日民協事務局通信KAZE 2002年5月

 ピープルズ・パワーの風よ吹け

(代表理事 榎本信行)

▼七〇年安保闘争の頃だったか、当時の老弁護士たちが、「時代は日本型ファッシズに向かっている」と警告し、「若い者は、危機感が弱い、その時になったらもう遅い」と言われていたのを思い出す。
 私は、「そんなものかな」と思う反面、「戦前派は心配性だなあ」と思った。あの頃は、まだ、戦前、戦中に治安維持法で投獄されたり、弁護士資格を剥奪されたりした先輩たちが健在で、私たち当時の若手に重みをもって存在していた。二度とふたたびあんな時代を繰返してはならないという、自らの体験に基づいた信念を語る人が多かった。弁護士だけでなく、裁判官や学者などのなかにも戦争にかりだされて、苦労したひとがいた。それらの人たちの体験に裏打ちされた言動は、戦争と平和の問題になると自ずから重みを持っていた。

▼あれから三〇年の歳月がたって、当時の老弁護士たちがほとんど第一線から退き、私などの世代が老弁護士といわれるようになった。あれから、時代は徐々に危険な方向に動いている。

▼防衛庁が、陰でコソコソと研究していた有事立法案が、三〇有余年をえて、陽の目を見ている。戦車を特車といい、歩兵連隊を普通科連隊などといって軍隊と呼ばれることを避けていた自衛隊は、いまや海外に「出兵」するまでになった。自衛隊の幹部も防衛大学卒業生が大量に進出し、制服組の力が強くなっているという。防衛庁長官も防衛大学出身者である。もともと戦闘を仕事とする技術者集団であるから、一般大学出身者の力が相対的に弱くなっていると思われる。シビリアン・コントロールも弱まってくる。「有事」だろうが、「緊急事態」だろうが、「周辺事態」だろうが、「武力攻撃事態」だろうが、そんなものは、どうせ発生しっこないとみんな思っている。しかしひとびとがたかをくくっている間に自衛隊が軍隊として、ますます肥大化し、強力になり、抑えがきかなくなりつつある。

▼そして、人権擁護法案とか個人情報保護法案とか言論の自由に関る法案が、国会に上程されている。こうした流れは、「日本型ファシズム」と先輩たちがいっていた時代を現しているのかしらと思ったりする。

▼ファシズムがどういうものなのか、よく分らないが、まだ息が詰まるような時代とまではいえない気がする。まだ間に合うと思う。  若い世代の正義感は健全であるし、市民の感性は鋭くなっている。何が問題かというと、それらを組織する力が弱いのである。小さな市民運動は、沢山あって、それぞれ力を発揮しているが、その力を統合して大きな力にする組織や契機がないのである。かっては、社共統一とか総評とか、問題は抱えていたにしろ大きな組織があった。今はそれがない。個別の選挙などで、「無党派」という名の下に大きな力を発揮することがあるだけである。その力を、結集するのに適しているもののひとつは、法律家の組織であるような気がする。人権と平和、民主主義の問題で市民を結集して闘うことをくりかえしつつ市民が力をつけ、統合していくことが未来への展望を開くだろう。二一世紀は、なんといってもピープルズ・パワーの時代である。

▼日民協は、その様な展望のもとに力量をつけていきたいものである。


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