No.22の記事

憲法の危機とメディアの責任

 東京新聞は12月9日の大型社説「週のはじめに考える」で、「憲法改正のマジック」と題して、内閣法制局が規制しない議員立法で、憲法違反の集団的自衛権の行使を可能にする「下克上法」が計画されている、と警鐘を鳴らした。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/
 新聞各社が掲載した序盤の情勢調査によると、朝日「自民、単独過半数の勢い 民主100議席割れか 維新は50前後」、読売「自民、過半数超す勢い 民主苦戦、維新、第三党うかがう」、毎日(共同)「自民 単独過半数の勢い 民主激減の70前後 第3極は伸び悩む」、日経「自民 過半数の勢い 民主は半分以下も 第3極、浸透に遅れ」、産経「自公、政権奪還の公算 民主激減、第3極も伸び悩み」。
 いずれも、公示も翌々日の6日朝刊で、みんな確かに電話調査をしているのは間違いないだろうが、「まだ決めていない人が小選挙区で半数、比例で4割」(朝日)という中で、果たして国民の選択の材料になるのだろうか。

 東京新聞は特報面で、「『勝ち馬』か『判官びいき』か 衆院選『アナウンス効果』今回は」と話題にしているが、自分で調べて自分でそれを記事にするという行動は、やっぱり「自作自演」といわれても仕方がないのではないか。
 情勢を分析するのは、当然のことで、調べて悪いわけではない。しかし、それならそれを元に、争点を明らかにし、どういう問題が浸透していないか、政策を中心に問題提起をしていくべきで、1人しか当選しない小選挙区制の中で「勝敗予想」に使うのは、これも一種の「垂れ流し」の無責任報道で、自分で調べて騒ぐ、「やらせ」に似ていないか。

 東京の記事にもあるように、中選挙区時代のも「アナウンス効果」が語られた。「○○猛追」「○×互角」は一番よくて、「優勢」「独自の戦い」と書かれると、不利だ、ということなのだそうだ。しかし、小選挙区では意味が変わった。有権者は「どうせ勝ちそうにない」ということだと、投票してくれない。むしろ、勝っていると書かれれば、「勝ち馬」に乗る「バンドワゴン現象」が見られるという。「長いものには巻かれろ」の日本人の意識がそれに拍車を変えているかもしれない。
 そうなると、メディアに必要なのは、これがテーマ、これが問題だ、と場合によっては積極的に自分の立ち位置も含めて、発言していくことではないか。ただ多数に従うのなら、ジャーナリズムはいらない、といっても過言ではないのだ。

 憲法改正、自衛隊の国防軍化、集団的自衛権、交戦規定の創設などといった、タカ派路線を打ち出した自民党は、選挙に入ると、こうした危険な「本音」を隠し、メディアもそれ以上追求しない。「誰に入れたらいいかわからない」という選挙戦。わからなくしているのは、メディアがやっぱり「政局報道」「予想報道」に傾き、本来議論しなければならない問題をクローズアップする報道をしていないことだ。

 私は今回の選挙の隠された争点は「憲法」ではないかと思う。日民協も「憲法改悪をもくろむ候補に厳しい審判を下し、改憲の動きを阻止しよう」と題するアピール発表したが、私も属する日本ジャーナリスト会議(JCJ)は、メディアに関わる立場から、「緊急アピール」を発表した。
 「法の下克上」を公然と行う権力者、知らず知らずのうちに世論操作していることを立ち返って考えず、憲法も「争点の一つ」としか考えないメディア。それを踏み越えた投票行動をどう作っていくか。私たちみんなが問われているように思う。

 日本ジャーナリスト会議のアピールを紹介したい。

<JCJ緊急アピール>
憲法の危機に、憲法を守り活かす勢力の前進を
   2012年12月総選挙に当たって、国民に訴える

 2012年12月16日に投開票される衆議院総選挙に関し、私たち日本ジャーナリスト会議は、この選挙の真の争点が日本国憲法にあることを改めて確認し、憲法に基づく政治の実現を目指す勢力が前進するよう、主権者である国民の皆さんに訴える。

 今回の選挙について、マスメディアの多くは、民主党と自民・公明、それに「第3極」と称するいくつかの保守政党をベースに選挙を描き出している。そこでは、消費税増税と社会保障、原発政策やTPP参加、近隣諸国との領土問題などが争点だとしている。また、全県挙げた沖縄のオスプレイ反対・基地撤去の声は無視に近い状態である。
 これらはいずれも日本の将来に関わる重要な問題である。しかし私たちは、その全ての根幹が日本国憲法にあること、そして今回の総選挙の結果によっては、戦後日本を形作ってきた憲法とその精神を捨て去り、再び戦争をする国に進む危険をはらんでいることを改めて指摘せざるを得ない。問われているのは、改憲勢力が議席を伸ばすのか、それとも改憲に反対し、憲法に基づく政治を目指す勢力が前進するか、である。

 まず、「日本国憲法改正草案」を公表した自民党は、総選挙公約で憲法改正をめざすとし、自衛隊を国防軍にし、集団的自衛権の行使を明確化する「国家安全保障基本法」制定を掲げた。安倍晋三総裁は、戦争を前提として「交戦規定の整備」まで主張している。さらに、「憲法破棄」を唱える石原慎太郎前東京都知事や、「自主憲法大綱案」を掲げる「たちあがれ日本」、「維新八策」で改憲を含む統治機構改革を主張する橋下徹大阪市長らが合流した「日本維新の会」の選挙公約には、「自主憲法の制定」が盛り込まれた。
 民主党も「専守防衛」に代えて「動的防衛力」を唱え、日米同盟の深化と日米軍事一体化を進め、集団的自衛権解釈の変更を打ち出している。さらに、「安全保障基本法」を唱える日本未来の党、「憲法改正の考え方」を持つみんなの党、「加憲」を主張する公明党も含め、今回の総選挙では、改憲を明確に掲げる政党の動きが際立っている。これらの政党が衆議院の多数、特に3分の2の議席を獲得すれば、改憲策動がさらに進む危険は明白だ。表現の自由と知る権利に関わる「秘密保全法案」の浮上も現実味を増してくる。

 かつて日本のメディアは、暴走する軍と「新体制」を唱える政治を押しとどめず、むしろそれを煽り、侵略戦争を推し進めた痛恨の歴史を持っている。日本国憲法は、戦争の惨禍と、2000万の人々の犠牲で生まれた、世界と歴史に対する約束でもある。
 ところが、マスメディアの今回の選挙報道は、こうした憲法の精神に立って政策を論じ、この憲法の危機を伝えるのではなく、「第3極」と称する政党の派手な動きや、すぐに政権に関わらない政党は意味がないかのような「政権の枠組み」報道に終始し、加えて自らによる世論調査で、「勝ち馬」意識を煽るバンドワゴン効果を広げようとしている。

 かつての侵略戦争への反省から生まれた、私たち日本ジャーナリスト会議は、日本国憲法の危機を示す総選挙にあたり、マスメディアが日本国憲法の精神に立ち返り、将来を見通した鋭い批評精神を発揮し、国民の道しるべとなることを改めて強く要請するとともに、主権者である国民がその投票行動で、憲法改悪をもくろむ勢力に厳しい審判を下し、憲法を守り生かす勢力の前進を促すよう、こころから訴えるものである。
 私たちはいま、歴史の岐路に立っている。

2012年12月8日 真珠湾攻撃の71年の日に
            日本ジャーナリスト会議