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東日本大震災に憲法の原則に徹した復旧・復興を

2011年4月11日
日本民主法律家協会執行部

(1)東日本大震災が起こった3月11日から1ヶ月を経過した。
 この日東日本を襲った大震災の犠牲者は、4月11日現在確認された死者数で1万3千人を越え、行方不明者約1万5千人を数えている。さらに、避難所生活を送っている被災者がいまだに約15万3千人という、未曾有の規模の被害となっている。
 亡くなられた方々につつしんで哀悼の意を捧げるとともに、ご遺族と被災者の皆様に心からお悔やみとお見舞いを申し上げたい。また、日夜被災者の救援と生活の保護、そして復興に向けての活動に奮闘されている皆様に深甚の敬意と感謝を表したい。
 当然のことではあるが、この被災者の救援と地域の復旧・復興は、国と地方自治体、特に国の責務である。国には最大限の努力を求めたい。

(2)現在緊急に求められているのは、被災地域への基本的な生活支援である。
 食料・水・燃料・医薬品・衣料・日用品といった物品や、医療・介護などサービスの十分な提供が必要である。現状では物資も人員も体制も充分確保されてはいない。ライフラインの一日も早い復活と充実も必要である。
 避難所は決して生活環境が整った場所ではない。高齢者や子どもも含め、少しでも安心して身体と心を休めることが出来るよう、避難所、宿泊施設の改善充実を図ると共に、充分な数の仮設住宅の一日も早い建設が求められている。

(3)生活基盤・産業基盤の再建に向けての、資金的・物質的支援とその体制が必要である。
   今回の震災で、事業者も労働者も、事業基盤・生活基盤を壊滅的に破壊された。農業、漁業、林業、工業、観光産業等の復興には莫大な資金と長い年月と労力が必要となる。例えば、水産業で言えば、船の再建、養殖設備の再建、港湾設備の復旧・復興、工場の再建、輸送手段の復旧等々が必要であり、それらの復旧・再建がなされても収入と生活が安定するまでにはかなりの月日を要する。このことは、農業・林業・工業・観光業等でも同様である。
   こうした再建・復興には、若干の補助金の給付といったレベルではなく、国がこれらの再建・復興のための資金を出し、復興支援・雇用の確保とその間の休業補償にも責任を持つ事が不可欠である。

(4)住居や街や地域の復興においても、国と自治体が責任を果たさなければならない。
 土砂、建物、自動車等々がれきの撤去だけでも膨大な人員と費用を要する。地震による地盤の崩落や洪水による広範囲な土地の水没に対しては、復旧工事、あるいは水没地の買い取りといった手当が必要である。
 また、街や地域の復興に当たっては住民の意見を十分に反映させた「住民参加のまちづくり」が推進されなければならず、トップダウンの「大型開発」で住民の意向が排除されるようなことは決してあってはならない。

(5)こうした救援、復興に向けての課題は、何よりも、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」「国は、全ての生活部面について、社会福祉、社会保障および公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」との憲法25条、そして憲法13条(幸福追求権)という日本という国の根本原則に則って進められるべきである。「恩恵」としての支援ではない「人権保障」としての「災害保障・災害復興」として、国こそが、予算的にも、組織体制の面でも最大の責任を負う者として明確に位置づけられなければならない。今回の救援、復興において、被災者個人の「自立」「共助」を強調して「国の責任」を曖昧にさせるような事があってはならない。
   また、各地方自治体は、こうした救援・復興において、住民に直結した立場で、何よりも福祉と防災の観点から取り組むことが求められている。

(6)政府・民主党は、こうした復旧・復興のための必要財源を、公債(震災国債)の発行と「復旧復興特別税」(法人特別税、特別消費税、社会連帯税)に求めようとしている。しかし、構造改革路線の下で痛めつけられてきた国民生活への負担は、極力避けるべきである。
   財源捻出のためには、まず、不要不急の歳出の思い切った削減が図られるべきである。何よりもまず、米軍への「思いやり予算」、とりわけグアムの米軍基地建設費用を削減し、救援、復旧・復興の財源とすべきである。また、先に発表された「新防衛計画大綱」は、従来の「基盤的防衛力整備構想」(専守防衛)を放棄して「動的防衛力」への転換を表明しているが、そのような莫大な予算(潜水艦、イージス艦、次期戦闘機等兵器の調達・開発、施設の増強等々)を必要とする軍事力増強は白紙に戻して、災害復旧・復興にこそまわされるべきである。

(7)この未曾有の惨禍に対して、多くの人々が思いを寄せ、救援と復興に力を集めている。こうした国民みなが力を合わせることを呼びかけることは当然のことである。しかし、その機に乗じて「国民の責務」を押しつけ、様々な意見に圧力を掛けて国民精神の統合へ誘導しようとする風潮も一部に現れている。関東大震災のときにもみられたこうした全体主義の危険な萌芽には注意を払う必要がある。
  また、民主党と自民党の間では、震災対策立法や復旧・復興のための予算措置、体制作りのためとして、「大連立」が目論まれている。さらに、日本経団連は、「政府における強力な指揮命令権を持った司令塔の確立」「道州制の導入も視野に入れた自治体間協議(県間および基礎自治体レベル)の促進」「中長期的な財政健全化方針の堅持と復興のためのコスト負担に係る国民的合意形成」などを「緊急提言」している。この大震災を奇貨として、消費税の引き上げ、行政権力の拡大や道州制の導入などといった新自由主義的構造改革路線を更に推し進め、さらには「大連合」の形成により比例定数の削減や軍拡を推し進めようとする動きを許してはならない。こうした動きに警戒を払い、押し戻さなければならない。


(8)この未曾有の東日本大震災の惨禍にあって、こうしたときこそ、憲法の平和、生存権、地方自治の原則に徹した、復旧・復興、新たな街・地域・社会の再建が目指されるべきである。
   私たち日本民主法律家協会も、そのために、法律専門家として役割を果たし、力を尽くす決意でいる。




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