日民協事務局通信KAZE 2011年7月

 文化面における地域間格差にも関心を


 二〇〇八年四月から三年間、北海道内の大学に勤めた。「住めば都」と言うが、どこに住んでもその土地その土地のいいところがあり、一〇〇%ではなくともそれなりに生活を楽しめるのではないかと思う。私自身も夏は涼しく、冬も予想に反して過ごしやすかった北海道の生活を満喫できた。北海道の食糧自給率(カロリーベース)は、全国平均の約四〇%に対して約二〇〇%もあり、本当に北海道の自然の豊かさは格別であった。  そんな北海道に住んでいて、「飢餓感」を感じた一つが文化面である。以前、日民協のホームページに映画評を書いていた通り、私は映画が好きで、北海道でも映画館に通っていた。しかし、私が住んでいた札幌では東京で上映される映画の約半分しか上映されず、上映されてもミニシアター系映画は上映時期が東京より数ヶ月遅れる。日本の総面積の約二割を占める広大な北海道では、道内人口約五五〇万人に対して札幌市に約一九〇万人もの人口が集中し、札幌圏から離れれば離れるほど映画へのアクセスも困難になる。  とはいえ、映画はまだDVDで見ようと思えば見ることもできる(私は、やはり映画は映画館で見たいが)。しかし、美術展などの展覧会はネットや出版物ではなく、直接自分の目で本物を見ないと満足はできない。  再び東京の大学に戻ってきた今年の四月以降、「岡本太郎展」(東京国立近代美術館)・「写楽展」(東京国立博物館)・「五百羅漢展」(江戸東京博物館)に行ってきたが、これらと同規模の展覧会を北海道内で開催することはかなり難しいであろう。確かに、ネットの普及で地理的な距離が縮まったとはいえ、ネットで何でも対応可能ではない。明らかに、特に東京などの都市部と地方との文化格差がある。  憲法は二五条で「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障するが、「最低限度」さえクリアすればいいというものではなく、やはり日本のどこに住んでいてもある程度の文化的な生活を送りたいものである。  一定の年齢になれば、自分の居住地は自分で決められるとはいえ、親を選んで生まれることができない子どもは、親の居住地によって一定の年齢に達するまで文化の享受の程度に差が生じてくるのは問題である。  結局、映画上映や展覧会開催なども、資本主義国家・日本においては採算が取れないと難しい。さらに、昨今の構造改革は地域間格差も助長した。  どんな過疎地でも東京と同じ映画を上映し、展覧会を開催すべきであるとまでは言わないが、国が文化面への助成にもっと力を入れ、地方の人々にもっと文化へのアクセスを保障すべきだと考える。  日民協のように本部事務局が東京にあり、日常の活動の担い手が東京圏に集中する団体では地方の問題を忘れがちになると思われるが、会員には以上述べたような文化面における地域間格差の問題にも関心を持ってもらいたいと思う。

日本体育大学 清水雅彦


戻る

©日本民主法律家協会