日民協事務局通信KAZE 2013年12月

 この一年の 改憲動向を振り返る


 「法民」今年最後の頁である。この一年の改憲動向を振り返っておきたい。
 昨年の今ごろは、降って湧いた総選挙の最終盤だった。その開票結果が自民「圧勝」となり、「改憲強行政権」成立で新年が幕開けとなった。さらに、七月参院選でも与党が勝って衆参のネジレが解消となった。総じて、安倍反動政権の厳しい憲法攻撃への抵抗を余儀なくされた一年との印象が強い。
 今年の初めを思い起こせば、心細さと悲壮感が著しかった。目出度くもない正月。衆議院憲法審査会委員五〇人のうち、改憲阻止の旗幟を鮮明にしているのは笠井亮議員ただ一人。暗澹たる思いは当然だった。
 憲法をめぐる情勢の厳しさは、自民圧勝だけがもたらしたものではない。まずは翼賛野党の責任が大きい。与党連立にしがみついた強固な補完勢力としての公明党、政権よりさらに右に位置する「第三極」。そして、かつては議会に三分の一の壁を築いていた社会党後裔の著しい凋落もあり、大きな力を持っていた労働運動や学生運動の衰退もある。
 安倍政権の最初の策動は九六条先行改憲提案だった。世にムード的な「改憲・総論賛成」の雰囲気はあっても、具体的な改正条項を特定すれば、世論調査の多くで反対論が多数を占めている。それなら、「取りあえずは改憲要件の緩和」なら、大方の賛同を得ることができよう、という思惑。議席数だけを見れば、安倍自民と翼賛野党にとって、「緒戦」の突破は容易なはずだった。
 ところが、安倍の思惑ははずれた。「九六条改憲は姑息」「本末転倒」「その先に九条改憲がある」という指摘が渦を巻く世論の勢いとなった。憲法記念日を中心とする論議を経て、この問題についての彼我の勢力は逆転した。世論やメディアに、「立憲主義」や「硬性憲法の意義」が浸透した。安倍が執念を燃やした任期中の靖国参拝も、春季例大祭、敗戦記念日、秋季例大祭とも実現できなかった。前半戦は改憲阻止勢力の勝利だったと言えよう。
 そして、後半戦が九月三日「概要」発表で宣戦布告となった特定秘密保護法案審議をめぐる本格的な攻防である。残念ながら法は成立した。憲法理念の侵蝕、とりわけ知る権利侵害による民主々義的政治過程への狙い撃ちに怒りを禁じ得ない。しかし、いま、敗北感は大きくない。法の成立を強行した勢力も、深い痛手を負ったのだ。院外での反対運動の盛り上がりには、意を強くさせられる。その中で、当協会や協会につながる法律家もその任務をよく果たした。成立した法の廃止を目指しての、また、パッケージとされている次の諸悪法に立ち向かうための、運動の基盤の構築ができたのではないだろうか。
 また、昨年の今ごろは、都知事選の最終盤でもあった。開票結果はリベラル陣営の惨敗ではあったが、歴史的大勝で得意の絶頂にあった猪瀬直樹が、一年後の今、徳洲会からの五〇〇〇万円受領問題で窮地に立たされている。安倍晋三の来年もこうならないとは限らない。候補者は徹底してクリーンでなくてはならない。選挙を担う人々も、である。この教訓を肝に銘じておきたい。
 憲法情勢は確かに厳しい。解釈改憲・立法改憲の策動は目白押しである。しかし、憲法をこよなく大切と思う、国民の熱い思いもまた健在である。けっして、巨大与党が思うがままには、改憲は成らない。私たちの運動次第であることを、改めて噛みしめている年の瀬。心細さのない新春にはなりそうだ。

(副理事長 澤藤統一郎)


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