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清水雅彦の映画評

第0080回 (2007/01/17)
『武士の一分』〜極めて「優等生」的な、物足りない映画

海坂藩で毒見役を務める三村新之丞(木村拓哉)は、30石の下級武士でありながら、妻・加世(檀れい)と中間・徳平(笹野高史)と幸せな生活を送っていた。そんなある日、新之丞は毒見後、貝の毒にあたって失明する。今後の新之丞の生活を心配した加世は、番頭・島田藤弥(坂東三津五郎)に口添えを頼んだところ、島田は加世の身体を要求し、加世は応えることに。2人の関係を知った新之丞は加世を離縁。その後、島田が口添えをしていなかったことを聞いた新之丞は、島田に果たし合いを申し込み……。

本作品は、藤沢周平原作・山田洋次監督による時代劇映画3部作の3作目。江戸時代に決してぜいたくをするほどの身分ではなくても、日々の生活を誠実に生きた人々を描きます。他に主要なキャストは、桃井かおり、小林稔侍、緒形拳など。

山田監督は「つましい日本人」をテーマにしたようですが、観客も「昔の日本人はよかった」と感じるかもしれません。主要キャストも悪くはない演技をしています。中高年層に山田監督ファンが多いですし、木村拓哉を使ったことで多くの若い人たちもこの映画を見るでしょう。内容的にも興行的にも「成功」といえるかもしれません。

しかし、私は不満です。悪く言えば、誰もが安心して見ることができ、そこそこの満足感が得られる「お行儀の良い、優等生的な映画」ともいえます。山田監督自身も封建時代が良かったと考えていないとはいえ、身分制社会の人間関係がモデルにはなりえません。現在の視点から批判するのは酷とはいえ、当時の支配体制に疑問を抱かず、妻と自分への凌辱でしか怒らないような人間にはなりたくありません。「一分」だけではなく、「九分」闘い続ける生き方もあるはずです。この映画評でも色々な映画を取り上げていますが、映画を通して国家権力に果敢に挑む映画監督は世界に多々います。日本でも現在、教育基本法改悪や改憲、格差問題など色々な社会問題があります。映画の場を離れてたまに社会的な発言をすることもある山田監督ですが、もうこの手の映画はやめませんか。クリント・イーストウッドやケン・ローチのような映画を作ってみませんか。

2006年日本映画、上映時間:2時間1分、全国各地で上映中
http://www.ichibun.jp/

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