「法と民主主義」のご注文は注文フォームからお願いします

 法と民主主義2017年10月号【522号】(目次と記事)


法と民主主義2017年10月号表紙
特集★新段階の「日米安保」
特集にあたって………編集委員会・丸山重威
◆憲法9条で拓くアジアの平和──安倍流「北朝鮮の脅威・9条改憲」論批判──………小沢隆一
◆変貌する自衛隊 日米同盟と「安保法制」のくびき………石井 暁
◆進む日米軍事一体化と日本の基地………上原久志
◆異形の怪鳥 同盟を象徴──オスプレイに見る隷従の実態………阿部 岳
◆軍事大国化と防衛費(軍事費)の膨張──生存権保障の危機──………熊澤通夫

  • 連続企画●憲法9条実現のために〈15〉─Aテロ対策と国家緊急権──緊急状態下フランスの人権(下)………村田尚紀
  • 司法をめぐる動き・LL7構想(文科省の新しい法科大学院政策)について………森山文昭
  • 司法をめぐる動き・9月の動き………司法制度委員会
  • メディアウォッチ2017●《選挙とメディア》 争点は「3極」ではなく「改憲」 求められる「指針」示す勇気………丸山重威
  • あなたとランチを〈30〉………ランチメイト・国民救援会東京都本部×佐藤むつみ
  • 特別寄稿 皇室典範と憲法原則との本質的な矛盾を考える 奥平康弘著『「萬世一系」の研究─「皇室典範的なもの」への視座』を読んで………中島 晃
  • 事件・ホットレポート 取調拒否権行使で不起訴処分勝ち取る──黙秘権の正しい実践のために………前田 朗
  • BOOK REVIEW 岡本洋一著「近代国家と組織犯罪 近代ドイツ・日本における歴史的考察を通じて」成文堂………………大場史朗
  • 委員会報告●司法制度委員会/憲法委員会………町田伸一/大江京子
  • 時評●2017年総選挙………尾林芳匡
  • ひろば●誰も気にしていないよ、ね、というひとに………永山茂樹

 
新段階の「日米安保」

◆特集にあたって
 ことし五月三日、安倍晋三首相が改憲派の集会と読売新聞の紙上で「九条一、二項はそのままにして、自衛隊の存在を憲法に書き込む」と述べたのを契機に、改めて日本の安全保障が議論になっています。突如始まった二〇一七年一〇月第四八回衆院総選挙も、この憲法と安全保障が実は最大の争点でした。
 しかし、災害が続く日本で既に欠くことができないものとなっているにもかかわらず、災害出動は自衛隊の任務ではなく、自衛隊は「防衛力」として、整備が続く「実力」であることに違いはありません。そしてさらに、自衛隊と米軍の活動は、「米軍再編」と「日米同盟」を規定した「2+2合意」、さらに「新ガイドライン」(二〇一五年日米防衛協力指針)、自衛隊は「戦争法」(安保関連法制)の成立で、大きく変貌してしまっています。
*  *  *
 「自衛隊の存在を憲法に書き込むだけの改憲がなぜ危険なのか」──。国民の中にまだ残るその疑問への回答はこの「自衛隊の変貌」です。
 もともと自衛隊は、「戦力」ではない「警察予備隊」として「実力」を持った時代とはもちろん異なり、既に世界の十指に数えられるようになっています。
 「集団的自衛権の否認」「海外派兵の禁止」「非核三原則」「防衛費GNP1%枠」「武器輸出の禁止」などに裏付けられ、「専守防衛」の「非戦力」だったはずでしたが、それも変わりました。
 安保法制と集団的自衛権容認で、「米国からの要請がなくなり、改憲の必要はなくなった」と首相が言うほど(一〇月一四日付「東京」田原総一朗氏の外国特派員協会での会見)です。しかし、安倍首相の提案による「九条改憲」で書き込まれる「自衛隊」は、災害救助に活躍する自衛隊では全くなく、事実上、米軍の指揮下で集団的自衛権を行使し、軍事行動する自衛隊です。
 編集委員会は当初、こうした観点から、全国の基地からの報告をまとめられないか、と考えました。全国の基地も明らかに変化しているからです。しかし、諸般の事情から、結果的には基地の現場は、沖縄からの報告に代表してもらい、安倍政権が進めてきた安保戦略に絞ることになりました。
 論考では、「憲法九条で拓くアジアの平和─安倍流「北朝鮮の脅威・九条改憲」論批判─」を小沢隆一東京慈恵医大教授が、総選挙が闘われている現状の下での安全保障問題をまとめているほか、日本平和委員会の上原久志常任理事が「進む日米軍事一体化と日本の基地」で、日米が共同した軍事戦略をまとめていただきました。さらに、「軍事大国化と防衛費(軍事費)の膨張──生存権保障の危機」は、経済評論家・熊澤通夫氏の力作です。そして、沖縄タイムス・阿部岳記者の「異形の怪鳥 同盟を象徴──オスプレイに見る隷従の実態」は「沖縄のいま」を事実からえぐっています。加えて、防衛省取材を続けている共同通信社・石井暁編集委員のインタビュー「変貌する自衛隊 日米同盟と『安保法制』のくびき」を掲載しました。
 いつの間にか、一人前以上の「軍事国家」の姿を見せるようになった日本。この特集は、決して十分ではないでしょうが、それなりに、現時点での「日米安保の実相」を映し出しているのではないでしょうか。
*  *  *
 今年春誕生したトランプ米政権と北朝鮮・金正恩政権の間で、軍事と言葉の対立が過激になっています。
 安倍首相は今年四月、朝鮮から来日したペンス副大統領の「平和は力によってのみ、初めて達成される」との発言に対し、「日米同盟の強化が不可欠」と答え、「圧力強化」を繰り返しました。さらに、九月の国連総会では、「『全ての選択肢はテーブルの上にある』とする米国の立場を、一貫して支持」「必要なのは、対話ではない。圧力だ」と述べています。ドイツのメルケル首相が「北朝鮮を完全に破壊する」とのトランプ発言に「私はそのような脅しには反対」と強調、マクロン仏大統領も「緊張を高めることを拒絶する。対話の道を閉ざすことはしない」「テロや気候変動などは多国間主義を通じてしか乗り越えられない」と述べたのと正反対です。核兵器禁止条約に参加せず、反対するよう他国に働き掛けていることを含め、「米国追随」の「日本の孤立」が目立っています。
 問題はこの状況が、日米安保の変化や安保法制の新設で、そのまま戦争の危険につながっていることです。自衛隊は四月、朝鮮近海に空母や爆撃機を派遣して圧力を強める米軍に協力し「米艦防護」や「給油」を行いました。日本国憲法は、第九条一項で「国権の発動たる戦争」と同時に「武力による威嚇又は武力の行使」を永久に放棄しています。先制攻撃をも許さない米国の「威嚇」に同調するのは明らかな憲法違反です。
*  *  *
 この特集号を編集し、執筆依頼している最中、安倍首相が突然、衆院解散、総選挙に踏み切りました。満を持していた小池百合子東京都知事が動き「希望の党」を結成、九月初め就任したばかりの前原誠司・民進党代表はなぜか「希望の党への合流」を宣言、「安保法制容認」「改憲支持」の「踏み絵」を受け、枝野幸男議員らは「立憲民主党」を立ち上げました。しかしこのことについても、前原氏はなぜか「想定内」と話しています。
 国会開催請求を受けていながら放置し、臨時国会召集の冒頭で所信表明もなく解散する安倍首相は「私はこの選挙で国民の皆さんから信任を得て、力強い外交を進めていく。北朝鮮に対して、国際社会と共に毅然とした対応を取る」とし、「国難突破選挙」と名付けました。そして「朝鮮の緊張はますます高まる」との観測も出ています。
 しかし、この選挙で「安倍政治」が支持されることが、米軍の対朝鮮軍事行動を改めて支持することにつながるとすれば大問題です。
 また、希望の党が改憲を打ちだした以上、自公・希望・維新の「改憲大連合」の危険もあります。いずれにしても、この問題は、現代日本の最大の問題です。


「法と民主主義」編集委員会 丸山重威


 
時評●2017年総選挙

(弁護士)尾林芳匡

 2017は総選挙の年となった。憲法違反の安保法制(戦争法)・共謀罪に対する審判の機会として注目した。この国の政治は短期間に目まぐるしく動いた。歴史の激動期には数十年をひとまとめにした変化が短期間に生じるというが、10日前後の間に何度も驚くべき変化が生じた。

 与党は野党の憲法に基づく臨時国会召集請求に3カ月応じず、臨時国会冒頭に審議なしで解散した。北朝鮮の核・ミサイルの「危機」をあおり、内閣支持率に変化が生じたことをとらえて、森友学園・加計学園をめぐる疑惑の審議を避けようとするものであることは誰の目にも明らかであった。憲法に抵触する立法の強行と行政のゆがみが審判を受けるべきであった。

 野党第一党だった民進党は、候補者を立てず、希望の党に合流しようとした。7月の都議選の結果を受けて目新しさを装って選挙をたたかおうとする点で、この党が、自らと支持者・協力者の力を信頼しておらず、7月の都議選で発揮された小池百合子氏の人気にあやかろうとしていることを、あらわにした。それは他面からみれば、安保法制反対運動以来の市民と野党の共同への背信でもあった。
 希望の党は、民進党を離れた政治家と改憲を推進する議員らで準備されていたが、解散が迫る時期に小池百合子都知事がリセットを宣言し、小池百合子氏主導の政党として立ち上がった。2016年都知事選の後、「希望の塾」で政治家志望者を集めていたが、すでに2017年2月に「希望の党」の商標登録を済ませていたというから、その政治的野心と手回し、ぎりぎりのタイミングでマスコミの注目を引き付ける手腕には驚く。数日間の間、マスコミは「小池劇場」と化し、「自民か希望か」が総選挙の主たる選択肢であるかのような報道があふれた。

 が、安保法制と憲法改正容認を「踏み絵」として民進党の政治家を選別するもとで、立憲民主党が立ち上がった。転機となったのは、小池百合子氏がマスコミの前で、笑顔で「排除します」と述べ、その動画が出回ったことであった。希望の党の公認を得ない民進党の政治家が相当数生まれ、多くの選挙区で立憲野党の候補者が一本化され、支持を集めた。希望の党の人気が失速したのは、安保法制と憲法改正を容認するというその路線とともに、「排除」するという小池百合子氏の政治姿勢が独裁的な危うさを感じさせたことも大きい。

 発足直後の立憲民主党は、みるみるその支持を拡大した。ぶれずに安保法制・憲法改正反対をかかげる共産党・社民党とも一定の共同が実現した。希望の党が発足し民進党が合流を決めるもとで、共産党と社民党のみの共同も相当数実現し、共産党による小選挙区の予定候補の取下げも、共同を加速する役割を果たした。マスコミの報道も、「自民公明か希望維新か立憲民主共産社民か」の三極の争いと変化した。

 民進党の政治家の相当数が希望の党に行かず、立憲民主党など立憲野党が一定の共同を実現し、立憲野党が一定の支持を集めた点には、憲法擁護・安保法制反対の市民と野党の共同の力が、あらためて示された。2015年9月の安保法制強行以来、2016年参院選の一人区や、新潟県知事選、仙台市長選で積み重ねられたこの2年間の共同の努力は、生かされた。

 希望の党が基本政策で自民公明と共通であること、選挙後の自民党との連立を否定しない旨を述べたことから、希望の党と維新の会のブロックは、自民公明の補完勢力との批判がしだいに強まり、投票日を迎えた。

 総選挙後、改憲を許さない国民運動があらためて求められる。これからも激動期が続く予感がする。
(おばやし よしまさ)



©日本民主法律家協会