由を保障しています。１０，２３通達は、これら１９条の保障にことごとく抵触する、文字どおり現代版「踏み絵」と言いうるものです。
　　これを合理化する理由は、到底見出し得ません。
５　原告らが本件で示したものは、自らの心、自らの教育者としての良心を擁護するための、４０秒の不起立という必要最小限度の抵抗にほかなりません。踏みこえてはならない一線を乱暴に踏み越えてきた被告東京都、東京都教育委員会の横暴に対する、最小限の抵抗なのです。このような、最小限の態様の抵抗も、事実上の解雇という最大限の制裁を受けているのが、現実の事態なのです。
　　むしろ、原告らの実践は、教育者のあるべき姿として求められているものです。教育現場では、国旗・国歌問題についての多様な見解が存在していること、したがってそれら相互の関係において寛容の精神・態度が要求されること、特に少数者の立場が尊重されなければならないこと、そのことを教えることこそが、子どもたちが自律的にその人格を成長させるために，原告ら教師に求められているものです。
　　さらに、「日の丸・君が代」の強制が子どもたちに向けられていることは明らかです。１０．２３通達の本質は、被告東京都、東京都教育委員会が、原告ら教職員を、その教育者としての専門性に裏付けられた思想・良心などを押さえ込んで、「囚われの聴衆」たる子どもたちにガバメントスピーチを植え付けるための「道具」たることを強いる点にその本質があります。本件訴訟は、原告らが、「道具」になることを拒絶することによって、子どもたちの心を護ろうとする側面も有しているのです。
６　最後に、本件訴訟においては、被告による人間のそして教育者としての内心を土足で踏み荒らすという憲法違反の異常な事態を、司法が放置するか否かが問われています。東京のみならず全国の多く市民がこの訴訟に注目しています。裁判所におかれましては、真実を見極め、「人権の最後の砦」としての使命を全うされることを期待いたします。


2005年03月10日（木）
東京大空襲６０年　　

本日３月１０日は、戦前においては輝かしき陸軍記念日。奉天大会戦勝利の日とのこと。米軍は、１９４５年特にこの日を選んで、東京大空襲を敢行した。東京は焼き尽くされた。その冷酷周到に計画された非戦闘市民に対する虐殺行為には、ふるえるほどの怒りを押さえきれない。２時間半の空襲で死者１０万人の被害の規模は、原爆の惨禍に匹敵する。

戦争の被害者としての体験は体が震えるほどの怒りを伴う。広島・長崎・沖縄、みな同様。だが、歴史は教えている。市街地に対する無差別爆撃に関しては、日本の方が先輩なのだ。１９３９年４月２６日ドイツ空軍がゲルニカを無差別爆撃。続いて５月３日に、我が帝国海軍が重慶の市街地を大空襲している。

前田哲男氏の教示によると、重慶爆撃は「都市そのもの」を攻撃対象とする明白な意図に基づく持続的な攻撃だった。ゲルニカ爆撃と違って一回限りでなく、２年半、２１８回にわたって続き、１万１８８５人が犠牲となったという。

日本人が東京大空襲の被害を忘れることはない。同時に、重慶攻撃の被害者にも思いをいたさねばならない。戦争の被害も加害も、一切繰り返してはならない。今日は、そのための決意を固める日。冷静に戦争の惨禍を避けるために思いを巡らせる日。

６０年後の今。ふたたび、「日の丸・君が代」の強制がまかりとおる世になっていることがおぞましい。
先に都立野津田高校ビラ配り逮捕事件について、勾留請求却下・準抗告棄却と紹介した。準抗告棄却の決定文は、次のとおり。そもそも、構成要件該当性を否定するものである。要するに、起訴されても無罪だということ。

「本件被疑事実の要旨は、‥被疑者が、ほか1名と共謀の上、平成１７年３月４日午前８時２分ころから同日干前８時４５分ころまでの間、‥全国労働組合交流センターが発行する「不起立闘争の拡大こそ戦争協力拒否の闘い」と見出しのあるビラを配布する目的で、東京都立野津田高等学校の敷地内に立ち入り、もって、正当な理由がないのに人の看守する建造物に侵入したというものである。しかしながら、一件記録によれば、被疑者らが立ち入った上記高等学校の敷地部分は、同高等学校の門塀等物的囲障設備の外側に存在する土地であり、これを建造物侵入罪の客体である「建造物の囲繞地」と評価することは困難である。被疑者らが同高等学校関係者から敷地の外との境界線を示されて注意を受けたにもかかわらず敷地内に立ち入ったこと等、検察官主張の事情を考慮してもなお、同敷地部分が軽犯罪法１条３２号にいう「入ることを禁じた場所」に当たるか否かはともかく、上記の結論は左右されないというべきである」

また、３月８日に農産高校ビラ配りで逮捕された被疑者も９日に釈放された。
「校長がビラ配付者に激しく詰め寄り、パトカーが無理に連行し、警察で拘束している間に校長に被害届けを出させ、警察で逮捕したもの」と、報告されている。「校門の中にはいったというのも虚報で、極めて不当な逮捕」という情報もある。警察情報垂れ流し報道には眉に唾して事態を見守りたい。


2005年03月11日（金）
「知っているなら伝えよ。知らないなら学べ」

自分が言いたくて探しあぐねていた言葉を、ズバリと形にしてもらうと爽快である。それが、短く洗練されたフレーズだとなおさら。ときに、みごとなフレーズに出会うことがある。

じん肺運動がつくり出した「あやまれ、つぐなえ、なくせ、じん肺」というスローガンは、その典型だろう。「怒るべきときに泣くまい」「夜明け前がもっとも寒い」「継続は力」「熱湯の中の蛙」「茶色の朝」‥。そして今日、早乙女勝元さんの「知っているなら伝えよ。知らないなら学べ」というフレーズに出会った。朝日の「私の視点」の中でのこと。

私が読んだ最初の早乙女さんの作品は「わが街角」。初出は新聞連載だった。主人公の小学生カッチンこと早瀬勝平は作者の分身。ほぼ自伝なのだろう。まずは開戦直前の東京下町の生活を描き、その愛すべき人々の東京大空襲受難を描く。作者は、この大空襲の被害を報じた新聞記事を紹介する。「宮中の厩が燃えたがすぐ火は消し止められた」と。１０万人の死者には触れず、天皇の馬のことだけを話題にした報道。作者の怒りが凝結した文章だった。

早乙女さんは、私より１０年余の先輩。敗戦時、２歳に満たなかった私とは違った実体験をしている。戦争の悲惨について、早乙女さんは「知っているから伝えねば」の世代。私は「知らないから学ぼう」という世代。だが、私は戦後を知っている。多くの人の戦争への怨嗟の声を直接聞いて育った。戦争の悲惨について、理解の素地があり、学ぼうという自ずからなる意欲を持っている。

さて、私より一世代若くなるとどうだろう。そのような共感能力は稀薄化しているのではないか。意識的に、「伝える努力」「学ぶ場を作る努力」を積み重ねていかねばならない。戦争の被災体験だけではない。加害の体験も。皇軍が近隣諸国民に何をしたか。天皇制・軍国主義・超国家主義・排外主義・選民意識・個人崇拝・人権軽視・差別肯定主義‥の実態について、「知っているなら伝えよ。知らないなら学べ」。


2005年03月12日（土）
都立校の卒業式・続報　　

本日で、都立校の卒業式はピークを越える。石原教育行政の異常は極まれり、である。昨年の教員に対する弾圧の域を超え、今年は警察を動員して「日の丸・君が代」強制反対運動全体に対する威嚇を狙っている。

どこの学校も今年の卒業式には地元の警察を呼んでいる。今のところは、校門付近に警官がたむろしているだけ。「日の丸・君が代」強制反対のビラ配りを妨害し嫌がらせをするのが彼らの仕事。挑発に乗れば逮捕の事態である。

ある都立校の例についての報告では、ビラ撒き要員５人に対して、地元署員と名乗る警察官が１０人くらい。監視の女性弁護士に対して、「弁護士なんかかんけえねえんだよ」「卒業式なんかかんけえねえんだよ」「表現の自由なんてかんけえねえんだよ」‥これが、わが国の首都の警察のレベルである。

弁護士「今何を撮ってらっしゃるの？ビデオをとってらっしゃるの？」
警察官「いいじゃねえかよー。」
弁「何のメモをとっているんですか」「写真をとるのはプライバシー侵害だからやめてください」
警「なんだよ、関係ねえよ」
警「何が監視弁護団だ。（腕章に）何だこれ」
という報告が雰囲気をよく表している。

警官は、校長に呼ばれてきたという。その校長と弁護士のやりとり。
校長　「卒業生と保護者にビラをまくのはやめてください」
弁護士「なぜですか」
校長　「理由はありません。お願いしているんです。やめてください」
弁護士「表現の自由は憲法で保障されていますから、そういうわけにはまいりませんね。どうしてですか」
校長　「理由はありません。やめてください。分かりましたね」
弁護士「録音させていただきますね」
校長　「テープに取らないでくださいといいましたね」
弁護士「今ビラを撒かないでくれといいましたね。理由はなんですか」
校長　「申し上げましたから。わかりましたね。それで終わりですから。よろしいですね」
弁護士「あ、いかれるんですか」（校長去る）

以下同弁護士からの報告。
「私が見た範囲でも、警察官のビラ配りに対する妨害行為は「弾圧」と評価してもいいほどのひどいものでした。
・ビラまきをしている人に対して「許可もってますか」という。
・とにかくメモや写真をとって威嚇する。
・肘が触れ合程近い位置に立つ。
・少し離れてじっとにらみつけ目をそらさず威嚇する。
・自転車で通る人にビラを配ると「危険だ、やめなさい」「無理に押し付けるんじゃないですよ」という。
・「あなた弁護士先生なら分かるでしょ。今のいいのね、ハイ。すごいね。ビラをくばっていいということを言いました」などといいながらメモをとる。
騒いでいるのは警察であって、ビラまきをしている人は大変静かに、冷静に撒いていました。むしろ、ビラ撒きをしている人が、警察官に繰り返し「卒業式なんですから静かにしてください」とお願いするほどでした。妨害にもかかわらず、ビラの受け取りはとてもよかったです。」

表現の自由を守ること、不当な教育への支配を排除することは、容易なことではない。しかし、理不尽な弾圧は闘うエネルギーの源泉でもある。こんな理不尽な思想良心の自由蹂躙に教員も生徒も市民も黙っておられるはずがない。

ある高校では、校門付近の警官を教職員と弁護士の抗議で追い返したという。またある高校では、卒業生がクラス代表で壇上に登り、マイクで「これ以上先生をいじめるな」という発言があったという。厳しい事態の中で、希望をつむぐ人々を見る。

本日、初めて東京ＭＸテレビで、昨日行われた都議会予算特別委員会の録画中継を見た。日本共産党の曽根はじめ議員が、「日の丸・君が代」強制の実態に切り込んでいた。感想の第一は、横山洋吉・石原慎太郎の不真面目さ。深刻な問題を論じているという真摯さがカケラほどもない。怒りがこみ上げる。君たちが、とんでもない反憲法的思想の持ち主であることは先刻承知だが、こんなに不真面目だとは知らなかった。天下の人々がこの放送をよく見ればよい。教育の問題を誰が真面目に考えているか、誰が不真面目で何も考えていないか、一目瞭然ではないか。知事も教育長も、どうして堂々と論戦をしないのか。はぐらかしと、ごまかしと、その場しのぎの答弁で取り繕うには、あまりに重すぎるテーマなのだ。教育の本質を考えたこともない人々に、もてあそばされている都の教育が哀れだ。子どもたちに対する責任は重い。

何を恐れてか、石原は逃げてばかり。横山が矢面に立つ。彼の「論理」は、すこぶる単純。学習指導要領万能論一本槍である。これ以外には何もない。これで通ってしまう今という時代が恐ろしい。


2005年03月13日（日）
最高裁おかしいぞ　

住民監査請求、そして住民訴訟という地方自治法が定める訴訟類型は、憲法の理念の実現に極めて貴重な存在である。

通常民事訴訟の原告適格は被告の行為によって権利を侵害された者に限られる。行政の政策実行によって直接被害を被った者は、行政に対して提訴をする資格を持つが、被害が直接・具体的なものでないときは極めて困難な問題が生じる。

自衛隊の海外派兵に関して、海外派遣の職務命令を受けた自衛隊員が提訴でその効力を争いうることは当然として、それ以外の国民が海外派兵を憲法違反として提訴可能か。熾烈に争われているところである。私たちの主張は国民一人ひとりが有する平和的生存権の侵害があった、少なくとも法的保護に値する精神的な被害があったとするもの。天皇や首相・知事が靖国神社に公式参拝をしたことを訴訟で争えるか。これも、国家賠償法を根拠に宗教的人格権の侵害あったとして提訴し続けているが困難に逢着している。

住民訴訟は、住民が自分の個人的損害の有無にかかわりなく、地方自治体の公務員に財務会計上の違法行為があった場合には、その是正のために住民でありさえすれば提訴の資格を認める制度である。政教分離原則に関する判例の積み重ねは、この訴訟類型があって初めて可能だった。

住民一人ひとりが地方自治体の監査役となれるのだ。この訴訟制度を使いやすく充実したものにすることが求められている。国の財政に関しても、「国民訴訟制度」を創設すべきというのが、私たちの年来の主張である。

ところがどうだ。１０日、最高裁はこれに逆行する判決を言い渡した。わざわざ、原判決を破棄しての逆転で、住民側を敗訴させた。

問題は、全国都道府県議の野球大会。各地の議会が、公費を使って議員や随行職員を派遣した。これに対して、各地で相次いで住民訴訟が提起された。これまでの同種事例では、ほとんど住民側が勝訴して確定した。ところが、大分県の知事だった平松守彦さんと職員は頑張って、最高裁まで争った。

問われたのは、「９７年８月、大阪府であった全国都道府県議会議員軟式野球大会の応援のため当時の県総務部長と財政課主幹が出張し、２人に計９万６６８０円の旅費が支給されたことの是非」（朝日）。当時の知事と職員が訴えられ、二審・福岡高裁判決は旅費の返還を命じていた。

今回の第一小法廷（才口千晴裁判長）は原判決を破棄し、「旅行命令自体は違法だが、職員らは旅費の返還義務を負わない」と判断した。旅行命令は違法としながら、請求を棄却した理由は極めて分かりにくい。「職員については、故意や重大な過失はなかったから」。知事については「故意や過失により、支出命令を阻止しなかったとはいえない」からという。

二審の福岡高裁判決は「応援のための出張には合理的な必要性がなく、出張命令と旅費の支出は違法」「知事らは旅費支出が違法だと容易に認識できたにもかかわらず検討を怠ったもので、過失があった」（朝日）として、旅費全額の返還を命じていた。こちらは常識的で極めてわかりやすい。

この事件の原告は、勝訴しても自分の懐が潤うことにはならない。大分県の住民全体の利益のために提訴した。もちろん、訴訟費用・弁護士費用を負担してのことである。敗訴によって、原告は全額自腹の負担を余儀なくされる。今回の最高裁判決は、住民訴訟提訴の意欲を殺ぐものだ。この理屈、他の住民訴訟にも影響を及ぼしかねないだけに心配である。



2005年03月14日（月）
東京新聞・卒業式ルポ　　

「東京新聞」は、気骨にあふれた記事を書く。ときに、胸のすく記事に出会う。ジャーナリズムは、しかく反権力でなくてはならない。権力からのリークをウリにしている産経とは好対照だ。御用記事だけを書いているならラクチンだが、ジャーナリストとしての生き甲斐は天と地の差だろう。

１３日の東京新聞朝刊が、「君が代強制ー都立高卒業式の現状」というルポを載せている。足で稼いだ現場の雰囲気をよく伝えている。以下、その抜粋。

「東京都では国歌斉唱時に教員が起立して「君が代」を歌わないと処分される。今年は、生徒に対して斉唱を指導するよう校長の職務命令も出た。こうした強制は、「日の丸」「君が代」が好きか嫌いかとは別問題だ。教員の精神をこわばらせ、生徒に大人社会の“欺瞞（ぎまん）”を伝える現状すら招いている」

「卒業証書を授与された生徒がマイクを握った。「校長先生と都教委にお願いします。これ以上、先生方をいじめないでいただきたい」。会場からの拍手が二十秒近く鳴りやまなかった。
　十日にあった都立Ａ高校の卒業式、出席者らに強い印象を残した一場面だ。歌わない教員が処分対象になることを知っての「いじめ」発言だった。生徒自身らは、「国歌斉唱」ではほとんどが起立したものの胸の内はどうか。ある卒業生は在校生に向けた言葉の中で「僕は天皇を人格者として尊敬し、君が代も歌った。だけど、この強制はおかしい」と率直に訴えた」

「二〇〇三年に都教委が通達（国旗・国歌の実施指針）を出すまでは、起立、斉唱するかどうかは内心の自由の問題、と多くの学校が説明していた。いまはそれが許されない」

「昨年九月、都教委は校長連絡会で、生徒に対する国歌斉唱の指導を「職務命令」として教員らに義務づけるよう口頭で指示した。生徒が起立しなければ担任の教員が処分され、「日の丸・君が代」強制が生徒らにも及ぶ事態が明白になったのが、前年までの卒業式と今回との違いだ」

「三月初めに卒業式を迎えたＢ高校では、国歌斉唱では生徒のほとんどが起立した。ところが、続く校長あいさつでは、二年生が「起立」の号令に従わず、約三百人のうち立ったのは一人だけ。「国歌斉唱で不起立だと担任が処分される」ことを避けた在校生による無言の抵抗だ、と式の出席者らは受け止めた」

（不起立の教員の談話）「多くの教職員が軍隊まがいの抑圧と自らの良心のはざまで悩み、苦しんでいる。私なりのやり方で抗議の意思を示した。敗戦の年に生まれ、戦争を放棄した憲法の恩恵も受けてきた。六十年たって、民主主義国の首都で、こうした強制が国民の目に触れないまま既成事実化することが怖い」

「都教委の強制に反対して、卒業式の主役は生徒たちのはずではないか、と父母らの有志がビラを配って呼びかけている。
　前出のＡ高校では前ＰＴＡ会長（５０）らが「伝統的な自主自立の校風を実現できる学校であってほしい」と訴え、卒業式の朝、校門前で保護者らにメッセージカードを配った。昨年の卒業式で、来賓の元教員が雑誌コピーを保護者に配布しただけで刑事事件として起訴された都立板橋高校でも、十一日の卒業式前に、地域住民らが校門前で「歌う、歌わないは自分が決めることです」と書いたビラを配布した。
　しかし、その一方で、こうしたビラ配りの現場は、父母や教員から依頼を受けた弁護士らが、手弁当で立ち会うという緊迫した事態になっている。万一の「混乱」を避けるための措置だが、三月に入り都立野津田高校と農産高校で、学校の校門前でビラを配った人たちが、「建造物侵入」の疑いで逮捕される事件が相次いだことも背景にはある」

昨年に比較して、今年の不起立者は確かに少ない。しかし、そのことは「日の丸・君が代」強制に関して、都教委側が抵抗を制圧していることを意味しない。抵抗は、根深く広範に広がっている。教員の抵抗への市民の共感も、生徒自身の抵抗も育っている。教員側が、いたずらに不起立による「玉砕戦術」を避けているだけなのだ。

「日の丸・君が代」強制への抵抗は、今は法廷闘争の時期。そして、労働組合としての組織闘争につなげる時期、広範な市民の世論に訴える時期なのだ。


2005年03月15日（火）
こりゃダメだ・ＮＨＫ　　

ＮＨＫ視聴者ふれあいセンター長・岡本伸行名で、「報道・表現の危機を考える弁護士の会」宛ての回答書が届いている。３月１０日付。一読して、「こりゃダメだ」。

不祥事があった場合、再発防止は真摯な反省が出発点となる。再発防止の努力に誠意を見せていると信頼されるためには、真摯な反省が不可欠なのだ。今回の番組改変問題でさらけ出されたのは、ＮＨＫの政府や自民党、右派勢力に対する弱腰な姿勢。ＮＨＫはこれを真摯に反省する姿勢がない。「こりゃダメだ」と言うより外はない。

回答書の内容は、『この番組について政治的圧力により番組内容が変更されたという事実はありません。番組は、NHKの「国内番組基準」にある「意見が対立している公共の問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにし、公平に取り扱う」という指針に基づいて制作しました。あくまでも、NHKの責任で制作・放送したものです』という。要するに、番組改変はＮＨＫの自己規制で、安倍や中川の介入の結果ではないという。事前に番組内容を報告し、「公正にやれ」と言われて、みっともなく番組を改変して訳の分からぬものとしたが、これは「ＮＨＫの責任」でしたことだから、政治的圧力による結果ではない、と言うのだ。

また、『NHKでは、多くの番組についてなるべく多くのかたにご覧いただくため、事前の番組広報を行っています。与野党の国会議員に対しても、番組のねらいや趣旨を予算編成や業務計画等の説明の際にお話することがありますが、話の内容はこうした番組広報の範囲を超えるものではありません。この番組でも同様でした。NHKの番組編集の自主性を当然の前提として、話をしたものです』とも。ここには、権力者と市井の市民との区別がことさらに曖昧にされている。

そして、今日、衆院総務委員会でＮＨＫの予算審議。このテレビ放映を瞥見したが、やっぱり「こりゃダメだ」。番組改変問題についての反省がない。権力に対抗する姿勢、権力の介入を許さずとする姿勢が微塵も感じられない。安倍や中川、自民党に気兼ねして、反省もできなければ、今後は議員に介入させない、とも言えないのだ。どう見ても、「こりゃダメだ」。
　
受信料の支払い拒否件数が、１月末で３９万７０００件、２月末に５６万件となるとの見込み、そして３月末には７０万件程度になる可能性と、ＮＨＫ側からコメント。さもありなん。今のままではもっと増えるだろう。

「なんでも賛成」の自・公がＮＨＫ予算案を承認、民主・共産・社民の野党３党がそろって反対に回った。まだ、野党健在である。だが、麻生総務大臣が不気味な発言。「ＮＨＫには、国民からの信頼回復に努力をしてもらわねばならない。やれるまでやって、事態が改善しない場合には、それなりのことを考えなければならない」
受信料支払いの強制あり得るというニュアンス。ＮＨＫだけではない。政府・与党も、こりゃダメだ。


2005年03月16日（水）
横浜事件再審開始を喜ぶ　　

横浜事件の再審開始が確定した。横浜地裁再審開始決定に対する検察側からの抗告申立を東京高裁が棄却決定し、これに対する最高裁への特別抗告期間が満了したため。司法界の快事である。

これによって横浜事件の再審が開始される。このご時勢で、横浜事件があらためて司法審査の対象とされることには、大きな意義がある。

横浜事件とはなんであったか。野蛮な天皇制政府の言論弾圧事件であり、典型的な治安維持法被告事件であり、すべてを共産党の仕業に結びつけた弾圧手法の典型でもある。今の時期に、このような弾圧事件を繰り返すことのないよう、教訓を引き出さなければならない。

この事件の弁護団は大長老弁護団である。
森川金寿弁護団長以下、環直弥、斎藤一好、竹澤哲夫、新井章、向武男等々。私と同世代の大島久明弁護団事務局長を除けば、９０代・８０代・７０代の諸先輩。再審を望んだ元被告らも横浜事件に人生を掛けた。弁護団の顔ぶれも、同じく職業人生を掛けての弁護活動である。その意気、その執念を学ばねばならない。

横浜事件で最初に再審が申し立てられたのは１９８６年。今回が、第３次請求となる。当初は、拷問の有無などを争点にした申立だったが、「当時の裁判記録が消失し、事実確認ができない」として請求が棄却されている。
第３次再審請求では、「ポツダム宣言受諾により治安維持法は失効していた。適用法令が失効後に言い渡された判決であることは再審開始事由となる」と主張した。横浜地裁は０３年４月、この主張を認め再審開始を決定。これに対し、この度の東京高裁決定は、別件の訴訟記録と当事者の手記などを根拠に、拷問があったと認めた。それゆえ、有罪の根拠とされた自白の信用性に疑問があるとして再審開始を認めたのだ。

検察庁は、いたずらに争うのではなく、真相解明に意を尽くすべきだろう。それが、公益を代表する検察としてのあるべき姿ではないか。


2005年03月17日（木）
ディズニーランドはすばらしい？　　　

後輩筋の中堅弁護士と話が弾む。向こうは赤と白のワインを、相当量きこしめしている。私の方はウーロン茶。医師尋問で疲れた日の夜でもある。彼我のテンションの落差は覆いがたい。

「ところで、東京ディズニーランドに行ったことがありますか」
「唐突だね。そんなもの、行ってみたいと思ったこともない」
「その態度がよろしくない。ぜひ、行くべきですよ」
「そんなことを言うところを見ると、ちょくちょく行ってるの？」
「僕は、独身時代から浦安に住みついて、毎年、年間パスポートを買っています」
「信じがたいね。あんな人混みまっぴらだし、行列を作るのもごめんだね」
「行ってみれば、大勢の人が来る訳が分かりますよ。人々が行列をいとわない理由もね。あすこで働きたいという若者がたくさんいるということも納得できますよ」
「その秘密はいったい何だと言いたいの？」
「考えてみてください。社会主義は結局ディズニーランドを作れなかった。中国人もベトナム人も、金正日の息子も、ディズニーランドを見たくてしょうがないんです。自分の国にはそれがない。アメリカの資本主義がそれを創った。それが世界を席巻した」
「資本主義が生み出したエンタテインメントというわけか」
「いかにして顧客を楽しませるか。娯楽消費者の利益に徹するところに、ディズニーランドの真骨頂がある。来園者をけっして飽きさせない。リピータを大切にして、演しものは３か月で総入れ替えになる。いつ行っても、何度行っても飽きることがない」
「大衆消費社会の中では、エンタテインメントも、企業のお仕着せとなる見本じゃないの」
「いや、資本主義の健全さ強さが表れていますね。資本主義が創り出す文化的多様性の象徴‥。克服すべき対象としても、現実に行ってみなくちゃあ‥」

その会話が昨日のこと。今朝の朝刊に、「東京ディズニーランドと東京ディズニーシーの年間パスポート保有者の個人情報が流出した問題で、両施設を運営するオリエンタルランド（本社・千葉県浦安市）は１６日、計１２万１６０７人分の個人情報が流出した可能性が高いと発表した」（毎日）という記事。よいことばかりでもなさそうだ。

考えてみれば、ディズニーランドは消費者大衆を享受者とする受け身の文化の代表格。大衆自身が文化の創出者となる契機を持たない。けなすつもりは毛頭ないが、ありがたがるほどのものでもなかろう。熱心なお勧めだったが、私がディズニーランドに入場料を払うことは、永遠にないだろう。


2005年03月18日（金）
ライスさん、そりゃないよ　　

常の世に「強者の論理」というものがある。
経済的強者は市場自由化の徹底を求める。弱肉強食を当然とする。
政治的強者は多数決の万能を言う。少数者の人権を顧みない。
軍事的強者は先制的自衛権を主張する。暴力による国際政治の肯定である。
強者の横暴を合理化する「強者の論理」には、徹底した批判が必要だ。文明とは、強者の横暴を許さぬことと同義なのだから。

ときに、「強者の非論理」というものがある。
自国を神州とし不滅と称える。
他国の地を「日本の生命線」と言ってのける。
大東亜共栄を掲げて近隣諸国を侵略する。
戦時性暴力を「商行為」という。
「番組改変の要求などしていない。公正・中立を求めただけ」。
「思想良心の自由を侵害などしていない。学習指導要領の遵守を求めただけ」。
市場の自由化を唱えつつ、自国の輸入障壁を高くする。
民主化のために殺戮を辞さない、‥‥。
「強者の非論理」には、論理の一貫性・整合性がない。普遍性に欠け、通じるのは身内だけの話。ゴロツキのゴリ押しと変わらない。あの、東京都「非教育委員会」と同様である。論理的な批判だけではなく、抵抗が必要だ。

今晩、ライス国務長官が来日する。携えているものは、「最強者の論理」「最強者の非論理」である。北朝鮮核問題やトランスフォーメーションについては別の機会に言及するとして、牛肉輸入早期再開を求めているのは「強者の非論理」の典型。ゴロツキのゴリ押しの鉄砲玉役を国務長官自らが演じている図である。アメリカとは、何と慎みのない非文明国なのだろうか。

資本主義の合理性は、究極において消費者の利益を実現するという建前に依存している。日本の消費者に安全性の確認されない牛肉を食わせろ、という圧力のどこに正当性があるのか。安全な消費生活に優る価値はないのだ。アメリカもＢＳＥの危険を根拠に、カナダ牛の輸入制限をしているではないか。しかも、議会との連係プレーで、「牛肉輸入を再開しなければ、経済的な制裁措置を発動する」との脅かしである。私は、けっしてナショナリストではないのだが、「日本人を馬鹿にするな」とも言いたくなる。

アメリカ畜産業界のセールスウーマンに対して日本政府が歯の浮くようなお世辞を言ってはならない。ゴロツキの脅迫に屈して、日本の消費者の安全と安心を売り渡すようなことがあってはならない。「脅しに屈してはならない」とは、かつて政府が口にしたことがある言葉だ。二枚舌を使うことのないよう、厳重に監視しよう。

島村農水相は、２月２５日の衆院予算委員会で「肉牛の全頭検査は世界の非常識」と言ってのけた。駐日アメリカ大使から要請を受けて、「彼の気持ちにもこたえなければいけない」と思っての発言だという。日本国民の命や健康より、アメリカの要請を優先する姿勢。一昔前にはこのような人物を売国奴と呼んだはず。


2005年03月19日（土）
「女神が微笑むまで」　　　　　　

辻公雄と言えば、知る人ぞ知る活動派弁護士。大阪弁護士会に所属して、市民オンブズマン・公益通報者支援・司法改革活動で知られている。その辻さんから、また自著が送られてきた。「女神の微笑み」というタイトルである。

辻さんが精魂込めて取り組んだテーマが、弁護士報酬の敗訴者負担問題。市民の民事訴訟へのアクセスを阻害する制度改悪として徹底してこれを批判し、運動の先頭に立った。日弁連の敗訴者負担問題対策本部長代行（本部長は、日弁連会長）を務め、廃案を勝ち取った立役者の代表格となった。

彼の活動は徹底している。その一つの手法が、敗訴者負担問題についての自費出版である。資料と自分の意見とを単行本として出版し、これを無料で配布する。これによって、制度導入反対の論陣を張り、世論の喚起をはかる。何よりも、そこまでするその熱意が人を動かす。

彼は口にしないが、この出版には毎回２００万円や３００万円はかかっているはず。これを、節目節目で繰り返した。
「司法の未来像作りは我々の手で」（０２年７月発行）
「敗訴者負担阻止は司法環境作りの第一歩」（０３年３月発行）
「敗訴者負担合意法案が庶民を欺いて舞台に立っている！」（０４年４月発行）
「１１０人のパプコメ」（０４年９月発行）
そして、今回０５年２月２５日付の最近刊が、「女神の微笑み！　敗訴者負担法案が廃案に　ー日弁連と市民の頑張りが国会を動かすー」。運動勝利記念の発刊である。これも無料配布。私のところにも３０冊が届いた。これまでの発行費用総額は１０００万円をくだらないはず。こういう人がいるから、日本の民主主義はまだまだ健在なのだ。

１２月３日に敗訴者負担の法案が廃案になった。その翌日、１２月４日に彼は生まれて初めてゴルフのホールインワンを経験したそうだ。これが、「女神の微笑み」というタイトルの所以だそうだ。こういう人がいるから、この世は楽しい。

実はこの人、私と同郷。大阪府立富田林高校の出身。私は、富田林市立第一中学校を出ている。成績優秀な友人の多くは富高に進学した。私は地元の私立高に。もし私が富高に進学していれば、辻さんの２年後輩で、同じ時期に同じ高校に通ったことになる。その後、辻さんは京大法学部に学んで２０期の弁護士となった。私は２３期である。

「無限に続く砂漠に目途もないまま飛び出した敗訴者負担反対の旅は、女神の微笑みで一応のピリオドを打つことができ、市民の司法へのアクセス制約を防止し、官による弁護士統制を阻止できました。皆様の暖かい思いやりとご支援に心から御礼申し上げます。今後は戦争阻止、平和運動を、と思っています」
「女神の微笑み」の帯の一文。今後は、イラク派兵反対・改憲阻止などのテーマで著書が続くことになるのだろう。ぜひ、頑張っていただきたい。


2005年03月20日（日）
イラク開戦から２年　

２年前の今日、米英軍のイラク攻撃が始まった。「衝撃と恐怖」作戦が開始され、地上軍がクゥエート国境を越えてバグダッドに向かった。このニュースは、私にとっても大きな衝撃と恐怖だった。

国際社会が一応の文明化を遂げた現在、かくも無法な、かくも国際法と国際世論に背を向けた先制攻撃が可能とは思っていなかった。Ｐ５（常任理事国５国）の３カ国、仏・露・中の反対を押し切り、世界中で盛りあがった空前の反戦デモを無視して、主権国家転覆に向けての文字どおりの侵略行為が可能とは信じがたかったのだ。ギリギリのところで、開戦は避けられるのではないか‥。今にして思えば‥、まことに甘かった。

「戦争のために軍があるのではない。軍と軍事産業のために戦争が必要なのだ」とは至言である。対イラク先制攻撃はアメリカの産軍複合体にとって不可欠な戦争であり、そのためにあらゆる口実が仕組まれた。今にして思えば‥、のことである。

パウエルは安保理の席上で公言したものだ。「これがイラクの大量破壊兵器の証拠写真だ」。後にこれがウソと分かってからも、ブッシュもラムズフェルドも、少しはマシな人物かと思わせるところのあったパウエル自身も、腹を切ろうとはしない。恥を知らないなどと言うも愚か、開戦の理由などどうでもよかったのだ。

この２年で殺戮されたイラクの市民の数については、１万人説もあれば、１０万人説もある。そして、攻撃した側のアメリカ側にも、１５００人の死者が出た。負傷兵は１万１０００人を超えている。逃亡兵・戦線復帰拒否兵も多数にのぼるとの報道があるが、その数については明らかでない。

ブログ・「バグダード・バーニング」を書き続けているリバーベントは、イタリア人記者ズグレーナに対する米軍の銃撃について、現地から次のように言っている。
「私には、アメリカ人がこの事件にどうしてそんなにもショックを受けたのか、わからない。どこがショック？　ズグレーナの車が銃撃されたこと？　アメリカ人がイタリアの諜報員を殺したこと？　アブグレイブ、殴打、拷問、何ヵ月もの拘束、窃盗、レイプ・・・イラクで起きたことすべてを考えてみてもなお、この最新の事件はそんなにショックかしら？　それとも犠牲者がイラク人でないからショックなのか？」
多くのイラク人が、米占領軍に「誤射」されたり、殴打、拷問、何ヵ月もの拘束されたりという２年間だったのだ。

ブッシュのアメリカは、イラク攻撃で何を得て、何を失ったか。得たものは、まだ見えない。あるとすれば、「真の意味でのならず者国家」という拭いがたい刻印。失ったものは明らかである。開戦前には、かすかながらも存在していた世界からの信望。民主主義国としての尊敬の余韻。

同時に、日本のあり方を考えねばならない。このぶざまで失敗続きのアメリカ、世界の悪役となったブッシュ政権におもねることが得策であるはずはない。もう、アメリカを盟主とする有志連合にとどまるメリットはない。一刻も早く、イラクからの自衛隊撤退の意思を明確にすべきである。


2005年03月21日（月）
「主婦連たより」は平和の便り　

主婦連（正確には「主婦連合会」）のイメージについては、私に根拠のない誤解の時期があった。老舗であるが政府側から見ての「安全な消費者団体」という‥。

最初に、主婦連の方に接したのは、財団法人日本クレジットカウンセリング協会の評議員会の席上。私のとなりに元主婦連会長の高田ユリさんがいらした。毎回、臆することなく、堂々の発言をされていた。私も、必ず発言することを心掛けてはいたが、こちらは専門分野。高田さんにとっては、消費者与信の問題についてはなじみがなかったはず。それでも、問題点を正確に把握しようとの熱意に打たれた。

その後、ＰＬ法制定運動や製造物責任事故問題で、清水鳩子さんと親しくなった。弁護士報酬の敗訴者負担問題では手を携えてご一緒に活動した。日民協の催しにもパネラーとしてたびたびお招きし、「法と民主主義」誌上にも登場していただいた。多くは、消費者問題の切り口から、司法改革問題を語る場面でのこと。

その清水鳩子さんから、機関紙「主婦連たより」への寄稿依頼があった。テーマは消費者や司法ではなく、憲法改正問題だという。３回連載で、平和憲法擁護の立場での一文をとのこと。ありがたくお受けした。で、あらためて、主婦連のホームページをのぞいてみた。

運動方針を拝見して、主婦連を見直した。次のとおりである。その順序にも留意したい。
△世界に誇る平和憲法の理念をかかげ、平和を守るために行動します。
△主権者は私たち。生活者優先の消費者行政・政策を求めます。
△あらゆる生活の場で、安心・安全な暮らしをめざします。
△限りある資源、かけがえのない地球環境を守るために、循環型システムの実現を進めます。
△情報化社会でますます懸念される新しい消費者問題に積極的に取り組みます。
△消費者・市民として主体的にかかわり、利用しやすい司法制度をめざします。

まず憲法、そして消費者問題・環境問題・司法問題が主婦連の問題関心であり、運動方針という。私の関心と、まことにぴったりではないか。

本日届いた「主婦連たより」の拙文掲載紙は６６７号。１９４９年１０月１日第三種認可というから、この歴史は重い。掲載された拙文は、「市民の手で平和憲法を守ろう」というタイトル。私の最初の文章は、やや固くて分かりにくいとの指摘を受け、練り直した。おかげで、簡潔なよい文章になっていると思う。

全文は、「主婦連たより」をご覧いただくとして、最後の締めくくりの文章は次のとおりである。
「気をつけなければなりません。憲法改正を口にしている人々の本音はどこにあるのでしょうか。憲法改正は、大きな軍隊をもった強い国を望む人々の願いなのです。それはふたたびの戦争への第一歩。わたしの国が二度と戦争をすることのないように、尊い命や青春を奪われることのないように、まずは憲法を擁護すべきだと考えます。戦争で傷つく立場にある市民が、みんなで声を上げましょう。手遅れにならないうちに」


2005年03月22日（火）
不起立者への事情聴取　　

今年の都立校卒業式での君が代斉唱時不起立者は、これまでおよそ５０人。最終的には６０人に届くかという数。入学式の不起立者がこれに加わる。そして、義務制の小中学校でも、不起立者が出るだろう。ほとんどが新たな不起立者。昨年の不起立者は法的に争っているのだから、敢えて不起立を重ねる必要はない。

弁護団は不起立者を精一杯支援し擁護する。しかし当然のこととして、積極的に不起立を奨励する立場はとっていない。問題は、教員一人ひとりの思想良心の根幹にかかわる重大事。誰も、強制することはできない、止めることもできない。弁護団のできることは、重い不起立の決断を受けとめ、事後にともに闘うこと。

予防訴訟は、原告が不起立を貫くことを前提としていない。むしろ、起立を強制されることの苦しさを強調する訴訟である。起立強制を違法として、「国旗に向かって起立し、国歌を斉唱する義務のないことの確認」を求める訴訟なのだ。必ずしも、不起立でなくても闘うことができるのだ。予防訴訟の参加者は、今年も増える。４００人に達するだろう。訴訟までして、「日の丸・君が代」強制に闘う教員が４００人にもなるのだ。都教委のやっていることは、ゴリ押し以外の何ものでもない。

とは言え、毎年不起立者が出る。不起立→現認→事情聴取→処分　という手続きとなる。今年も、６０人に事情聴取の呼出がなされている。弁護団は、依頼ある限りその全件に立会を要求し、現場に出向いている。昨年は、若手弁護士の大活躍だった。私も、何件かは担当しなければならない。

その事情聴取は本日から始まった。昨年の例に鑑み、今月中に処分を強行する意図が明らかである。言うまでもなく、４月初旬の入学式での不起立予定者に対する牽制策である。見せしめ処分、恫喝処分なのだ。

私も、本日午後２件の立会をした。２件を総合して雰囲気をお伝えする。お断りするが、仮に弁護士立ち会いが認められた場合には、経過の公表が守秘義務の壁に遮られることがあり得る。現実には、事情聴取に弁護士の立会は認められなかった。だからこそ、顛末を報告することができる。

被聴取者　Ａ高校のＢ教員。
聴取者は、都教委人事部職員課管理主事Ｃ氏。他に書記役１名。そして、校長。
立会要請の場所は、目黒の東京都教育研修センター１階ロビー。
１４時２５分にＢ教員とセンター玄関に。

こちらから自己紹介。本人から弁護士依頼の趣旨を述べる。そして、事情聴取の席に、弁護士立会を要求する。
Ｃ「本日の事情聴取は、事実を確認すること、弁明を聞くこと。私と書記役と校長、Ｂ先生の４人だけで行いたい。弁護士の立会は、認められない」
弁「お伺いしたい。今日の事情聴取で、いささかでも本人に処分や不利益がもたらされる恐れはないのか」
Ｃ「私たちは、事情聴取するだけ。事情聴取で明らかとなった事実に処分相当の行為があれば処分になるだろうが、その判断には関知しない」
弁「不利益を被る可能性があると聞いた。立会を求める。法は、基本的人権擁護の具体的手段として弁護士法を作った。とりわけ、権力の恣意によって人権が危ういときには、これを監視するのが弁護士の責務だ。弁護士を依頼するのは、国民の権利である。弁護士はその職責として、現場に立ち会い、法的なアドバイスをしなければならない。飽くまで立会を求める。私は、同席してメモをとるだけでよい」
Ｃ「弁護士の同席は認めない。被聴取者のメモも認めていない」
弁「到底信じがたい。なおさら立会の必要がある」
Ｃ「立ち会いの必要はない。裁量行為である。また、公務についての事実の確認であるので、立会の必要はない」
弁「まったく理解しかねる。裁量とは、弁護士の立ち会いを認めても良し、認めなくても良し、ということだろう。どうして認めないという判断に至ったかの説明にはならない。弁護士立ち会いで何か不都合が生じる恐れあるというなら、ひとつでもあげていただきたい。公務だからということも何の理由にもならない。
ある行為を、教員の側は正当な公務だと考え、教委の側は正当でない公務と考えて紛争が生じている。紛争あれば、弁護士に助力を求めることが当然なのだ。とりわけ権力の恣意的発動が危惧される場合には」
Ｃ「権力の発動なんて、そんなことは考えいません」
弁「とんでもない発言。あなた方のしていることは、権力の発動以外の何ものでもない。しかも、極めて恣意的になされている。これまで、戦後半世紀にわたってなかったことが強行されているではないか。権力の行使をしているのだという自覚を持ってもらわねばならない」
Ｃ「今日は、そんなことではなく、単なる事実の確認ですから」
弁「事実の確認について立ち会いを求めている。事実というのは、無限に多様。切り口次第で、大きく変わる。事情聴取が、どのような切り口でなされるかについて、厳重に監視したい」
Ｃ「これまでも、立ち会いは認めていない。これからも認めない。いつまで経っても平行線だ」
弁「簡単に、平行線だと結論を出さないでもらいたい。教育の場でのことは、よく話し合うことで妥当な結論を見つけ出すべきものだろう。行政全般についてもそれが望ましいのは同じこと。あなた方の言い分は、理屈として体をなしていない。弁護士立ち会い拒否の理由を、誰にも分かるように述べていただきたい」
Ｃ「繰りかえしになるが、裁量と公務。それで、納得できなければ、上司の職員課長に聞いてもらうしかない」
Ｃ（教員に向って）「弁護士の立ち会いは認められません。立ち会いなければ、事情聴取を拒否しますか」
弁「そうやって結論を出してしまうことはないだろう。あなたがここの責任者なのだから、最初から結論ありきではなく、こちらの言い分もよく聞いて、判断してもらいたい。本当にものを言いたい相手は、石原慎太郎であり、横山洋吉だ。しかし、そのロボットになっている君たちにも責任がなくはないのだから我慢して聞いてもらいたい。私は、依頼者は処分されようとしている教職員だけだとは思っていない。教育も、民主主義も、依頼者だと思っている。こんな事態で、こんな仕事をしなければならないことに、君たちは胸が痛まないのか。信念に従った行動をする教員を処分する仕事を嬉々としてやっているのか」
Ｃ「私たちをロボットというのは言い過ぎではないでしょうか。私は胸が痛みませんね。私のすることは、事実の確認と記録だけです」
弁「アウシュビッツで、焼かれる人の人数を数えていただけの人もいたろう。あなたがたも、いったいどのような理念で教育に取り組み、今の事態をどう思っているのか」
Ｃ「今日はそのような論争の場ではありませんから」
　「Ｂ先生、弁護士立ち会いでなくては、事情聴取を拒否されますか」
Ｂ「私は、事情聴取を受けるために来ました。そして、弁護士立ち会いを求めることは当然の権利だと思います。弁護士立ち会いで事情聴取を受けます」
Ｃ「平行線ですから、本日はこれで打ち切ります」
Ｂ「私が、事情聴取を受ける意思があると言ったことは確認してください」
Ｃ「それは、ここまで来られたのですから‥」

この間３０分余。打ち切り時刻は１５時ちょうどだった。


2005年03月23日（水）
お客さん、どちらまで

上野駅のガード下までですか。
東京に出てきたばかりで、道がよく分からないんですよ。指示してくださいね。

訛が分かりますか。那覇から出てきたばかりです。
これでも、この間までホテルマンだったんです。
海洋博のときにできたホテルでしたが、倒産してしまいましてね。
この年では、もう沖縄では働き口がないんですよ。
で、東京に出てきて、たまたま二種免持ってたんで運転手です。
でも、苦しいですね。東京もこんなにたいへんとは思わなかった。

沖縄のホテルですか。
正規の運賃やホテル代払うお客さんなんかいませんものね。赤字覚悟のダンピング続き。いずれ行き詰まるとは思っていましたよ。生き残っているホテルは、徹底した合理化ですね。リストラとアウトソーシング。賃金むちゃくちゃに下がっていますね。それでも、労働組合作って頑張るって発想にはなってませんね。

いま、話題はライブドアとフジテレビの争いですけど、あるところには金はあるんだなって、やりきりれませんね。どこから持ってきた金なんだろうって、溜息が出ますよ。

株のことはよく分かりませんけど、堀江さんニッポン放送の社員からはうんと嫌われいますよね。恐ろしがられているのかな。日産のゴーン社長もね、社員の首切って金儲けして、尊敬されていますよね。だけど、首切られる方はたまりませんよ。リストラすれば、会社はよくなるのかも知れないけど、社会の購買力は落ちるわけでしょ。どうなっちゃうんですかね。

金持ちと、貧乏人とに、どんどん分かれていくんでしょうかね。何か、不安な感じがしますね。景気は持ち直しているなんて、どこの世界のことなんですかね。

はい、お客さん、上野に着きました。お忘れ物のないように。


2005年03月24日（木）
憲法改正国民投票法案学習会　　

本日は日民協憲法委員会の例会。これを拡大集会として、法律家５団体の関係者の参加を得た。報告者は、静岡大学の小澤隆一教授と、鷲野忠雄弁護士。小澤さんは人ぞ知る気鋭の憲法学者。鷲野さんは、元中央選管の委員。

アカデミックな小澤教授のレクチャーと、実務的な鷲野弁護士の法案解説とで、大いに参考になった。参考にはなったが、私には消化不良の面もあり、「法と民主主義」の掲載誌面をじっくり読み返さねばならない。

私は、憲法改正に断固として反対である。もちろん、個人的な好みの問題を言えば、いろいろ注文も不満もある。しかし、その不満は些細なものとして目をつぶることができる。象徴天皇の存在に目をつぶれるほど、擁護に値する積極面を持っているすばらしい憲法なのだ。とりわけ、恒久平和主義・人権擁護の徹底において。このような憲法を頂点とする法体系のもとで法律実務を行うことができることを幸運と考えている。

憲法状況は、現行憲法を改悪しようとする勢力と、改悪を阻止しようとする勢力との対決である。改憲対護憲なのだ。論憲・加憲などと言っている連中は日和見に過ぎない。とりわけ、憲法第９条の恒久平和主義をめぐる争いなのだ。だから、少々の不満に目をつぶっても、絶対に護憲の立場を貫こうと思い定めている。

改憲の内容は、憲法９条と、立憲主義（憲法の本旨を、権力を縛ることにあるとする考え）をなし崩すこと。その他に、家族主義の復活、政教分離の緩和、改憲手続き条項の改正、新しい権利や義務の創設等々。その改正は、憲法９６条に従って行われる。両院の３分の２以上の賛成による発議、そして国民投票による過半数の賛成である。両院の発議の手続きのためには、担当する委員会設置のための国会法改正手続きが必要であり、国民投票実施のためには「憲法改正国民投票法」の制定が必要である。

改憲を阻止するためには、何よりも現行憲法のすばらしさを訴え、企まれている改憲内容の危険性を宣伝することである。それと並んで、必要な手続き法の成立阻止も重要な課題となる。

「憲法改悪を可能とする国民投票法案に反対」という呼びかけで通じる相手なら何の問題もない。もっと広範な人々に耳を傾けてもらうためにはどうすればよいか。「手続き法なのだから、整備しておくこと自体に不都合はない」と考えている人にどう説得すべきか。そのような問題意識での勉強会である。

当然に考えられるものとして、「こんなにひどい国民投票法案には、賛成するわけにはいかない」という訴え方がある。現実に上程されようとしている法案の内容を吟味し、「これはひどい。これではダメだ」と声を上げる。これに対して、会場から発言があった。「このダメなところについて、提案側が徹底して譲歩し、けっしてダメではないむしろ真っ当な投票法案が出てきたときにはどうしますか」。

おそらくは、改憲勢力が本気で正確に民意を反映する真っ当な国民投票法を作ろうという事態はあり得ないというべきなのだろう。仮にあったとすれば、それは憲法改悪の企図を潰す護憲派のチャンスとなりうる。

改憲の内容と手続き、両者ともに急激に煮詰まりつつある。改憲反対を貫くために、両者の動きの正確な把握が必要である。そして、両者ともに、その不当を具体的に訴えていかねばならない。

次回憲法委員会の例会は、４月２８日（木）　１７：３０〜２０：００
分担して、各勢力の改憲についての動向をフォローして、情報と意見を交換する。
自・民・公各党の動き、国会情勢、そして財界と護憲陣営の動きである。
次々回は、５月２６日（木）　１７：３０〜２０：００
この時には、両院憲法調査会の報告書が既に出ている。その徹底分析ということになるだろう。場所は、いずれも日民協会議室。　　


2005年03月25日（金）
朝青龍が負けた　　

私の母校（大阪の私立高校）は、野球だけは強かった。大阪大会でも近畿大会でも、勝ったときには話題にもならず、負けると大きく全国版の記事になった。一時期は、地元のお荷物プロ球団・近鉄よりも強いのではと本気で思ったことさえある。残念ながら、みな昔のものがたり。

負けたことが話題になるとはたいしたものだ。今日、朝青龍に土。初場所初日からの連勝記録が「２７」で止まった。本場所の土俵では今年初めての負けなのだ。強すぎる独り横綱。大相撲の権威と人気をモンゴル人が支えている。

モンゴルを倒すものは、モンゴル。でなければ、グルジアかロシアかブルガリア。そう思っていたのだが、偉いぞ栃東。見せてもらった、東京は下町力士の意地。

とは言え、日本人力士がモンゴル力士に一番勝ったからって、こんなに騒ぐのも恥ずかしい。「ウィンブルドン現象」という言葉がある。英国の経済の衰退を皮肉るときに、この言葉が使われた。ウィンブルドンと言えば、世界でもっとも古く権威あるイギリスの国際テニス大会だが、イギリス人プレーヤーは勝てない。というかまったくお呼びでないレベル。それでも、イギリス人は悠然とウィンブルドンを楽しむ。自国の市場を開放しながら、外国との競争に勝てないことが揶揄された。

振り返って、「大相撲現象」と言うべきだろうか。小錦・曙・武蔵丸というハワイ勢活躍の時代から、日本人力士は分が悪かった。いまや、モンゴルに席巻されている。やがて、横綱大関はすべて外国人力士で占められる。大相撲の国際化であり、ウィンブルドン化である。実は、これに違和感を覚える方がおかしいのかも知れない。女性は土俵に上がってはならないという感覚がおかしいように。

大相撲の国際化は今さらのことではなく、既に日本人力士の時代ではない。年６場所の内、幕内優勝者の外国人力士と日本人力士の数の対比は以下のとおり。

　２００５年　１−０（初場所だけ）
　２００４年　５−１
　２００３年　３−３
　２００２年　４−２
　２００１年　１−５
　２０００年　３−３
　１９９９年　４−２
　１９９３年には、曙が年４回優勝している。

今や、朝青龍時代。だが、彼は私の好みではない。そもそも私の年代の好みではないのだ。悪役に徹した、これまでの横綱にはないタイプ。外国人力士にもないタイプだ。私は相撲には美学を求める。横綱ともなればなおさらのこと。品格が欲しいなどとわけのわからぬことを言いたくなる口だ。この若者にはそんなものの持ち合わせはない。彼にとっては、相撲は格闘技であって、それ以上でも以下でもない。文化としての相撲などと言っても理解の外。

おそらくは、私が古いのだ。朝青龍に惜しみない声援を送る大相撲ファンの感覚に、新しい健全さを感じる。民族差別の感覚を払拭しつつあるのかも知れない。日本人の優越などという根拠のない神話も。


2005年03月26日（土）
第五福竜丸平和協会の今　　

本日は、有明コロシアムの「教育基本法改正反対１万人集会」。そちらにも参加したい思いはあったが、財団法人第五福竜丸平和協会の理事会と日程が重なった。私は、財団法人の監事を長く務めている。当然にこちらを優先せざるを得ない。

ご存じのとおり、水爆実験の被災船・第五福竜丸の船体が、江東区・夢の島に保存されている。３０年前、これを保存せよという市民運動の昂揚を都政が受けとめて、船体を保存する展示館を建設した。東京都からの委託を受けて、船体の展示を中心に平和運動の一端をになう活動を行っているのが、五福竜丸平和協会。

協会は東京都から業務委託料の支給を受ける。必要な人件費相当分。この金額が、かつては年間２３００万円だった。石原都政はこれを切りつめ、現在１７００万円。かつかつの金額である。これに、事業収入・会費収入・寄付金収入などを加えて、協会の反核・平和のための活動が行われている。

年間を通じての参観者合計が１３万人を超える。学校単位の来館者も多い。もちろん入場は無料。ボランティアの説明がなされる。写真やパネルなどの展示物は、年２度は変更となる。特別展も行われる。パンフレットを作り、「たより」を発行し、節目にはイベントも行う。多くの人に支えられて、第五福竜丸は平和のための教材として生き続けている。

今日は、３月末で締められる０４年度の決算見込みについて報告がなされた。ビキニ水爆被災５０年の記念事業の年の決算は、今までにない健全収支となった。思いがけなく、寄付金が多かったのだ。大口寄付者は、船舶通信士労組と女優の吉永小百合さん。

ビキニの水爆実験で被災して死亡した久保山愛吉さんは通信士だった。かつて外洋航海の船舶には通信士の乗船が義務づけられており、久保山さんの死は、通信士たちの大きな関心になった。そのころは、モールス信号習熟が貴重な技術であり、通信士は格式の高い資格だった。が、デジタル時代に通信士在船の義務づけは過去のものとなり、通信士労組は解散することになったのだという。解散に伴う、財産整理にともない、協会に４００万円の寄付がなされたとの報告だった。

そして、吉永小百合さん。焼津での３・１ビキニデーでのイベント出演料を、そっくり寄付されたという。ありがたいこと。

協会の予算規模は、３０００万円に達しない。したがって、これまでは消費税の支払いとは無縁だった。ところが、法改正によって今年からは消費税を納めざるを得ない。東京都から受け取る「業務受託料収入」が１０００万円を超えている以上、税負担は不可避という結論。見込額４５万円となりそう。なんとももったいない。こんなところで、消費税が反核運動を圧迫している。

来年６月１０日が、展示館開館３０年記念の日となる。ゴミに埋もれていた第五福竜丸を守れという市民運動に応えたのが、当時の美濃部革新都政であった。今昔の感に堪えない。やはり今が異常なのだ。早く、都政を正常化したいものだ。


2005年03月27日（日）
がんばれバーレーン　　

話題のバーレーン。国名くらいは知っていたが、ペルシャ湾に浮かぶ島国という以上の知識は持ち合わせていない。で、少し調べてみる。私のようなにわか勉強組が大勢いることだろう。けっこうなことだ。

へー、「バーレーン王国（Kingdom of Bahrain）」が正式国名なのか。王政なんだ。しかし、「２００１年２月に行われた国民投票によって、首長独裁体制から湾岸地域初の立憲君主制へ移行した」ということだ。なかなか、やるじゃない。面積は奄美大島とほぼ同じだって。エー、人口はわずか６７万人。その７割がシーア派、３割がスンニー派。うーん、宗教対立がたいへんそう。

外務省ホームページの解説では「古代バビロニア、アッシリア時代にはディルムーンという名の有力な、貿易中継地であり、またBC3世紀から15世紀にかけては真珠の産地として栄えた。18世紀にアラビア半島から移住したハリーファ家がバーレーンの基礎を作り、1932年には石油の生産を開始、その後近代化を進め、1971年8月英国より独立した」という。なんだか、イメージが湧かない説明。

ワールドカップ・アジア最終予選で、この小さな国が北朝鮮を破った。平壌まで出向いてのアウエイでの話。北朝鮮サポーターの落胆と不満はたいへんなものだったようだ。バーレーン選手諸君、君たちはたいしたものだ。次は、日本と当たる。臆することはないぞ。日本と北朝鮮、実力は同じようなもんだ。３月３０日が楽しみになってきた。

私は、サッカー自体に興味はない。しかし、サッカーを通じての国際間の友好化には大いに関心をもっている。６か国協議のメドはつかなくとも、日本対北朝鮮の２試合は確実に進行する。イランやバーレーンとの試合は、アラブ世界は不気味だなどということではなく、相手も同じ人間だという当たり前の認識をもたらす。交流は相互理解の第一歩。理解は友好へのステップ。そして、友好は平和へとつながる。

だから、私は特に日本を応援しようとのスタンスとは無縁である。今次予選の日本の２試合、本気になって北朝鮮・イランを応援した。徹底して非国民である。

バーレーンの面積は奄美大島ほどで、人口６７万人といえば沖縄（１３５万人）の半分。日本代表が、奄美代表か、北部沖縄センバツチームと闘う図だ。誰だって、バーレーンを応援したくなるではないか。「１億２０００万人の代表」対「６７万人の代表」の闘い。その比、１８０対１である。
選手の一人も知らないけれど、がんばれバーレーン。


2005年03月28日（月）
「クローズアップ現代」の都立高卒業式ルポ　　　

午後７時半、予防訴訟弁護団会議を中断して、ＮＨＫの「クローズアップ現代」を視た。「国旗国歌で教師処分へ　卒業式」とのタイトル。都教委が行っている「日の丸・君が代」強制の現場からのルポである。

実は、どんな番組になるのか心配していた。私たち弁護団への取材はなかった。予防訴訟の当事者や、被処分者の会・被解雇者の会にも、何の接触もなかった。あのＮＨＫである。都教委や校長側の言い分を聞かないはずはない。もしかすると、一方的なものになりはしないか。あるいは、良心的な番組作りに横やりが入ることはないだろうか。なにしろ、このテーマなのだから。おそるおそる番組をみた。

結論から言えば、胸をなで下ろした。多くの人に、問題の深刻さを知ってもらえるよい番組になっていたと思う。事実が素直に出ていた。事実さえ伝われば十分なのだ。番組改変の圧力はなかったと考えられる。

もっとも、不満がないわけではない。限定された取材対象はけっして最前線ではない。もっともっと、教委側の悪辣さが出ている場面はいくらもある。教育の本質に切り込む内容にはなっていない。生徒への取材も考えられたろう。警察と一体のビラ配布妨害の現場も報道して欲しかった。教育長の横山洋吉にあれだけの時間しゃべらせて、こちら側のコメンテーターは出さない。堀尾輝久・樋口陽一・奥平康弘などの学者か、尾山宏弁護団長に反論のコメントをさせる発想はなかったのだろうか。場合によったら私だってよい。

取材対象は、都立深川高校。抵抗運動の特に強いところではない。現に、国歌斉唱時不起立の教員はゼロ、音楽科教員はピアノ伴奏を拒否しなかった。生徒もほとんどが、起立していたようだ。昨年話題になった板橋高校のように、生徒のほとんどが不起立という学校ではない。それでも、多くの教員が、「日の丸・君が代」の強制に不満を持っていること、起立・斉唱の職務命令に従うべきか否かについて悩みを抱えていること、生徒への強制の不合理を映し出している。

「国旗・国歌についての考え方は、教員それぞれに多様である。しかし、教育現場での一方的な強制は反対。これが、教員大多数の意見。なぜなら教育とは多様性を重んじるもの、強制にはなじまないものだから」というのが、番組のトーン。

「生徒には、自分が正しいと考えたことを貫くようにと教えながら、自分は不起立に踏み切れなかった」という教員の悩みは深刻である。現場で、生徒を大切に思い、真面目に教育と取り組む姿勢をもった教員ほど、悩みは深いのだ。

取材記者やアナウンサー、スタッフの都教委に対する批判の心情が見える。公平を心掛けながらも、「何と理不尽な」という思いが伝わってくる。健全な市民感覚が番組に息づいていたと思う。横山洋吉教育長も、賀澤恵二・高等学校教育指導課長も、完全に悪役となった。

ようやくマスコミが重い腰をあげて、この問題に注目を始めた。深刻で重大な問題として、ＮＨＫまでが取りあげてくれるようになった。たまたま、本日の朝日夕刊は、社会面トップに戸山高校の卒業式を取りあげている。式中、生徒がマイクを握って、「都教委の皆さんにお願いします。これ以上、先生方をいじめないでください」と発言したことをめぐる取材記事。これも、都教委批判のトーンで書かれた詳細な内容となっている。

ようやく、ここまで運動が浸透し、前進してきたのだと思う。勝利の展望が開けるまで、もう一歩なのではないか。


2005年03月29日（火）
日弁連人権大会憲法問題シンポシ゜ウム　　

本日は、午後２時から６時まで、日弁連の人権擁護大会・憲法問題シンポジウムの全体委員会。私は、ここでは聞き役だ。自分が発言しない会議は疲れる。

シンポジウムのタイトルは、「憲法は、何のために、誰のためにあるのか!?ー憲法改正論議の問題点」というもの。今年の１１月１０日、鳥取で行われる。１９００席の大会場が予約されている。この時期にこのテーマ、実にタイミングがよい。

弁護士会の議論であるから、政治的には多様な意見が交錯している。政治的見解を統一することは望むべきでもなく、またできようはずもない。しかし、法律専門家集団として、また、弁護士法が定めた社会正義と人権擁護に徹する職能者集団の見解として、自ずからなる一致点がないはずはない。これまで、日弁連は憲法問題にも様々な発言を積み重ねてきた。その延長上に、改憲問題への発言についてのスタンスが見えてくる。少なくとも、国民に対する正確な改憲論議の枠組みや資料の提供はしなければならない。そして、実務法律家集団として、人類普遍の原理としての憲法価値を踏まえての改憲への意見表明ができないはずはない。とりわけ、立憲主義と平和主義、そして人権尊重の重大性について。慎重に議論は進行している。

本日は、基調報告書の目次建てについての延々たる論議。暫定的な結論は、下記ののとおり。一見してお分かりのとおり、学術論文を書こうというのではない。現実に想定される改憲論の見解を把握した上で、それに的確に対応する分析をしようとするもの。重点項目は、立憲主義・恒久平和主義・基本的人権尊重についての熱いメッセージ。これを、分担して執筆することになる。ほぼ、論点を網羅しているのではないか。

序　章　本シンポジウムの意義　
第１章　憲法と弁護士会の活動の歩み　
　１　明治憲法の特色
　２　日本国憲法の諸原則　
　３　明治憲法下における人権侵害と弁護士会の活動
　４　日本国憲法下における日弁連、弁護士会の活動
第２章　改憲論の現状と背景
　１　改憲論の経緯
　２　1990年代以降の改憲論の背景
　３　改憲を先取りする動き
　４　現在の改憲論と護憲論
第３章　憲法の基本理念とその発展
　１　問題提起
　２　近代国家と憲法の誕生
　３ 憲法の発展
　４ 憲法の規範力の強化
第４章　改憲論とその分析１−（立憲主義をめぐる問題）
　１　改憲案のめざす憲法
　２　憲法の根元的価値の変換─ 「個人の尊厳」から国家・社会重視思想へ
　３　立憲主義への挑戦 ─ 権力を拘束する憲法から国民を統治する憲法への変容
　４　改憲論の時代認識と新しい提案の問題点
第５章　改憲論とその分析２−（平和主義をめぐる問題）
　１　日本国憲法の平和主義
　２　改憲案の主張する平和主義
　３　改憲を先取りする動き　
　４　自衛権、集団的自衛権　
　５　「軍隊」を認めるのか
　６　国際協調主義、国際貢献
　７　憲法と国家緊急権
　８　平和的生存権の意義
　９　国防の義務・責務
第６章　改憲論とその分析３−（基本的人権をめぐる問題）
　１　新しい権利の登場と問題点
　２ 「公共の福祉」を、「公益」や「公共の価値」に置き換えることの問題点
　３　表現の自由、結社の自由の制限など広汎な人権制約原理の導入
　４　信教の自由、政教分離制限を緩和しようとする狙いと問題点　
　５　２４条見直し論と家族を保護する義務の問題点
　６　教育の自由と教育基本見直しの問題点
　７　社会権規定のプログラム規定化と社会的費用負担の責務
　８　財産権の制限の持つ意味
第７章　改憲論とその分析４−（個別の問題点の検討）
　１　国民主権
　２　司法の役割
　４　財政に関する改憲論の持つ意味
　５　改憲論の述べる地方自治
　６　憲法改正
　　　(1）憲法が硬性憲法であることの意義
　　　(2) 改正発議要件を緩和するの問題点
　　　(3) 憲法改正国民投票の意義
　　　(4) 憲法改正国民投票法案の問題点　
第８章　国民的議論のために
　１　憲法は活かされてきたか
　２　改憲の立法事実はあるのか
　３　立憲主義を踏まえた議論を


2005年03月30日（水）
「武富士の闇を暴く」事件勝訴記者会見　

冒頭、弁護団を代表して澤藤から、報告いたします。
本日午前１１時５０分、東京地方裁判所７０９号法廷で、「武富士の闇を暴く」訴訟について民事第３４部の判決言い渡しがあり、我々消費者弁護士側が勝訴しました。完全勝訴と言ってもよい。画期的な判決と考えます。

この事件は、武富士が３人の消費者弁護士と同時代社という出版社を被告としておこした５５００万円の損害賠償請求訴訟です。武富士対策弁護団に結集した弁護士が執筆・編集した「武富士の闇を暴く」という書物の出版が、武富士の名誉・信用を毀損するものというのが請求の根拠となっています。

本日の判決は、この武富士の請求を棄却しました。武富士が名誉毀損と指摘しているこの書籍の３１か所の記載は、ほとんどが真実であり、残る少数個所も真実の証明があったとまでは言えずとも、武富士の名誉を傷つけるものではなく、著者が真実と信ずるについて相当な事情があったといえる、との認定です。ここまでは、当然のこと。取り立てて、記者会見をするほどのこともない。

判決は、さらに武富士の本件提訴自体を違法な行為として、被告とされた４人に対する不法行為責任を認めました。勝訴の見込みないことは容易に分かったはず、敢えて提訴に至ったのは、「批判的言論を抑圧する目的を持って」したものと推認するのが相当、と認めました。それだけでなく、武富士のオーナーである武井保雄氏の個人責任も明確に認めました。この点が画期的という所以です。

本件は、ダーティーな業務を行う大企業が、自社に批判的な言論を封殺する目的をもってした提訴です。金に飽かせての提訴が目論んだものは、消費者事件に携わる弁護士の業務を妨害すること、批判の内容をもつ出版を妨害すること、そのことを通じての批判活動の萎縮効果です。考えてもみてください。５５００万円もの支払いを請求されれば、小出版社やジャーナリスト・弁護士がどんな気持ちになるか。少なからずびびりますよ。仮に、勝訴できたとしても、被告としての応訴活動の負担はたいへんなものです。面倒なことには巻き込まれたくないという心理が働く。それが武富士の狙いです。金に飽かして提訴できる大企業と、資金力や時間的余裕に欠ける小出版社・ジャーナリスト・弁護士たちとの力量格差を十分にご認識いただきたい。

本日の判決は、私たちの言い分に真摯に耳を傾けた優れた判決だと思います。高額請求提訴の濫発という形での出版への妨害、弁護士業務への妨害のパターン蔓延に一定の歯止めを掛けるものとなりました。その点において、本日の判決の意義は高いものと評価します。

もっとも、武富士の違法提訴による損害賠償の認容金額が、反訴原告一人あたり１２０万円で合計４８０万円というのは低額に過ぎるとは思います。が、その高額化は今後の課題。現時点の水準では、すばらしい判決であることを報告いたします。


2005年03月31日（木）
「朝日」よ、おまえもか　　

昨日が、「武富士の闇を暴く」事件判決。その日に、またまた武富士の事件。
派手に今朝の各紙朝刊を飾ったのが、「朝日、武富士から５０００万円」という記事。朝日新聞社が発行する「週刊朝日」が、連載企画記事の「編集協力費」として武富士から５０００万円を受け取っていたというのだ。

武富士は、しかるべきところには金をばらまきたいのだ。もちろん、その効用を計算し尽くしてのこと。金がものを言うことを知悉しているからだ。ばらまきの金を受け取ることは、金がものを言うことを認めることに等しい。金が語る話に耳を傾けようという意思表示でもある。安易に、金を受け取ってはならない。

東京新聞（中日新聞社）は、遠慮なく武富士批判の記事を掲載してきた。その結果、武富士は東京新聞への広告掲載を切った。まだ、盗聴事件発覚前のこと。そのことで、社の幹部から記者に圧力がかかることはなかったとはいう。しかし、不況の中での有力スポンサーを失うことは、経営体としてはそれなりの打撃だったろう。企業からマスコミへに対しては、このような形での「圧力」の行使が可能なのだ。

週刊朝日の問題記事は、５３回も連載されたという。「編集協力・武富士」というクレジットがはいっていなかったことが問題とされているが、そもそも「武富士とのタイアップ企画」に乗ること自体が不見識と言わざるをえない。企業が金を出すのに、相応の思惑のないはずはないのだから。

古来、高利貸しは民衆の膏血を搾って肥え太る唾棄すべき存在である。その最大手の武富士は、民衆から搾り取った金を惜しみなくばらまいた。もちろん、利益を大衆に還元しようというのではない。ダーティーな業務継続に資する限りでに決まっている。朝日は、金を注ぎ込んで損のないばらまき先と見込まれたのだ。これを朝日は受けいれた。「脇が甘い」という程度ではない。批判されてしかるべきだろう。

マスコミだけではない。学会や弁護士が主宰するＮＰＯでも、高利貸しから金をもらった金で運営して平然としているところがある。批判的な記事、論説、研究を抑制し、批判的な弁護士活動に手心を加えてもらえると見込まれての出費以外にあり得ない。それ以外にあるとすれば、既に世話になったことへの謝礼であろう。

批判すべき相手から、金を受け取ってはならない。恩を売られてはならない。借りを作ってはならない。自戒しよう。


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