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 法と民主主義2016年1月号【505号】(目次と記事)


法と民主主義2016年1月号表紙
特集★戦争法廃止に向けて──課題と展望
特集にあたって………編集委員会・丸山重威
◆戦争法は廃止しなければならない──日本社会の岐路と新たな選択………広渡清吾
◆「国際平和協力」を理由とした武力行使への突破口………三輪 隆
◆「戦争法」は世界と紛争地における日本の役割をどう変容させるのか──国際人権・国際協力NGOは戦争加担に反対する………伊藤和子
◆「落選運動」の意味と展望………上脇博之
◆戦争法廃止運動と自衛隊裁判の位置付け──砂川・恵庭・長沼・百里・イラクの経験をふまえて………内藤 功
◆「戦争法」違憲訴訟の目標と課題………伊藤 真
◆戦争法反対にむけたロースクールでの運動………本間耕三
◆国会周辺の抗議活動に関する「官邸前見守り弁護団」の活動………神原 元

 
戦争法廃止に向けて──課題と展望

 ◆特集にあたって
 一月四日から、第一九〇回通常国会が開会しました。この日、国会前に集まったのは、約三八〇〇人、「戦争法を廃止に」「アベは辞めろ」と声をあげました。しかし、反対の声に耳を貸さず「反知性」的に強行政治を進める安倍政権は、一方で「一億総活躍」を掲げた経済問題に焦点を逸らし、「戦争法」(安保関連法)に関しては、具体的な動きは先送りしながら、一方で、「参院選では改憲をテーマにする」と公言し、「自公で過半数」「改憲に同調する勢力で3分の2獲得」と動き始めています。
 昨年春以来、国会審議と並行した「戦争法反対」の運動は、学者、研究者、NGOの活動家、宗教者などをはじめ、大学生、高校生などの若者、子育て中の若い母親など、これまでのような組織された労働者、市民団体だけではなく、さまざまな層が個人として立ち上がり展開されました。日本社会が「デモをする社会」になった、といわれるゆえんです。この中で、特に憲法学者、弁護士など法律家の運動は、日民協、青法協から社会文化センターなど法律家六団体の活動として展開され、世論喚起に大きな力を発揮しました。
 これらの運動は、法成立後も持続し、「戦争法廃止」の二〇〇〇万人署名運動として広がっています。「戦争させない・9条壊すな!総がかり実行委員会」と、学者の会、「シールズ」、立憲デモクラシーの会などは、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」を結成、参院選で三二議席ある一人区での野党共闘を呼び掛けました。熊本では、五〇団体が集まった「戦争させない・9条壊すな!くまもとネット」と野党五党が、統一候補擁立を決めました。しかし、衆参同日選のもくろみや、安倍政権の策動もあって、野党共闘も容易ではありません。
 この状況で私たちは、独裁的に事態を進める権力者の姿勢を、どう考えればいいのでしょうか。何をするべきなのでしょうか、何ができるのでしょうか。特に法律家の立場で何をすべきなのでしょうか。戦争法成立後、実際にその条項が、国民の同意を得ないまま発動され、日本が戦争に引き込まれる危険も指摘されています。また、憲法を知り、その意義を重要と考える多くの国民からは、「違憲訴訟はできないか」「どうすれば憲法が言う通り違憲の法律について無効を宣言させられるのか」という声も上がっています。
「法と民主主義」編集委員会は、戦争法が「成立」された状況の下で、これまでの戦いを総括しながら、戦争法廃止に向けて、私たちはどう考え、どう闘っていけばいいのか、これまでの憲法訴訟の経験や、国際的視点も併せて考え、国民的論議を巻き起こしたいと考え、「戦争法廃止に向けて──課題と展望」を特集することにしました。ぜひ、これらの論考をもとに、国民的論議を広げようではありませんか。

「法と民主主義」編集委員会 丸山重威


 
時評●国民対話カルテットのノーベル平和賞受賞

(弁護士)鈴木亜英

*激動のチュニジア情勢

 チュニジアの国民対話カルテットがノーベル平和賞を受賞した。受賞は「多元的民主主義の建設に決定的に貢献した」と云う理由である。
 チュニジアは地中海に面した人口約一千万人の国。2010年末に始まったジャスミン革命によって、腐敗したベン・アリ独裁政権を倒した。この余波はエジプトなど瞬く間に北アフリカ、中東諸国へと伝播し、アラブの春と呼ばれた。しかしその後の進展は必ずしもよろしくない。独裁政権の退場後のチュニジアは、宗教と世俗世界の権力闘争が激しさを増し、政治、経済、安全保障はどれをとっても困難に直面していた。民主化へのプロセスは揺らぎ始めていた。
 憲法草案の作成は進展をみないなか、政府と反政府派間の緊迫は高まり、反政府派の先導した2013年夏の大抗議運動は国民議会の存続さえ危ぶまれる状況を生み出した。どちらかが勝てば、どちらかが負けるという対立図式が国の危機を救うことにならないと誰もが思い悩んだ。
 そこに登場したのが、ノーベル賞受賞のチュニジア国民対話カルテットであった。チュニジア労働総同盟【UTICA】はチュニジア工業・商業・手工業連盟【UTICA】の働きかけを受け、市民団体連携の第一歩を踏み出し、その後これにチュニジア人権連盟【LTDH】とチュニジア弁護士会が加わり、2013年夏、この4つの団体によって、カルテットを結成された。民主主義か暴力かの岐路のなかで紛争より政治的同意に向けての協働が始まった。
 今回の受賞はこの辛抱強い対話と民主主義擁護への道が評価されたのだ。アラブの春を一時は謳歌したエジプト、リビア、シリアはその後の軍事紛争と無政府状態、強権政治など混乱を極めている。独裁政治しか育たないと云われたアフリカにあって、チュニジアはまさに希望の星となった。しかし、昨年2度にわたりISのテロ攻撃を受けただけでなく、すでに3千人を超えるIS外国人戦闘員を排出しており、テロと経済不安に揺らぐチュニジアの前途に問題は多い。

*パネルディスカッションに招待された国民救援会

 そんな中、日本国民救援会にチュニジア大使館からパネルディスカッションと祝賀会を催すので出席して欲しいとの招待状が届いた。受賞したカルテットのひとつに、人権団体があったからである。指名を感謝し、これを引き受けることにした。パネリストは五人。それぞれの立場からの発言をお願いしたいと云うので、私は戦後国民救援会が取り組んだ、弾圧、冤罪、民主主義との闘いを話すことにした。しかし、当日の打ち合わせに臨んだところ、パネリストとしてこられた主な面々はNHKの出川解説委員をはじめ、中東アフリカの専門家の方々であった。
 カイス・ダラジ駐日大使のあいさつを経て始まったパネルディスカッションはチュニジア情勢から始まった。同国には一度も行ったことのない私にとっては重いスタートとなった。私はカルテットの受賞を人権団体としてどう受け止めたかを先ず話し、国民救援会が辿った道のりを顧みて、民主主義と基本的権利を求める闘いも正に対話と忍耐にあったと話した。対立を克服しながら、この容易ではない目標に挑み続ける人々に万感胸に迫る思いから、連帯を表明したいと結んだ。経済格差と低迷が若者にしわ寄せし、失望を招いているのはチュニジアに限らない。政治を変えることがどれほど大切で、且つ大変かは私たちの経験からも身につまされる思いである。
 レセプションでは大使と話す機会もあった。私は民間の人権団体の受賞を政府が喜ぶ姿は美しいとお祝いを述べた。大使はムスリムやアラブへのさらなる理解を求め、今回の受賞は励みになると云いながら、未だ民主的移行は道半ばで今後何があるか分からないと表情を引き締めた。今回のノーベル平和賞の受賞がチュニジアの試練に光を当てた功績は大きい。アフリカの曙光とならんことを期待したい。



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