JDLAトップへトップへ日本民主法律家協会第51回定時総会

原発の稼働再開の中止を求め、原発のない社会の構築を訴える特別決議

1 政府は、本年6月16日、財界などの意を受け、圧倒的に多数の反対の世論を無視して、大飯原発3号機・4号機の再稼働を決定した。7月1日に3号機を再起動し、引き続き4号炉も起動させる計画でいる。
  しかし、大飯原発直下の活断層の可能性が指摘される中その調査すら行わず、免震施設、ベント設備とフィルター、ポンプを守る防潮堤の建設等の基本的な安全対策を先送りにされたままでの同原発の再稼働は、到底認められるものではない。

2 そもそも、福島第一原子力発電所事故の原因解明すら未だなされていない。
  野田首相は、昨年12月16日、「原子炉は冷温停止状態になった」などと福島原発事故の「収束宣言」を行ったが、福島第一原発では、原子炉や核燃料の状態すら未だ具体的にわかってはおらず、現在もなお、毎時数千ベクレルという極めて大きな放射線量の放射性セシュウムが放出され続けており、1号炉の建屋内では、毎時1万ミリシーベルトを超える放射線量が計測されている。加えて、昨年3月の事故以降も、各地で原発敷地直下・付近に新たな活断層の発見があり、改めて地震大国日本における原発の危険性が浮かび上がっている。
  こうした中では、なによりも、福島原発事故の原因の解明と、全ての原発についての徹底した安全性の確認こそが必要なはずであるが、政府と財界らは、これを行わないまま、無反省に、根拠のない「安全神話」を振りまき、大飯原発に引き続き伊方原発をはじめ各地の原発の再稼働強行を目論んでいる。そればかりか、政府と民主・自民・公明3党は、6月20日に原子力規制委員会設置法を、国会での実質的議論をほとんどしないまま成立させて、発電用原発の運転期間を原則40年とし、更に20年の延長も可能とした。しかも同法および原子力基本法の目的に「我が国の安全保障に資すること」との文言を滑り込ませて、原子力利用に非公開部分を持ち込むことを法的に許容して「自主・民主・公開」の基本原則を空洞化させ、更には軍事転用への道を開こうとまでしている。

3 福島第一原子力発電所の事故は、ふるさとの山や河川や海や生活の場を目に見えぬ放射能で汚染し、人々の生活基盤を奪い、財産を奪い、子どもの遊びの場を奪い、生徒の学習の場を破壊し、家族の別居を余儀なくさせるなど様々なレベルのコミュニティを破壊し、人々の健康を損ない、大きな不安を与えている。これまで私たちが経験をしたことのない質の、多様かつ広範にわたる、膨大な被害であり、こうした被害が今なお継続していて、解決の見通しすら全く立っていない。
  こうした福島原発事故の現実を少しでも直視するならば、政府と財界らが強引に推し進める「収束宣言」も「再稼働」も、到底あり得ないものである。

4 こうした過酷な被害をもたらした人災を2度とくり返されることが無い社会を創っていくことこそが、この事故を経験した私たちの責任である。
  そのためには、まず、事故の原因を徹底的に明らかにすると共に、こうした被害をもたらすこととなった背景も含め、加害者である東電と、原発推進政策を国策として強行してきた国の法的責任、政治的・社会的責任を明らかにすることが不可欠である。この点、国会事故調査委員会は、福島第一原発の地震に対する耐力不足の放置していこと、津波リスクを認識していながら対策を怠っていたこと、シビアアクシデントの国際水準を無視していたこと、これらを許した 規制庁との関係、等々について指摘し、東電のと国の責任を厳しく指摘している。そして、そうした原因と責任の明確化の上に立って、被害の回復と、それを実現するための具体的政策を提起し、国と自治体にそうした施策を速やかに、その責任において実行させていくことが必要である。
  そして、何よりも、大飯原発の再稼働を中止させ、全ての原発の再稼働を許さず、原発のない社会を創っていくことが必要である。
 原発は、その為の核燃料の生産、原発の運用、使用済み核燃料の処理等の過程において、原発労働者をはじめとする多くの被曝者を発生させる。ひとたび事故を起こせば、私たちが経験をしたような未曾有の被害を引き起こす。そして、巨大地震の巣の上に位置する日本においては常にその具体的危険をはらんでいる。更に、原発は、その稼働から発生・生産される核廃棄物の処分対策・技術さえ未だに確立していない。
  こうした中で未曾有の福島第一原発事故を経験した私たちは、原発のない社会を創っていくことを選択すべきである。そうした「安心して暮らせる安全な社会の実現」は、日本国憲法が、恐怖と欠乏から免れ平和のうち生存する権利(前文)、幸福追求権(13条)、生存権(25条)として保障しているところであり、全原発の廃炉に向けた取組は、国と自治体がその実現の責務を負い、最大限の努力を尽くさなければならないはずのことである。
  そして、そうした選択が十分に可能であることは、再生可能エネルギーの導入量を飛躍的に高めて脱原発を選択したドイツをはじめとする諸外国の経験からも、明らかである。私たちは、原発のない社会に向けて、再生可能エネルギーの大幅な導入のみならず、エネルギー多消費型産業構造の転換、私たちのライフスタイルの改革、原発に依存しない地域経済の構築等々の諸課題を達成していくことが必要である。

5 今、「脱原発」の世論と運動が大きく広がっている。「福島」を風化をさせず、被害の回復・完全賠償と脱原発社会の実現を目指す為には、この世論と運動を更に更に大きく拡げていくことが必要である。
  私たち日本民主法律家協会は、この1年間、連続講座や3回にわたる機関誌「法と民主主義」での特集、本年4月には、多くの諸団体との共同による「『原発と人権』研究交流集会 in 福島」等の活動に取り組んできた。
  私たち日本民主法律家協会は、こうした活動に踏まえ、本日、第51回定時総会において、改めて、福島第一原発事故の原因の徹底解明、東電と国の法的責任、政治的・社会的責任の明確化、その上に立っての被害の回復・完全賠償とそのための具体的政策の作成・実行、そして、原発の稼働再開の中止と原発のない社会の構築を強く訴える。当協会も、そのための世論形成と運動に最大限の努力を尽くすことを宣言する。

2012年7月7日

日本民主法律家協会第51回定時総会



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