日民協事務局通信KAZE 2011年5月

 大震災を機に公務労働者の役割を見つめ直す


 未曾有の大震災から二カ月が経過した。犠牲者や行方不明者の余りの多さ、津波の被害で見る影もなくなった被災地を見るに言葉が出てこない。住まいや職を失った人々、未だ避難所生活を強いられている被災者、散乱する瓦礫の山、福島第一原発事故は、現場での昼夜を惜しまない作業員の奮闘はあるものの、未だ収束の道筋も見えていない……。一日も早い復旧と復興を願ってやまないが、その道程は険しく、どれだけの時間を要するのか見当も付かない。今、できることは何か、それぞれが考えていくことが求められている。

 こうした大災害を機に、改めて国の責任とは何かが問われている。私たちは、公務に従事する公務労働者としての立場から国の責任、公務の果たすべき役割を見つめ、実践していくことが求められている。この間、被災地の自治体の公務労働者は、震災当日から、自らが被災者でありながらも、救援・復旧に向けて懸命な働きが続いている。被災者の救援、物資輸送に不可欠な道路の通行確保は、国土交通省の公務労働者が全国から集まり迅速に行われた。津波による甚大な被害を受けた空港の再建にも力を尽くした。厚生労働省の公務労働者は、雇用・労働関係の制度周知や相談などの対応をした。独立行政法人となった旧国立病院の医師や看護師は、被災地で救援・看護にあたった。これらは一例である。それぞれが公務労働者としてその職責を黙々と果たしている。
 復旧・復興に向けては、司法の役割
も大きい。既に、被災地では、弁護士会が法律相談など被災者の法的ニーズに対応したとりくみがすすめられている。
 今回の大震災は、岩手、宮城、福島、茨城をはじめ被災地域は広範囲にわたり、津波、地震、原発事故と複合的大災害となっている。水産業、農業、製造業などをはじめ産業自体も大きな打撃を受けている。今後、企業経営や雇用問題が深刻化していくことは必至となる。既に被災を理由とした解雇や雇い止め、採用取り消しなど雇用問題も深刻化している。津波によって家屋を失うなど財産が滅失もしている。債務の調整も必要となるであろう。相続問題など家庭内の調整も考えられる。

 未曾有の大震災により、今後、どのような司法的解決が要請されてくるか予測は困難であるものの、復旧・復興が進んでいく過程で、法的手続によって適切な解決が求められることは論を待たない。こうした司法への要請に、裁判所をはじめ司法全体で適切に対応していくことが求められる。

 私たち全司法は、最高裁に対して、どのような態勢が必要かを十分主張していかなくてはならない。そして、裁判所で働く私たち公務労働者としては、一日も早い復旧・復興をめざして、日々の仕事を通じて、法に則り、適正な手続のなかで、迅速に多様な紛争の解決に向けて、愚直にその職責を果たしていくことが何よりも求められている。

(全司法 沖本達也)


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