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 法と民主主義2016年12月号【514号】(目次と記事)


法と民主主義2016年12月号表紙
特集★治安国家化・監視社会化を問う─何のための刑訴法・盗聴法「改正」、共謀罪法案か?─
特集にあたって………米倉洋子
◆開会挨拶 盗聴法案の背景………戒能通厚
◆基調報告 刑訴法改正と今後………小池振一郎
◆基調報告 成立した拡大盗聴法と共謀罪法案の相乗効果をもたらす危険性………海渡雄一
◆基調報告 秘密保護法、盗聴法・刑訴法、共謀罪と治安国家・監視社会化………白取祐司
◆会場からの質疑・応答・意見………豊崎七絵/小池振一郎/佐々木光明/白取祐司/海渡雄一/新倉 修/弓仲忠昭/戒能通厚/吉田博徳
◆集会のまとめ 法の原理・原則に立ち戻って議論しよう………新屋達之
◆特集関係資料

  • 特別寄稿●刑訴法改正及び共謀罪創設と憲法改正………内田博文
  • 書評●内田博文著『治安維持法の教訓──権利運動の制限と憲法改正』みすず書房………米倉洋子
  • 司法をめぐる動き・日弁連の死刑廃止と代替刑の検討を求める宣言について………小川原優之
  • 司法をめぐる動き・11月の動き………司法制度委員会
  • メディアウオッチ2016●《メディアの位置と影響力》求められる「メディア利用」を見抜く目 強まるネット、衰退するマスメディア………………丸山重威
  • あなたとランチを〈22〉………ランチメイト・高橋利明先生×佐藤むつみ
  • 委員会報告●司法制度委員会/憲法委員会………町田伸一/小沢隆一
  • 時評●核兵器問題は人類にとっての死活的な課題………大久保賢一
  • ひろば●「市民+野党共闘」の前進で、来年こそ安倍政権の打倒を………海部幸造

 
治安国家化・監視社会化を問う─何のための刑訴法・盗聴法「改正」、共謀罪法案か?─

◆特集にあたって
 二〇一六年一一月一九日午後、永田町の「全国町村会館」で、第四七回司法制度研究集会が開催された。
 本年五月二四日、強い反対の声を押し切って、刑事訴訟法と盗聴法の改正法案が成立したが(本誌五一〇号を参照)、その僅か三か月後の八月下旬、たたみかけるように、過去三度にわたり廃案となった「共謀罪」法案を、安倍政権が「テロ等準備罪」の名称で秋の臨時国会に提出するとの報道がなされ、一気に緊張感が走った。たちまち上がった反対の声に押され、幸い臨時国会には提出されなかったが、政権は二〇一七年の通常国会での成立をめざすとしている。
 こうした情勢の中で、今年の司法制度研究集会は、「治安国家化・監視社会化を問う─何のための刑訴法・盗聴法『改正』、共謀罪法案か?」というタイトルで開かれた。本号はこの集会の特集である。

 以下、基調報告者三名の論稿を紹介する。
 小池振一郎氏「刑訴法改正と今後」は、刑訴法改正の問題点、改正法の解釈・運用の在り方、反対運動を担った市民による「民間法制審」など真の刑事司法改革の道を論じる。特に、取調べの部分的な録音録画の証拠化による冤罪の危険とこれを克服する法解釈・弁護実践を詳しく展開する。
 海渡雄一氏の「成立した拡大盗聴法と共謀罪法案の相乗効果をもたらす危険性」は、「現代の治安維持法」と呼ばれる共謀罪の問題点を詳細に論じ、共謀罪によって盗聴捜査が拡大する危険、盗聴法の対象犯罪が共謀罪にまで広げられる可能性を指摘し、共謀罪法案を何としても阻止しようと訴える。
 白取祐司氏の「秘密保護法、盗聴法・刑訴法、共謀罪と治安国家・監視社会化」は、新刑事訴訟法の五〇年を振り返るという大きな視点の中で、特に二一世紀になってから人権抑圧的・重罰的な刑事立法が続いているが、これらは「戦争をする国」に向けての治安立法の役割を果たすこと、こうした立法が相次ぐ要因として政治状況の変化、弁護士層の変質、学会の変容を挙げ、今以上の治安立法の制定を許してはならないと述べる。
 会場での質疑応答と発言も含め、安倍政権が「任期中の改憲」、「九条の改正」を公言する中での一連の刑事立法が、戦争体制に向けられた治安立法であることを共有し、この流れを阻止する法律家運動の重要性を確認する有意義な集会となった。
 なお資料として、取調べ録画の証拠請求を否定した東京高裁の判例の抜粋、共謀罪法案の新旧対照表などを掲載したのでご活用いただきたい。

 本号には「特別寄稿」として、今年九月『治安維持法の教訓』を上梓された内田博文氏の「刑訴法改正及び共謀罪創設と憲法改正」と題する貴重な論稿を掲載することができた。これは一二月一五日、日民協を含む法律家五団体と二つの市民団体が共催して開いた市民集会「刑訴法等改悪と共謀罪─えん罪はさらに増える─」における講演録である。治安維持法と共謀罪の共通性、共謀罪と憲法改正の関係などが詳しく論じられ、司法制度研究集会の特集をいっそう深める内容となっている。
 本号が、多くの方々の手にわたり、共謀罪法案の国会提出を阻むために少しでも役立つことを心から願っている。


日本民主法律家協会事務局長 弁護士 米倉洋子


 
時評●核兵器問題は人類にとっての死活的な課題

(日本反核法律家協会事務局長)大久保賢一

 池田眞規先生の訃報に接した。先生の薫陶を受けた一人として心から哀悼の意を表したい。先生は「被爆者は預言者である」と言っていた。私は、この言葉を遺訓として受け止めている。先生は「核兵器の廃絶をめざす日本法律家協会」(日本反核法律家協会)の生みの親の一人である。協会は、1994年8月、核兵器の廃絶と被爆者支援を目的として発足している(初代会長故松井康浩弁護士)。
 当時、協会は国際反核法律家協会(IALANA)と連携しながら、「世界法廷運動」に取組んでいた。この運動は、核兵器の使用や使用の威嚇は国際法上許容されるかどうかを、国際司法裁判所に判断してもらうというものであった。1996年7月、国際司法裁判所は、「核兵器の使用や使用の威嚇は、一般的には違法。ただし、国家存亡の危機においては、どちらともいえない。」との勧告的意見を出している。
 池田先生は、この運動を広げたいと考えていた。けれども、先生からすれば、その広がりは物足りないものであったであろう。当時も現在も、核兵器廃絶や被爆者支援に取組む法律家の数は決して多くはない。もちろん、核兵器廃絶に反対だとか被爆者への支援は無用などと考えている人はいないだろうけれど、先生のように取組んだ人は少ないであろう。核兵器廃絶は、日弁連も含め、日本の法律家たちのメインテーマとはなっていないのである。
 現在、国連総会は、核兵器の使用を禁止し、その廃絶のための法的枠組み(「核兵器禁止条約」)の交渉を開始しようとしている。2017年3月には、市民社会にも門戸を開く形で、国際会議が開かれることになっている。けれども、日本政府はこの動向に反対している。米国の核の傘はわが国の安全に不可欠だし、核兵器国が賛成しない核兵器禁止など無意味だ、一歩一歩現実路線を進めなければならないという理由である。唯一の戦争被爆国が「核兵器禁止条約」の早期実現に反対しているのである。「悪魔の兵器」(被爆者の表現)が国家安全保障の切り札とされているのである。この論理が普遍性を持つというのであれば、北朝鮮に核を手放せという要求はできないことになる。なぜなら、北朝鮮の核保有の動機は、核兵器が自国の体制と安全を保障するということだからである。結局、核抑止論は、核拡散をもたらしているのである。
 法律家集団において、核兵器廃絶がメインテーマになっていないことと、日本政府が核抑止論にとらわれていることは、この国の核兵器に対する到達点なのであろう。池田先生は、このことに気を揉んでいたのだと思う。先生は饒舌の人ではなかった。むしろ、以心伝心で伝わらないとじれったがるところさえあった。その分、元々言葉が通じ合わない外国の人たちとの交流にも何の不便を感じなかったのかもしれない。誠に稀有な存在といえよう。
 先生は、被爆者とともに、核兵器廃絶を訴えていた。被爆者は先生を信じていた。現在、国連は、「核兵器禁止条約」に係る会議を始めようとしている。日本共産党の27回大会の決議案には「核兵器問題は、外交問題のあれこれの一部分ではなく人類にとっての死活的な緊急・中心課題」とのフレーズが現れている。「被爆者は預言者である」という伏流が再び地上に現れたのかもしれない。
 今、日本の被爆者にとどまらず、韓国、カナダ、ブラジル、メキシコなどに在住する被爆者たちの呼びかけで「被爆者は核兵器廃絶を心から求めます」というヒバクシャ国際署名が取組まれている。地球の人口の一割7億人の署名を目指すという。次期米国大統領はトランプ、現在のロシア大統領はプーチンである。金正恩よりもよほど手強い相手である。彼らを凌駕する力がないとすれば、私たちは、これからも核の地雷原でささやかな幸せを求めて生息しつづけることになる。その凌駕する力とは何か。核兵器をなくし、核に依存しない社会を作るという人類社会の一致した意思であろう。せめて署名を成功させたいと心から思う。



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