No.29の記事

ラーメン偏執記

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 ひとつのものを食べ出すと偏執的になる。何度も何日も食べ続けたりする。しばらく間が空いてまたそればかりに目がいく。何年かして私の定番になる。お店もそうである。足繁く通ってぱったと行かなくなったりして、やっと私の店になる。

 ラーメンは昔「しなそば」といっていた。大ご馳走で「しなそばを食べに行く」というのは大変な出来事だった。だいたい外食などしたこともなく、鮨も父の宴会のおもたせ折しか食べたことがなかった。寝ていると姉妹全員起こされてぼーっとしたまま、ちゃぶ台に並んで座り、折ひとつをありがたくいただくのである。私は当時からいかが大好物で、これを狙っていた。からからに乾いたすし飯にもめげずに美味いよりひたすらありがたいの世界だった。

しなそばは町のそば屋さんでいただく。醤油味で鶏ガラスープ。めんは細め、くるくるとふざけたような「なると巻き」とメンマ、海苔にネギ。ネギはうすい輪切りにしてあってちょっとがさがさした。めんも具も食べてつゆもありがたく全部飲む。しなそばの容器は決まった模様でそこには中国風の鳳凰みたいな鳥がいて、縁には「なると」の四角い渦巻き模様がぐるりと描かれていた。色は赤。

 しばらくすると呼び名は中華そばになった。部活の帰りに中華そばを一杯頼んでごはんをつける。それを2人で食べた。スープをおかずにごはんを食べるのである。そして心の友インスタントラーメンはこの系列とは別の次元で君臨していた。

 そして今夢中なのが博多天神新宿二丁目店。日民協から三分、新宿通に面してある屋台風の店である。豚骨スープにキクラゲ。ネギは博多ネギ、メンマ、海苔と味付けたまご半分がのっている。店の入り口に大きな圧力がま。スープは豚骨の臭みも無くクリーミーで私にはすこぶる美味しい。めんは極細めん。スープにからんで美味い。

 机の上には紅ショウガを始め薬味と調味料がずらり。全部を少しずつが美味しいとある。これで500円。まずは何も入れずにスープの幸せに浸る。

 次に替え玉。無料。「替え玉」というとあっという間に皿に盛られて登場する。これをスープに入れてさー好き放題にアレンジしまくる。大変身するラーメンをどんどんと食べる。スープを飲みきり体中が滋養で満たされる気がする。

 昼のシフトのホール料金係のお姉さんは白長靴姿で「ラーメン」と引きずるように言う。「ありがとうございました」も「たー」が異様に長い。バスの車掌さんが持つようなカバンにお金をバラで入れている。

 事務所が近かったら毎日でも食べたい。今でもすぐに食べに行きたい。落ち着いた関係になるまでしばらくかかりそうである。