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 法と民主主義2010年5月号【448号】(目次と記事)


法と民主主義2010年5月号表紙
特集★安保改定50年 今 米軍基地と闘う
特集にあたって……編集委員会・丸山重威
◆「米軍再編」と在日米軍基地──その全体像と闘い……坂井定雄
◆世界は軍事同盟から脱却する──築かれ始めた平和戦略……川田忠明
◆軍事基地に抗う──世界の反基地闘争……山口 響
◆憲法を武器に基地問題の核心に迫る……内藤 功
◆基地と地域経済について……川瀬光義
◆民主主義と自治を守る闘い……井原勝介
◆「変わる自衛隊」と米軍・基地……半田 滋
◆沖縄基地重圧の深層──命の二重基準と民主主義の熟度……松元 剛
◆基地騒音公害訴訟と運動の進展……中杉喜代司
発信─米軍基地の実態
◆普天間問題に揺れるミサワ……斉藤光政
◆神奈川の基地──知事訪米から考える・米軍再編と地位協定……武田博音
◆米海軍横須賀基地の原子力空母母港化に対する市民運動……呉東正彦
◆平和で静かな空を──厚木基地の闘いから……藤田栄治
◆自衛隊との連携強化が進む横田基地……土橋 実
◆米軍と陸自の司令部移駐にゆれるキャンプ座間……中澤邦雄
◆岩国市民にのしかかる米軍再編……久米慶典
◆増強され続ける佐世保基地……山下千秋
◆今、なお戦争状態の沖縄──嘉手納基地の闘い……池宮城紀夫
◆代替なき基地返還と海兵隊の完全撤退を……伊波洋一
◆沖縄への連帯 FROM ワシントン──日米市民米紙意見広告共同キャンペーンを通じて……田場暁生


 
★安保改定50年 今 米軍基地と闘う

特集にあたって

 沖縄・宜野湾市の米軍普天間基地の「移転」が問題になっている。一九九六年一二月の「沖縄に関する特別行動委員会」(SACO) 最終報告から一三年間。移転先に決まっていた、名護市辺野古の沖合の埋め立ては暗礁に乗り上げ、民主党が「県外または国外」への移転を公約し、政権を取った民主党・鳩山政権による公約実現の見通しが立たないでいるためだ。移転先の候補に挙げられた自治体での抗議活動も目立つ中で、閣僚たちの発言は右に左に揺れ、それがまた波紋を広げている。
 普天間問題の根源は、それが単に基地の「移転」問題として捉えられ、安全保障を含めた日本の将来や、米軍基地をどうするのかという本質的な問題を欠いたままの論議を続けているところにある。
 一九五一年九月、サンフランシスコ平和条約と同時に、吉田茂首相一人が署名して成立した日米安保条約は、米軍による占領が終了した後の軍事的空洞化を避けようと米軍の駐留を認めるものだった。
 しかし、東西対立の中、朝鮮戦争を契機に生まれた警察予備隊は保安隊に、やがて自衛隊になり、日本の「防衛力」は飛躍的に増強され、経済復興も進んだ。軍事的にも、一九五四年には装備、資材、役務などを相互に供与しあう「日米相互防衛援助協定」(MSA協定)が締結され、「日米相互協力」と「共同防衛体制」が進んだ。
 こうした流れの中で進められた安保条約の改定は、「日本の将来はそれでいいのか?」という疑問を国民の間に広げた。しかし、その闘いをも押して、一九六〇年六月二三日には、新安保条約の批准書が交換され、それからはや五〇年。「安保体制」はこの半世紀の日本を完全に支配した。
 占領軍に接収され、強化されていた米軍基地については、立川基地拡張に反対する砂川闘争で、一九五九年三月、東京地裁の伊達秋雄裁判長の違憲判決が人々に勇気を与えた。しかし、最近では米国の示唆があったことも明らかになった政府の跳躍上告の結果、最高裁は同年一二月、「統治行為論」でこれを退け、憲法九条との関わりでの基地をめぐる闘いは、法律的には抑え込まれた結果となった。
 一九七二年五月の沖縄復帰に対し、革新勢力や沖縄県民を代表とする多くの人々の願いは、「核も、毒ガスも、基地もない沖縄」だった。しかし日本政府は、巨額の移転費や補償を肩代わりするばかりでなく、有事には核兵器の持ち込みをも認めるという密約を結んで、沖縄の米軍基地を固定化した。沖縄の基地は、ベトナム戦争ではその後方基地となり、部隊の派遣や兵器の補給、補修になくてはならない存在だった。既に、「極東の安全」をうたった新安保条約を超えた状況が進んでいた。
 ベトナム戦争が米国の敗退で終わると、米国はアジアでの軍事的プレゼンスの再構築を狙い、一九七八年一一月には、日米防衛指針(第一次ガイドライン)を決定。八〇年二月には、海上自衛隊が米軍によるハワイ沖の「環太平洋合同演習」(リムパック)に参加するなど、軍事協力はさらに進んだ。
 一九八九年のベルリンの壁崩壊や東欧革命に続いて、九一年、ソ連が崩壊、冷戦が終結した。しかし米国は、日本に一層の「国際貢献」を求めた。湾岸戦争を経て日本は九二年六月、「PKO協力法」を成立させ、自衛隊の海外派遣の道を開いた。こうした状況の中で九七年九月の「新ガイドライン」は、在日米軍の任務を「周辺事態への対応」とし、九九年五月の「周辺事態法」で、日米協力の枠組みは世界へと広がった。
 「9・11」後、外務、防衛関係閣僚による「日米安保協議委員会」(いわゆる「2+2」)が始まると、二〇〇五年一〇月には、米軍全体の再編に合わせた「在日米軍の再編」を合意。「日米同盟 未来のための変革と再編」が発表された。日本ではこれを「中間報告」とごまかしたが、翌年五月の「再編実施のための日米のロードマップ」が発表され、日米の「軍事一体化」と米軍基地の「固定化」は、一層深化しつつある。
 本格的な政権交代の結果として誕生した鳩山政権への期待は、長年にわたって異常に固められた対米従属関係を、いかにして正常な形に戻すか、その長期的な道筋を示し、第一歩を踏み出すことにある。そのためにまず大切なのは、米軍基地の実態を直視して正確に知り、闘いを交流させ、世論を高めていくことである。
 日米安保は、「極東の安全」から「周辺事態」へ、そして「世界の中の日米同盟」へと変貌する。その中で米軍基地はどう変わり、いま、何が問題になっているか、地域ではどんな闘いが取り組まれているか。
今回の特集では、世界的な米軍再編の中での日本の基地を国際的視野から捉えるとともに、世界の人々の闘いと歴史的な視野を併せ、それぞれの地域での基地闘争を捉えようと考えた。特に、札束で自治体をひっぱたき、地域や住民の自治を売り渡させようとする「懐柔策」を明らかにし、単なる「基地被害への闘い」が「平和に生きる権利」へと発展していることや、「統治行為論」を乗り越え、改めて九条の実現を目指す闘いの一角を進もうとしている実態について記録し、新たな基地闘争への展望も開きたいと考えた。全国から多くの皆さんに協力していただいたことを改めて感謝したい。
安保五〇年、この特集が「軍事基地のない日本」を目指す運動の相互連帯の一助となり、理論的武器のひとつになれば、幸いである。

(『法と民主主義』編集委員会・丸山重威)


 
時評●刑事裁判の抜本的改革と裁判員裁判

(関西学院大学教授)川崎英明

 概ね順調、というのが昨年八月の東京地裁第一号事件に始まる裁判員裁判に対する平均的評価のようである。確かに裁判員候補者の出頭率は高く、裁判員の仕事ぶりも真摯で、業界用語を避け分かりやすい審理を目ざす検察官や弁護士の努力の跡も窺える。だが、裁判員裁判が正念場を迎えるのはこれからである。というのも、被告人が犯人性を激しく争うような否認事件、とりわけ捜査段階で自白した被告人が公判で全面否認に転ずるような事件が審理の対象となるのはこれからだからである。
 裁判員裁判に対する評価を分けたポイントの一つは全面否認事件の審理への危惧にあった。一九八〇年前後の死刑再審四事件を始めとする誤判冤罪事例が提起した刑事裁判の課題は、「絶望的」とも評された(平野龍一)糺問的捜査に依拠した調書裁判という誤判の構造を抜本的に改革することにあった。しかし、今次の司法改革では抜本的改革は先送りされ、裁判員裁判は従来の誤判の構造に埋め込まれる形で制度化された。だから、裁判員の前で被告人が否認に転じても、自白調書が証拠として登場し、被告人が自白は取調官の強制の結果だと主張しても、その真偽を確定する術はなく、虚偽の自白調書に任意性と信用性が認められる危険性がある。それは共犯者を含む参考人の供述調書でも基本的に変わらない。裁判員裁判は確かに口頭直接主義の徹底を求め、調書裁判を変える契機とはなりうるが、その裏付けとなる証拠法や捜査法の改革はなかったのである。だから、裁判員裁判への安易な楽観を戒め、刑事裁判の抜本的改革の課題を追求することを怠ってはならない。
 この三月二六日に宇都宮地裁で再審無罪判決のあった足利事件は、刑事裁判の抜本的改革が喫緊の課題であることを改めて明らかにした。科警研依存の科学鑑定や虚偽自白を生み出す取調べのあり方が誤判原因であることを示したのである。それは構造的な誤判原因だから、足利事件のような誤判は裁判員裁判の下でも起こりうるだろう。だから、取調べの弾劾化(弁護人の立会等)や可視化(録音録画)、また再鑑定の保障や鑑定資料の保存とともに中立的な鑑定センターの設置が求められる。四月一日に最高検と警察庁は足利事件の捜査訴追過程を検証し検討結果を公表したが、誤判防止策として研修や人的体制の強化という「内向きの改革」は謳っていても、取調べの弾劾化や可視化、鑑定センター設置などの抜本的改革案はない。これでは誤判は防げまい。裁判員裁判を視野に入れて、法曹三者に法学者や心理学者をまじえた、開かれた刑事司法改革委員会を設置し、抜本的改革へと踏み出すことは焦眉の課題である。
 他方、最近、上告審の事実誤認救済のあり方をめぐる最高裁判事の論争が注目されている(滝井繁男元最高裁判事「わが国の最高裁判所の役割をどう考えるか」法律時報八二巻四号五三頁参照)。その焦点は、上訴審の事実誤認救済機能を活性化するのか否かにある。裁判員裁判の下、第一線の裁判官は、第一審判決の事実認定の尊重・上訴審の事実誤認救済機能の消極化を志向しているようだが、目下、最高裁の多数派は、有罪認定に対して、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則に則り事実誤認救済機能を積極化させようとしているようである。もっとも、この四月六日の名張事件・最高裁差戻決定をみると、この志向がどれほど強固なものかはしばらく観察を要するものと思われる。
 とはいえ、総じて刑事裁判には流動的状況が確かに見てとれる。だからこそ、裁判員裁判を見据えつつ、刑事裁判の抜本的改革の課題と改革の道筋をしっかりと提示することが、今、大事なのではなかろうか。


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