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 法と民主主義2014年12月号【494号】(目次と記事)


法と民主主義2014年12月号表紙
特集●憲法の危機と司法の役割──第45回司法制度研究集会より
◆特集にあたって………米倉洋子
◆報告・集団的自衛権行使・国防軍化と司法──憲法9条・自衛隊裁判の現在と今後の展望………佐藤博文
◆報告・「絶望の裁判所」で 希望のある判決が生まれる謎………石塚章夫
◆報告・憲法の危機と司法の役割──憲法学から考える………森 英樹
◆集会のまとめ・「非知性」に対峙する司法の「理性的感性」・「良心的感性」にいかに働きかけていくか………新屋達之

  • シリーズV「若手研究者が読み解く○○法 Part2」 18「環境法」原発災害と公害・環境法………大坂恵里
  • 連載・裁判員裁判実施後の問題点 26【最終回】司法とは何だ そこで裁判員は何をするのか〈下の5〉………五十嵐二葉
  • 司法をめぐる動き「法曹人口問題に関する意見交換会」及び院内集会「弁護士激増の問題を考える!」の報告………尾崎 康/高澤史生
  • 司法をめぐる動き 11月の動き………司法制度委員会
  • 寄稿●「宮澤・レーン冤罪事件」の再来を許さない──9条の輝く日本を創ろう!………山本玉樹
  • リレートーク●〈17〉新・人間裁判──生活保護基準引下げ違憲訴訟と生存権………山本完自
  • リレー連載●改憲批判Q&A 112 施行された秘密保護法の問題点は解決されたのか?………清水雅彦
  • メディア・ウオッチ2014●メディア干渉と選挙報道「今なら勝てる」3分の2獲得 プレーヤーに位置づけられたメディア………丸山重威
  • あなたとランチを〈8〉………ランチメイト・小林大晋?佐藤むつみ
  • 委員会報告●司法制度委員会/憲法委員会………米倉洋子/小沢隆一
  • 時評●ギャンブラーの賭け金になることを拒否した沖縄………井上正信
  • KAZE●歴史の岐路に立つ 総選挙の結果を思う………大江京子

 
特集●憲法の危機と司法の役割──第45回司法制度研究集会より

 ◆特集にあたって
 二〇一四年一一月一五日?午後、麹町の弘済会館で、第四五回司法制度研究集会が開催された。
 今年の集会タイトルは「憲法の危機と司法の役割」。イラク派兵差止訴訟をはじめ多くの自衛隊訴訟を担ってきた札幌の弁護士佐藤博文氏、元裁判官の石塚章夫氏、憲法学者であり日民協理事長の森英樹氏の三名にご講演をいただいた。本号の特集はこの集会におけるご講演をまとめたものである。
 今年の司法制度研究集会は、例年とはやや趣の異なるものとなった。昨年のテーマは刑事司法制度改革、一昨年は法科大学院制度と、集会名のとおり司法に関わる「制度」をテーマにしてきたが、今年は制度論というよりも、裁判所の紛争解決及び違憲審査という司法そのものに焦点を当て、司法の現状と司法への期待をそれぞれの角度から見つめ、語る内容になった。
 安倍政権の下、様々な分野で森理事長の言われる「壊憲」が急ピッチで進んでいるが、その最大のものは今年七月一日の集団的自衛権行使容認の閣議決定である。これほど明白な憲法違反が一内閣の憲法解釈で合憲とされ、国会での立法化が企てられる事態はまさに異常である。こうした異常事態をくいとめることが違憲審査権を持つ司法の役割であるが、まさに自衛隊の違憲性が問われた長沼訴訟を契機とした「司法の危機」により徹底した統制が加えられた日本の司法は、現在起きている未曾有の憲法の危機に立ち向かうことができるのか。こうした問題意識を底流に持った上で三名の講演はなされた。
 佐藤博文氏は、詳細な資料に基づき、「集団的自衛権行使・国防軍化と司法 憲法九条・自衛隊裁判の現在と今後の展望」と題し、全国一一地裁で展開されたイラク派兵差止訴訟と自衛隊内のセクハラ、いじめ自殺、訓練での死傷事故等の損害賠償訴訟を詳細に紹介し、その意義を述べた。平和への強い思いをもつ市民が原告となり、裁判官の心証に強く働きかけた結果、名古屋高裁だけでなく各地の地裁判決で平和的生存権の具体的権利性をはじめとする数々の画期的な判示を勝ち取ったことや、裁判を通じて自衛隊の中に一般社会と同じ安全配慮義務などの規範を適用させることが、自衛官個人の救済を超え、自衛隊の「軍隊」性を奪う意味があるとの見解が印象的だった。
 石塚章夫氏は、「司法の危機」の時代に任官し、青法協会員をへて裁判官懇話会の世話人を長く務め、最高裁から徹底して冷遇されて支部と家裁を回り続け、最後に高裁部総括と家裁所長の職に就いて二〇〇七年退官したという経歴の持ち主である。集会の資料とした石塚氏の論文には、「少しでも上の位置に自分を置こうとする人間の心理を巧みに利用した装置」としての「官僚の論理」に裁判官が組み込まれている様子が紹介されている。しかし石塚氏は、今回の集会では、「『絶望の裁判所』で希望のある判決が生まれる謎」と題して、遺棄毒ガス事件判決(二〇〇三年)、大飯原発差止事件判決(今年)、福島原発自死事件判決(今年)に見られる、「裁判官が事件を自分の感性の中に取り込んでいる」ような判決文を紹介し、現在の裁判所の中に「希望の素」になる裁判官が存在すること、原告(弁護士)との「感性の共鳴」が「希望のある判決」を引き出すのだということを述べられた。これは弁護団の訴訟活動への有益な助言であると共に、良心を失わない後輩の裁判官への強い信頼と期待、励ましのメッセージであると感じられた。
 森英樹氏の「憲法の危機と司法の役割──憲法学から考える」は、暴走する安倍政権がもたらす憲法の危機は、その総体性・全体性ゆえに、個別のところでは、国民の批判と運動、法律家運動、法律学からの発信があいまって、司法による法的制御の可能性を秘めているとする。そして、ここ十数年の憲法裁判・司法判断をみると、最高裁の法令違憲判決が増え、問題を残しながらも注目すべき変化が見られ、勇気ある下級審の健闘が随所に見られること、但し、こうした判例の「変化」については、今年一〇月の日本公法学会でも、司法制度改革との関連は不明確という結論であったとする。また、判例の「変化」につき、司法消極主義を維持するために国会の民主的基盤を維持するという考えがあるのではないかとも推測されるとする。しかし、憲法の危機に対峙しうる司法とその担い手を作っていくことは重要であるとされ、個別の権利実現により「壊憲」全体にストップをかけ得ること、裁判を通じて民主的主体を作っていけること、安倍政権のあまりの非合理性・前近代性から私たち法律家の理論的・論理的対決が意味を持つのではないか、と述べて締めくくられた。
 憲法の危機の時代にあって、司法に対する市民の期待は非常に大きい。司法が市民の信頼を失えば、「憲法裁判所設置論」が力を持ってくる危険があることを最高裁は銘記すべきである。「感性の共鳴」を経験した裁判官が、良心のみに従って「希望の判決」を書ける「制度」について、次は研究・討論してみたい。

文責・米倉洋子・弁護士 司法制度委員会事務局長


 
時評●ギャンブラーの賭け金になることを拒否した沖縄

(弁護士)井上正信

 沖縄県知事選挙は翁長雄志氏が一〇万票の大差で圧勝した。普天間基地を辺野古崎に移設することに反対したオール沖縄の勝利だ。日米同盟の「抑止力」強化の象徴が普天間基地の辺野古崎への移設であったが、それを明確に拒否した沖縄の選択は、私たち全体に共通する問題だ。
 米軍再編見直しを合意した二〇一二年四月二七日の2+2共同発表文に次の一節がある。
 「(米軍再編見直しが)アジア太平洋地域において、地理的により分散し、運用面でより抗堪性があり、政治的に持続可能な米軍の態勢を実現するために必要」。
 沖縄の米軍基地は中国に近すぎて、不測の事態では中国軍の攻撃に脆弱であるということだ。だから米軍再編見直しでは、在沖米海兵隊の実戦部隊(第四海兵連隊)をグアムに移転し、ハワイ、オーストラリアとローテーション配備するというものだ。米軍再編合意では、在沖縄海兵隊の司令部要員をグアムへ移転するはずだった。「抑止力」が低下するので実戦部隊を残さなければならないという理屈だったはずだ。実戦部隊をグアムへ移設するというだけで普天間基地の辺野古崎移設の根拠はないはずである。ここでは「抑止力」は騙しの手口に使われている。
 通常弾頭の弾道ミサイル数発で壊滅するような基地を、沖縄県民を苦しめ抜き、膨大な予算をつぎ込んで作る価値がどこにあるのかということを述べるのが目的ではない。米中間の軍事紛争となれば、真っ先に犠牲になるのが沖縄県民なのだ。それを「抑止力」と称してごまかしているのが安倍晋三だ。
 「抑止力」は、互いの国が相手の国民を人質に取る軍事政策だ。抑止が破れたときは、国民が犠牲になる。つまり「抑止力」とは、それをもてあそぶ安倍晋三という政治家の賭に、私たちの平和と安全、生命財産を賭け金として預けることに等しい。「抑止力」を発揮しようとする決定的な段階では、秘密保護法で私たちにはその本当の理由は秘密にされる。私たちの置かれた立場と沖縄県民が置かれた立場は基本的には変わらない。私は安倍晋三にだけは自分と家族の安全をゆだねるわけにはいかないのだ。
 解散になった臨時国会へカジノ法案が議員提案された。その母体は「国際観光産業振興議員連盟」だ。安倍晋三は麻生太郎と並んで最高顧問である。さすがに法案が提出されたことで安倍晋三は最高顧問を辞した。しかし安倍晋三は首相として五月にシンガポールのカジノ施設を視察し、俄然積極的になりアベノミックスの第三の矢の成長戦略に組み込むつもりだ。法案は廃案になったが、次期通常国会へ提出されるだろう。
 安倍晋三がギャンブル好きかどうかはここでは関係ない。7・1閣議決定を貫いている安全保障政策の要は、安倍晋三の大好きな「抑止力」である。尖閣を防衛するためには、日米同盟の抑止力を高めなければならない、そのための集団的自衛権という理屈だ。「抑止力」は破れやすく、いわば勝率の低いギャンブルのようなものだ。賭け金は私たちの平和と安全、生命と財産である。閣議決定は、中国の脅威に対抗し尖閣防衛のために私たちを人質に差し出すことに等しい。さらに米国の国益のために私たちの平和と安全、生命財産を差し出すことに等しい。
 沖縄県民は県知事選挙でこれを拒否した。次は私たちの番である。総選挙では安倍晋三の安全保障政策にきっぱりと「NO」を突きつけなければならない。
この原稿が掲載された「法と民主主義」が発刊されたころには既に選挙結果が出ているであろう。選挙の結果にかかわらず、安倍内閣を追い詰めなければならない。秘密保護法の施行、ガイドライン改定、安保法制の改正などその材料はいくらでもあるのだ。憲法改悪を許さない、平和と民主主義、基本的人権を擁護する法律家の出番だ。



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