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 法と民主主義2014年5月号【488号】(目次と記事)


法と民主主義2014年5月号表紙
特集T●安倍政権の「教育再生」政策を総点検する──「戦後レジームからの脱却」に抗して
特集Tにあたって………編集委員会・澤藤統一郎
◆安倍政権の教育政策──その全体像と私たちの課題………堀尾輝久
◆戦後教育改革の内容とその後の変遷………川村 肇
◆安倍政権の教育改革プランの全体像………村上祐介
◆教科書問題の最近の動向と竹富町への「是正要求」………俵 義文
◆安倍政権の教育政策・競争と選別の思想 ──日弁連での取り組みに関わる中で見えるもの………村山 裕
◆安倍「教育再生」は、子どもと教育に何をもたらすのか………小畑雅子
◆大学における教育・研究体制への影響………齋藤安史
◆現行教育委員会制度の限界と可能性──国立市の教育委員の経験から………中村雅子
◆「日の丸・君が代」強制反対宣伝で見られた特徴的な反応………竹村和也

特集U●少年の心に寄り添う審判とは──第4次少年法「改正」批判
座談会………出席者・佐々木光明/佐藤香代/井上博道/佐藤むつみ(司会)
  • 連載・裁判員裁判実施後の問題点●22 司法とは何だ そこで裁判員は何をするのか〈下の@〉………五十嵐二葉
  • メディア・ウオッチ2014●憲法記念日の新聞社説「解釈改憲賛成」は4社のみ──世論無視の安倍政権を批判………丸山重威
  • あなたとランチを〈2〉………ランチメイト・齊藤園生×佐藤むつみ
  • 司法をめぐる動き@●法制審の動向と袴田再審決定………秋山賢三
  • 書評●家永三郎生誕100年記念実行委員会編「家永三郎生誕100年 憲法・歴史学・教科書裁判」(日本評論社)………浦田賢治
  • 委員会報告●司法制度委員会/憲法委員会………米倉洋子/小沢隆一
  • 資料●法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」への要請・意見
  • 時評●原発被害の救済を核兵器廃絶へ………宮澤洋夫
  • KAZE●「すえこざさ」の衝撃………穂積匡史

 
安倍政権の「教育再生」政策を総点検する──「戦後レジームからの脱却」に抗して

 ◆特集Tにあたって
 安倍政権は、「戦後レジームからの脱却」を掲げ、「日本を取り戻す」と呼号している。その「脱却すべきレジーム」「取り戻すべき日本」の内実には、教育の在り方が深く関わっている。このことを政権側も強く意識して、憲法改正と並ぶ政策の柱に「教育再生」が据えられている。
 政権が教育政策についてのスローガンとして「再生」という言葉を選択したことには、いま教育は死んでいるに等しい、というメッセージが込められている。しかも、その憂うべき事態は戦後教育改革のレジームが構築されたときに始まったという思い入れを隠さない。不正常な戦後教育のレジームから脱却して、かつてあった正常な教育を取り戻そう、それが教育を「再生」することになるとされる。そのような教育政策が、憲法に対する攻撃と並行して着々と進行しつつある。
 本特集は、安倍政権が急ピッチで推し進めている、教育再生政策の全体像を総点検しようとする試みである。巻頭の堀尾輝久論文がいみじくも述べているとおり、日本の国のかたちとしてのレジームは戦前の「帝国憲法・教育勅語体制」から戦後の「日本国憲法・教育基本法体制」に大きく転換した。その戦後レジームの内実を再確認し再評価することが本特集の主眼のひとつである。
 「日本国憲法・教育基本法体制」として確立された戦後教育改革とはいかなる理念と制度であったのだろうか。なにゆえ、その戦後レジームは戦後保守政権に疎まれ、どのように攻撃を受けて来たのだろうか。そして今、安倍政権は教育をどのように膝下に組み敷こうとしているのだろうか。
 「よみがえり」を意味する再生には、復古のイメージが強い。しかし、安倍政権の教育政策は、そのような戦前回帰の復古的側面のみをもつものではない。明らかに、「グローバル時代」の経済体制を支える新自由主義に奉仕する教育が目指されている。臆面もない選別と差別、そして競争万能の教育である。一握りのエリートと、その他の従順な労働力提供者育成の教育でもある。
 「国家主義」と「新自由主義」とを政権がめざす教育政策の二側面と言ってよいだろう。両者は、矛盾するものとしてでなく、相互に補完し合うものとして、教育政策を形づくっている。戦後教育改革が、民主的な社会の主権者にふさわしい、平和で民主的な人格の完成を目的とした教育の理想の影もない。教育を公権力や政治勢力の支配から切り離そうという理念や制度は、いま危殆に瀕している。

 巻頭の堀尾輝久「安倍政権の教育政策─その全体象と私たちの課題」は、以上の問題意識を総論として論じ尽くしている。とりわけ、憲法問題と教育問題との関連について行き届いた論述がなされており、時代の背景状況から安倍政権の教育政策の全体像を把握するについての好個の解説となっている。
 川村肇「戦後教育改革の内容とその後の変遷」は、本特集の問題意識に欠かせない歴史的背景についての論説である。戦後教育改革から説き起こして、安倍教育「再生」改革まで叙述して、その掉尾に、「既に旧教育基本法を葬った安倍は、新自由主義政策のさらなる遂行と、……日本の極右的改造をはかっているが、教育改革の内容も手法もこれらの一環である。今私たちは、国民窮乏と戦争への道の岐路に立っている。」と警告されている。
 村上祐介「安倍政権の教育改革プランの全体像」は、自民党「教育再生実行本部」の「中間とりまとめ」の提言から、具体的な立法が実行に移されていることを述べ、焦眉の急の問題である地方教育行政法の改正問題や、教科書検定問題、教育再生推進法案(仮称)などの内容を明らかにしている。
 俵義文「教科書問題の最近の動向と竹富町への『是正要求』」は、トピックについての報告にとどまらず、「究極の教科書国家統制をめざす検定制度の大改悪」強行を述べて、採択制度を詳細に論じて学ぶところが大きい。
 村山裕「安倍政権の教育成策・競争と選別の思想」は、筆者が日弁連での取り組みを通じて見えてきたものとして、「国の経済的発展のための教育」の実態を解き明かしている。
 齋藤安史「大学における教育・研究体制への影響」は、地方教育行政法改正に続いて国会上程となった、学校教育法改正(大学の自治骨抜き法案)の背景事情を詳細に論じている。
 中村雅子「国立市教育委員の経験から」は、貴重な自身の経験から、教育委員会の活性化にヒントを与えるものとなっている。
 竹村哲也報告は、「日の丸・君が代」反対行動の中から見えてきた市民や生徒の反応について。
 安倍政権の教育政策と切り結ぶためには、その全体像を正確に把握することが不可欠である。本特集はそのための第一歩にふさわしいものと確信し、活用を期待したい。

「法と民主主義」編集委員会 澤藤統一郎


 
時評●原発被害の救済を核兵器廃絶へ

(弁護士)宮澤洋夫

1 原子力の危険性
 一九四五年広島・長崎への原爆投下により戦争は終結したが、広島・長崎は廃墟と化し数十万人を死亡させ、三十数万人を被爆させた。一九五一年朝鮮戦争に於いても米軍の使用が計画された。
 一九七八年核兵器廃絶を目的とするNGO国際軍縮会議に出席した際、長崎の被爆者谷口稜曄氏が乞われた背中一面のケロイド傷跡の公開に失神者が出たことを記憶している。
 一九五四年ビキニ環礁の米国水爆実験による第五福竜丸の被爆汚染により核兵器廃絶の運動は高まった。
 これに対応して翌一九五五年米国は原子力平和利用の協定の申し入れと共に軽水炉の輸出を提案してきた。これを受けて日本政府は日本学術会議に問し、原子力開発利用について安全確保のために提案された民主・自主・公開の原則に基づいて原子力の平和利用に踏み切り、財界の要望に応じ石炭石油に代わるクリーン・エネルギー源として原子力発電に着手した。
2 未完成技術と原子力訴訟
 軽水炉は未完成技術であるにも拘わらず多重防護により安全であるとし、さらに核燃料サイクルは廃棄物の処理処分技術が未確立で安全性・経済性に欠陥があるにも拘わらず、産官協力により全国各地に一〇〇万トン級の大型原子炉による発電所を設置した。これに対し福島第二原発(第一原発4号基と同型)の設置許可取消訴訟を周辺住民は提起した。
 国は訴訟の頭初から当事者適格を争い、原告ら住民が法律上の利益を基礎づける事実として指摘したところは、『事故が発生すれば』とか、『放射性物質が漏洩した場合』という単なる仮定の事実を前提に置いた危険一般に尽きるものであり、『危惧、懸念のたぐい』にすぎないと窓口論争を挑んだ。
 また、裁判所は安全性については行政庁の監理に委ねられ、その責任において処理されているとして米国のスリーマイル・ソ連邦チェルノブイリ原発の事故状況を無視し、住民の訴えを斥けた。裁判所は事件処理能力を欠いていた。
3 福島原発事故の対処
 東日本震災とりわけ福島第一原発事故は原発最大級の事故であった。M9の地震と津波によるもので、死亡者一万五八四〇名、行方不明者三五四六名(警察庁二〇一三年一二月一三日調査)に上っており、避難者は県内約一〇万人、県外約六万人に上り、地域に住宅・施設その他多大な損害を与えている。事故被害は自治体、地域、住民により、初期の自衛隊を始め国民的支援を受けて対処されてきた。
 福島県が要求している被害原発等すべての解体撤去には半世紀を要し、また各界から現在提起されている原発関連の核燃料再処理施設の廃止、再処理による生成された使用済燃料のプルトニウム使用による高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉等、さらには核廃棄物の地中保管、投棄等の処理処分等引き続き対処することが緊急課題となっている。
4 廃炉処分から原発廃止の運動へ
 原子力発電所は安全性を実証されたものでなく、事故発生の場合には周辺住民に不測の損害を与えることは周知であるにも拘わらず、政府・財界は敢えてその利益のためにこれを選択し運用してきた。
 しかも、安全な原発のための適切な対応を欠いたものであって、現代の技術水準を示すものである。現在、国内原発は全部運転停止しており、責任は原発企業と政府が負担し、その責任において廃炉処分等推進し、エネルギー対策を転換することが急務である。その推進のために「原発NO」の国民的運動を更に強めることが緊急課題となっている。
 とりわけ、核兵器の使用を巡る現在の世界情勢の危険な進行に伴い、被爆国の責任は平和と安全のために核兵器廃絶の運動を更に前進させ、国連の規模による核の危険から地球と人類を護る活動をさらに推進する責務がある。



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