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 法と民主主義2015年12月号【504号】(目次と記事)


法と民主主義2015年12月号表紙
特集★日本の司法と大学を考える─法曹養成と法学教育・研究の現状と課題─第46回司法制度研究集会から
特集にあたって………米倉洋子
◆開会の挨拶………森 英樹
◆大学政策と人文・社会科学──6.8文科相通知をめぐって………小森田秋夫
◆法曹養成制度改革の現状と問題点──弁護士激増の顛末と法科大学院の未来………森山文昭
◆孤独なひとり芝居から希望の持てる協働の場へ──自治の観点から考える………戒能通厚

■会場からの発言
◆法科大学院の募集停止と大学の危機………宮下修一
◆法科大学院大は大学自治をこわす「トロイの木馬」か………永山茂樹
◆公立大学における大学・教授会の自治………横田 力
◆法律のリテラシーを持つ非法曹の存在の重要性………橋 眞
◆法科大学院と司法試験受験資格………樋口和彦
◆現在の司法修習生・若手弁護士の経済的負担の著しさ………北村 栄
◆若手弁護士の就職後の実情………林 裕介
◆弁護士需要論の誤謬と経済論の欠落………鈴木秀幸
◆司研集会のまとめ………新屋達之
  • 連続企画●憲法9条実現のために〈2〉辺野古新基地建設反対闘争の現状と展望………仲山忠克
  • 連続企画●憲法9条実現のために〈2〉国交相による執行停止決定と代執行手続の法的問題について………本多滝夫
  • メディアウオッチ2015●放送法と政府・与党の干渉 岸井成格氏を攻撃、放送の統制狙う NHK報道の問題は拡大………丸山重威
  • あなたとランチを〈14〉………ランチメイト・田部知江子×佐藤むつみ
  • リレートーク●「法と民主主義」との2年を振り返って………神保大地×黒澤いつき
  • 司法をめぐる動き・2015年11月の動き………司法制度委員会
  • トピックス●番号制度に粘り強く反対しよう………奥津年弘
  • 時評●「新時代の刑事司法制度」と刑事訴訟法学………川ア英明
  • ひろば●I AM HOMIN………林 敦子

 
日本の司法と大学を考える─法曹養成と法学教育・研究の現状と課題─第46回司法制度研究集会から

 ◆特集にあたって
 「文系学部廃止」を打ち出した二〇一五年六月八日付文部科学大臣通知は、国家による学術統制、大学の自治破壊ではないかと、社会に大きな衝撃を与えた。折しも「戦争法案」の違憲性を訴える憲法学者たちの活動がめざましかった時期だけに、「文系」の中でも特に「法学部」が権力的統制の対象にされる危機感を、多くの心ある人が直観的に感じ取った。
 他方で同じ六月の三〇日、内閣府に置かれた法曹養成制度改革推進会議は約二年間の会議の末、「法曹養成制度改革の更なる推進について」という決定で、司法試験合格者を年一五〇〇人「以上」としたほか、法科大学院については「認証評価の厳格化」を図り、司法試験合格率などが基準を満たさない場合は閉鎖命令を含む措置を講じ、結果として少数の上位校だけを残して合格率七?八割を実現する政策を打ち出した。法曹人口・法曹養成のあり方に重大な問題をはらむだけでなく、法科大学院閉鎖後に法学部を充実させようとすると六・八文科大臣通知が立ちはだかることになる。
 こうした中、六・八通知と六・三〇決定を関連づけながら「司法」の観点で法曹養成・法学教育の現状と課題を多面的に考えてみようと、一〇月三一日午後、東京・四ツ谷のプラザエフで、「日本の司法と大学を考える─法曹養成と法学教育・研究の現状と課題」をテーマに第46回司法制度研究集会を開催した。多くの学者・弁護士が集まって充実した集会となった。
 本号の特集は、この集会での報告と会場発言の内容を原稿の形に書き下ろしていただいたものである。
 小森田秋夫報告は、日本学術会議第一部長として六・八通知に対する学術会議の声明を取りまとめた立場から、文科省が実学重視の大学政策を予算でコントロールしている実情を批判し、法科大学院はその先取りではなかったかと述べる。森山文昭報告は、弁護士人口激増と法科大学院制度により法曹志願者が激減し法曹の質の低下が深刻になっていると告発し、法曹養成制度の根本的見直しが必要であるとする。戒能通厚報告は、法学部のないアメリカを模倣した法科大学院は、法学部や研究者養成大学院から制度的に切断された「孤独な一人芝居の場」になっているとし、自治の復権を基軸とした法学部を中心とする総合設計が必要であると強調する。
 大学問題をテーマにしたこともあって、会場には現役の法科大学院・法学部所属の研究者が多く参加し、貴重な発言を頂いた。弁護士からは現在の法曹人口・法曹養成制度の下での学生・修習生・若手弁護士の深刻な状況が発言された。紙幅の関係で全て掲載できなかったことが残念だが、立場も観点も異なる学者・弁護士が問題意識を共有し、今後の議論の出発点となったことを喜びたい。

日民協事務局長 弁護士 米倉洋子


 
時評●「新時代の刑事司法制度」と 刑事訴訟法学て

(関西学院大学)川ア英明

「新時代の刑事司法制度」の構築を標榜する刑事訴訟法等改正案は、本年(2015年)8月7日に衆議院で可決された後、継続審議となった。衆議院で法案の一部修正や付帯決議がなされたが、法案の骨格に関わる本質的修正はなかった。
周知のように、今回の刑事司法改革の直接のきっかけは厚労省郵便不正利用事件(村木事件)無罪判決(2010年9月10日)と同事件に関わる大阪地検特捜検事の証拠改ざん事件であったが、その背後に足利事件や志布志事件などの誤判(冤罪)事件の存在があったことが見過ごされてはならない。取調べの可視化が今回の刑事司法改革の眼目とされたのはその故であり、密室の糺問的取調べ依存の調書裁判(誤判の構造)の克服こそが今回の刑事司法改革の原点だったのである。
しかし、証拠改ざん事件を契機に発足した「検察の在り方検討会議」の提言(2011年3月)、これを受けた法制審議会への法務大臣諮問(2012年5月)、そして「新時代の刑事司法制度」特別部会の「基本構想」(2013年1月)へと事態が推移する中で、「新時代の刑事司法制度」は刑事司法改革の原点から乖離しようとしているのではないかと、懸念されるようになった。私たち刑事法学者も改革のいく末を危惧して、2010年9月と2014年4月に、法制審議会「新時代の刑事司法制度」特別部会に対して「新時代の刑事司法制度」に対する「刑事法学者の意見」を送付・公表し、本年5月には、衆参両議院に向けて「刑事訴訟法等改正案に対する刑事法学者の意見」を公表した。これらの「意見」には100名を超える刑事法学者の賛同が寄せられた。
私たちが「意見」の中で主張したことは、今回の刑事司法改革の原点に立脚して、(被疑者だけでなく参考人を含む)取調べの全事件全過程可視化と全面証拠開示の実現という改革目標を実現することであり、通信盗聴(傍受)の拡大・秘密処分化や司法取引的制度(捜査・公判協力型協議・合意制度や刑事免責制度)等の反改革の諸制度を排除することであった。法制審議会・特別部会では、有識者委員らの奮闘の結果、最終段階で可視化対象事件を若干広げる修正が加えられ、捜査実務において可視化対象事件を広げる努力を尽くす旨の表明がなされはしたが、特別部会がとりまとめた「法整備」の「要綱(骨子)」には今回の刑事司法改革の原点が求める刑事司法改革と落差があった。
そうであれば、特別部会の「要綱(骨子)」に基づいて策定された刑事訴訟法等改正案は、国会審議において、今回の刑事司法改革の原点を見据えた抜本的修正を行うことが求められる。特別部会で学者の後藤昭委員や日弁連の委員・幹事が有識者委員とともに改革の徹底のために奮闘したことには敬意を表するが、委員の間には反改革に対する姿勢に差異もみられた。だからこそ、熟議の場たる国会には、刑事法学者の「意見」が主張しているように、(被疑者及び参考人を含む)取調べの全事件全過程可視化と全面証拠開示の実現という改革を徹底し、かつ反改革の諸制度を排除することにより、刑事訴訟法等改正案に抜本的修正を加えることが期待される。
視野を広げて刑事訴訟法の近代化の過程に目を向けてみよう。日本の刑事訴訟法は明治、大正、昭和の各元号の時代に全面改正を経てきた。そして、日本国憲法の下に1948年に制定・公布された昭和刑事訴訟法(現行刑事訴訟法)は、1999年の盗聴法(通信傍受法)以後の一連の改正の上に今回の改正がさらに加わることで、その容貌を大きく変容させることになる。実質的にみて、平成刑事訴訟法が形成されようとしていると言ってもよい。
その意味で、今回の刑事訴訟法等改正案は、とりわけ刑事訴訟法学に対して、その歴史的責任の取りようを問いかけていると言うべきではないかと思われる。安保関連法案が、憲法学に対し、その歴史的責任の取りようを問いかけたように。



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