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 第13回相磯まつ江記念・法と民主主義賞 2017年7月8日


■第13回法と民主主義賞選考委員

委員長  広渡 清吾(東京大学名誉教授)
委 員  飯島 滋明(名古屋学院大学教授)
委 員  泉澤  章(弁護士)
委 員  岸  松江(弁護士)
委 員  串崎  浩(日本評論社代表取締役)

■選考委員会報告

 本年度の選考委員会は、飯島滋明、泉澤章、岸松江、串崎浩および広渡清吾によって構成され、広渡が委員長を務めた。委員会は、2016年5月29 日、6月19日および6月28日に開催し、「法と民主主義」2016年4月号(No.507)から2017年2/3月号(No.516)を対象として選考を行った。選考に際しては、特集企画および個人論文の双方を対象とし、各委員が三点程度の授賞候補作を提案することにした。

 今回の選考対象期間の「法と民主主義」は、安倍政権の反立憲主義的政策の強行に対して、その内容を分析し、いかに闘うかを一貫して追求した。その課題は、憲法第1条、第9条、そして第25条等をめぐって提起された。とりわけ、刑事訴訟法・盗聴法の「改正」から、すでに3度廃案となった「共謀罪法案」の再登場について、治安法制展開の危機を正面に見据えて分析を行い、警鐘をならした。また、2016年7月の参議院議員選挙は、「戦争法」に対する市民の批判を現実の力とすべき一大政治戦であったが、「法と民主主義」は各地の市民による野党との創意にみちた共同の活動を総括し、記録する試みを行った。このように、今年度もまた「法と民主主義」は、日本社会の抱える課題の打開を目指す民主主義運動の重要な駆動軸として役割を果たした。

 各委員は、いうまでもなく差異化して評価することが難しいなかで、授賞候補作を提案したが、次のように多岐にわたった。まず、特集として「検証 安倍政権の改憲戦略」(4月号)、「市民と野党の共同」(8/9月号)、「憲法25条と私たちの生活」(10月号)、「治安国家化・監視社会化を問う」(12月号)、「南スーダン・PKO自衛隊派遣を考える」(1月号)、そして「象徴天皇制をめぐる今日の議論」(2/3月号)が挙げられた。また、個人論文として、小林武「沖縄から問う憲法と平和」(4月号)、菱山南帆子「市民は問う@風に頼らず、確かな地殻変動で山を動かそう」(4月号)、武井由起子「市民は問うA見たいと思う世界の変化に、私自身がなることを通じて」(4月号)、松村比奈子「大学と学生の学びを支える非常勤講師の諸問題と非常勤講師組合の取り組み」(6月号)、森川清「生活保護とは何か−狭くなる窓口にどう抗うか」(10月号)、井端正幸「沖縄と憲法―70年目の検証」(11月号)、海渡雄一「成立した拡大盗聴法と共謀罪法案の相乗効果をもたらす危険性」(12月号)、白取祐司「秘密保護法、盗聴法・刑訴法、共謀罪と治安国家・監視社会化」(12月号)、李京柱「韓国における朴大統領疑惑と民主化運動のダイナミックス」(1月号)、伊藤千尋「『攻め』の市民運動を」(1月号)および石原昌家「琉球沖縄からみた天皇・天皇制」(2/3月号)が挙げられ、そのなかには3点中の第1位の評価をえた論文もあった。

 このような多様な候補作について、委員会は、「法と民主主義」の運動をより発展させるために、今、注目し、激励し、今後の健闘を一層期待するという趣旨にそって選考することとし、次のような結論に至った。

 法と民主主義賞は、特集「徹底検証『改正』刑訴法・盗聴法」(7月号)および「治安国家化・監視社会化を問う」(12月号)に授与することにした。2017年6月の「共謀罪法」(組織犯罪処罰法改正)は、特集の表題「治安国家化・監視社会化」が示す通り、日本社会の民主主義と自由に大きな脅威をもたらしうる。「共謀罪法」と盗聴法を連動させる警察の権力行使を抑止し、「共謀罪法」の廃止に向けた運動をこれから進めていかなければならない。この2つの特集は、共謀罪法案に反対する運動に有効な手段を提供した。その意義を高く評価し、この成果の上に、執筆陣を中心に今後の闘いにおける一層の活躍を期待することが授賞の理由である。

 法と民主主義特別賞は、候補として挙げられた中から2つの視点でグループをまとめて、それぞれに授与することにした。1つは、「市民の力、時代を拓く」、もう1つは「沖縄から闘う」である。

 「市民の力、時代を拓く」は、安倍政権に対する闘いの中で、どのように市民の力が発揮されたか、どのようにその力を引き出すべきか、また、どのように問題を掘り起こして闘うかについて、私たちを勇気づける作品を取り上げた。菱山南帆子「市民は問う@ 風に頼らず、確かな地殻変動で山を動かそう」(4月号)、武井由起子「市民は問うA 見たいと思う世界の変化に、私自身がなることを通じて」(4月号)、松村比奈子「大学と学生の学びを支える非常勤講師の諸問題と非常勤講師組合の取り組み」(6月号)、李京柱「韓国における朴大統領疑惑と民主化運動のダイナミックス」(1月号)および伊藤千尋「『攻め』の市民運動を」(1月号)の各論文ならびに特集「市民と野党の共同」(8/9月号)における参議院議員選挙の各選挙区からの闘いの報告、がここに位置付けられる。

 「沖縄から闘う」は、小林武「沖縄から問う憲法と平和」(4月号)、井端正幸「沖縄と憲法−70年目の検証」(11月号)および石原昌家「琉球沖縄からみた天皇・天皇制」(2/3月号)の3つの作品を取り上げた。「沖縄から闘う」は、日本の近代と戦後における沖縄の地位の考察を踏まえて、いかに安倍政治と闘うかを示し、もっと沖縄に連帯し共に戦うことをわたしたちに求めており、これは喫緊の課題として受け止めなければならない。

 今年度の選考結果は、例年よりも多くの執筆者を顕彰することとなったが、以上の通り、選考委員会は全員一致で決定した。
(第13回・相磯まつ江記念「法民賞」選考委員長 広渡清吾)



■第13回法と民主主義賞受賞者の発表
  第13回の受賞者及び授賞理由は下記の通りです。

*法と民主主義賞
特集「徹底検証『改正』刑訴法・盗聴法」(2016年7月号510)および「治安国家化・監視社会を問う」(2016年12月号514)
新屋達之、小池振一郎、葛野尋之、今村核、三島聡、村井敏邦、海渡雄一、白取祐司、内田博文
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*法と民主主義特別賞「市民の力、時代を拓く」
「市民は問う@ 風に頼らず、確かな地殻変動で山を動かそう」(2016年4月号507)
菱山南帆子
「市民は問うA 見たいと思う世界の変化に、私自身がなることを通じて」(2016年4月号507)
武井由起子
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*法と民主主義特別賞「市民の力、時代を拓く」
「『攻め』の市民運動を」(2017年1月号515)
伊藤千尋
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*法と民主主義特別賞「市民の力、時代を拓く」
「韓国における朴大統領疑惑と民主化運動のダイナミックス」(2017年1月号515)
李 京柱
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*法と民主主義特別賞「市民の力、時代を拓く」
「大学と学生の学びを支える非常勤講師の諸問題と非常勤講師組合の取り組み」(2016年6月号509)
松村比奈子
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*法と民主主義特別賞「市民の力、時代を拓く」
「市民と野党の共同・共闘はこう闘われた−全国の状況」(2016年8/9月号511)
大竹進、新里宏二、外塚功、坂本恵、河村厚夫、毛利正道、纐纈厚、大西聡、阿部広美、岡部勝也、小林武
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*法と民主主義特別賞「沖縄から闘う」
「沖縄から問う憲法と平和」(2016年4月号507)
小林武
「沖縄と憲法−70年目の検証」(2016年11月号513)
井端正幸
「琉球沖縄からみた天皇・天皇制」(2017年2/3月号516)
石原昌家
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