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「元児童自立支援施設職員の」とあるのは「児童自立支援福祉に詳しい」です。 以上のように訂正させていただきますとともに、お詫び申しあげます。 「法と民主主義」編集委員会 |
■企画にあたって
「法と民主主義」四〇〇号は不穏な改憲の嵐の中で発刊される。嵐は強烈である。私たちの憲法はその力で根こそぎ倒されるのか。嵐に抗してしっかりと地に根を張って立ち続けられるのか。重ねてきた護憲の願いの真価が問われる時である。
創刊は一九六二年一月号、そのときから四三年、創刊の時生まれた子供は不惑の時をすぎ四三歳になる。その若き父や母は七〇歳古稀を迎えているだろう。戦後の歴史は世代を重ねて積み重ねられて来た。護憲の思想も人から人へ、宝物のように手渡されてきた。育った時代も環境も様々な私たちがどんな風にその思想を伝え共有しながら今を生きているのか知ることは、改憲の嵐に力を合わせて戦える確信になると思う。切っても切れない親子間での縦つながりの思想の承継は、横つながりで広汎な改憲阻止運動の縦糸の一本として織り込まれるのである。
ご登場いただいたのは九二歳から一七歳まで九世代。親子の関係などと言う気恥ずかしい私的なことに踏み込むこの乱暴な企画に協力をいただいた。というより強引に登場させてしまったというほうが正しい。おかさまで重層的な護憲の願いが私たちを励ます企画になりました。見事な親子関係にちょっとうらやましくもなりました。
九世代、九条、という数字あわせは思えばなかなか妙なのである。九世代の力を持ってすれば改憲など何のその。「九条の会」に対抗して「九条九世代の会」と命名したいくらいである。「どうだ」と改憲派にいばってやりたいのである。
編集委員会の力だけではとてもこのインタビューを作り上げることはできなかった。編集者でライターの本田不二雄氏の協力があってこそである。内輪の面白話にならずに、斬新な切り口でまとめていただいた。じっくりお読み下さい。
■座談会にあたって
憲法改正のプログラムが進行中である。
政権与党も、財界も、右派マスメディアも、改憲への地ならしに懸命である。
その状況下で、両院の憲法調査会報告書が出た。衆議院憲法調査会の報告書が四月一五日付、参議院憲法調査会報告が同月二〇日である。改憲情勢に最も影響度の高いものとして衆目せざるを得ない。五年に及ぶ調査の結果は、これまでの各界の意見や運動の一つの集約点であるとともに、これからの論議の出発点でもある。
理論的にも、実践上も、この両報告書の読み解きは極めて重要である。「法と民主主義」四〇〇号記念企画として、三人の憲法研究者に座談会をお願いした。
お集まりいただいたのは、小沢隆一・静岡大学教授、山元一・東北大学教授、只野雅人・一橋大学教授。タイトルは、ズバリ「両院の憲法調査会報告書から何を読み取るべきか」。
座談会は三部構成となっており、各出席者からテーマごとに報告をいただいて、その問題提起をめぐっての討論が行われている。最初が、小沢教授からの「憲法調査会報告書の基本的特徴と平和主義をめぐって」の報告。報告書の基本的特徴が平和主義をめぐる問題点に最もよく表れているところから、調査会報告への総論的な評価と平和主義をともに論じていただいた。次いで、山元教授から、「立憲主義と人権をめぐって」と題する報告。最後に、只野教授から「統治機構」をめぐっての論点について報告。
報告Tでは、小沢教授から「調査会報告書は、雑駁な調査活動のすえに極めて恣意的な操作による『多数意見』を創出して、改憲への道筋をつけた。しかし、それは確定的な道筋とはならなかった。最大の狙いは集団的自衛権の容認にあったが、堂々と海外派兵を正当化する論理には到達できなかった。結局は弱点を露呈した報告書となっている」との貴重な指摘がなされた。他のおふたりも、ほぼ同意見。
報告Uでは、山元教授から、「近代立憲主義の妥当性を再度問い直してみる必要があるのではないか。『憲法を暮らしの中へ』という魅力的なスローガンは、国家に対峙する自由権的基本権を想定していない。企業や、家庭、地域社会で守られなければならない人権の権利性は国家に対するものではなく、近代立憲主義とやや遠い位置にある。環境権ともなれば、国家だけでなく国民全体の行為規範とすることに違和感はない。憲法の名宛人を、国家ではなく国民を含むものとすることに魅力を感じる」という刺激的な発言をめぐって討論があった。
報告Vでは、只野教授から、政党条項・首相のリーダーシップ強化・「政」による「官」の統制・参議院改革・国民投票・天皇制のそれぞれについて言及。イギリスをモデルにした内閣中心構想が進展しつつある、との専門的な分析がなされている。
憲法改正の策動は、ひたひたと押し寄せてはいるけれども、けっして改憲勢力も自信をもっている訳ではない。改憲の作業は、具体化すればするほど、難しさも鮮明になってくる。わが国の平和運動、平和を求める国民意識の水準が、改憲を容易ならざる作業としているのだ。厳しいせめぎ合いではあるが、十分に展望はある。そのことが、改憲策動の主舞台と目論まれた各院憲法調査会の報告書から見えてくる。
一 「法と民主主義」の歩みと四〇〇号のお祝い
法と民主主義は日本民主主義法律家協会 の機関誌であるが、同時に法律家運動における理論的、実践的役割をもつ法律誌として今日市販を広げている。
この法と民主主義(以下、愛称である「法民」といいます)が本年七月号をもって創刊四〇〇号を迎える。任意加入の法律家団体が市販を含む機関誌を四〇年間にわたり四〇〇号継続発行することは、驚異的であると言っても過言でないであろう。それは、日本民主法律家協会の全国の会員が寄稿のうえでも、また財政的にも支援し続け、さらにその毎号の編集の責任を委員らが担い、承継してきたことのたまものである。
一九六一年に結成した日本民主法律家協会の当初の機関誌名は「民法協」であり、一九六五年一号にその一号が発刊され、それが四四号まで続き、四五号から改題されて、今日の「法と民主主義」となり、通算して四〇〇号を迎えるものである。
この間、法民は一九七五年に一〇〇号を迎え、その九月の記念号に戦後三〇年を省みて「戦後法律家運動と私」と題し、戦後の法律家運動を総括した。続いて、一九八五年には二〇〇号を記念し、一四項目の分野をおおける法律家の諸活動を総括し、間近となった二一世紀に向けて運動を展望する座談会をもってまとめた。三〇〇号記念は一九九五年であったが、戦後五〇年あいまいのままに放置されてきた「日本の戦争責任と戦後補償」を特集し、日本の侵略によって大きな被害を与えたアジア諸国の人々との真の和解には心からの謝罪と補償とが不可欠であり、それを法律家が全国的な運動及び裁判として今日担っていることを示した。
そして、今日の四〇〇号では、本年四月に国会において憲法調査会報告書が可決されたことにより、憲法「改正」の策動は憲法状況調査の段階から憲法改正案の審議段階に歩みを進めている状況のもとで、法民がこの一年掲げ続けた特集「シリーズ・改憲阻止」の総括としても、柱となる改憲を許さない人々の全国的な「世代を超えた」親子間の承継と発展が必要であると考え、代表として法律関係者のそれを特集したものである。
右の想いが、会員及び読者の御批判に耐えられれば、幸いである。
二 法民の役割と五〇〇号への期待
法民が会員の機関誌であるともに、市販の購読を増すにつれて、日本民主法律家協会も、その会員の幅を広くし、多くの職種の法律家を会員に迎えてきた。弁護士、学者・研究者をはじめ、税理士、司法書士、そして裁判所職員の層がそれである。今後とも、職能的に関心の深い問題の特集などを通じて、これらの仲間を段階的に定期購読者から会員に迎えていく継続的努力も必要であると考える。
その意味で、法民の役割の第一は、改憲問題をはじめとくに法律家に関心の深い今日の政治的、社会的、経済的諸問題を広く会員に知らせつつ、同時に協会の会員数を維持し、その増加に向けて努力していくことが大切である。
しかし、会員数の増加は、何よりもこれに合わせた協会自身の目標をもった努力が必要であり、法民と合わせた相互の一体的、継続的努力が求められていると考える。
とくに、改憲の策動が、大新聞の改憲阻止活動記事の不掲載にまで及んでいる事態にあって、改憲阻止のため、法民が情報と理論的武器、実践例などを広く掲載して伝達し、法律家をはじめ国民諸階層を励ます役割を果すことはいっそう重要となると考えられる。
三 九条運動の拡大支援
九人の著名人による九条の会の発表によれば、昨年六月発足後この一年間で、全国の地域、職能、事業所内に二〇〇七の九条の会が誕生したと伝えられている。全国的にも、とくに東京などの数は未だ少ないと考えられるが、今後状況の深まりとともに、市民のなかにも、組織のなかにもさらに多くの九条の会がつくられ、改憲阻止の運動が網の目のように広がることが期待されている。
六〇年安保改定の際に、雑誌、パンフ、ビラなど多くの形で、安保改定の危険性が訴えられ、その阻止活動の重要性が語られるなかで、安保反対国民運動が盛り上げていったことを考えれば、来たるべき事態には、法民は特集号の外、パンフ、リーフ、ビラなどを発行していくことも必要となろう。
日本民主法律家協会は、法律家の間に九条の会を広めるとともに、九条改憲の阻止を中心に全力をあげる決意である。
四 記念すべき法民賞の設定と第一回の授賞式
日本民主法律家協会は昨年総会において、「法民」の充実を願って協会に事務所スペースを提供された相磯まつ江弁護士を記念して、多くの会員の寄付をもとに「法と民主主義賞」基金を設定し、これまでの一年間法民誌に掲載した中から選考委員会による選考の結果、最もすぐれた記事の努力に対し、第一回・法民賞を授与することを決定した。
これと同時に、法律家としてこの間日本人のイラク救援活動に成果をあげたこと、また市民と連帯した弁護士費用の敗訴者負担を廃案にした活動に対しても、それぞれに法と民主主義特別賞を授与することとなった。
授与式は、法民創刊四〇〇号お祝いの集いと同じ本年七月一六日協会第四四回定時総会で行われるが、今後毎年継続し、「法民賞」を通じて法民がいっそう充実し、また会員の執筆・報告などの活動を励ますものとなることを願っている。
このように、「法と民主主義」の創刊四〇〇号は、日本民主法律家協会にとって歴史的意義が大きいだけでなく、改憲策動が強まるなかで、これを武器として、改憲阻止に果たす役割が大きく期待されている。
この意義ある四〇〇号を記念して、日本民主法律家協会をあげて、会員と法民の購読者とともに盛大に祝いたいと思う。
©日本民主法律家協会