日民協事務局通信KAZE 2003年7月

 特集の編集に参加して

(えひめ丸被害者弁護団 小口克巳)

■事件解決の哲学
 愛媛の井上弁護士から自由法曹団本部に相談が来たとき、私は本部事務局長をしていた。このため事件当初から関与することになった。
 私たちで相談した解
決の基本哲学は当初から定まり微動もしなかった。真相究明、責任の所在の明確化、再発防止策の確立、適正な賠償。加えて、責任ある者による謝罪など。不幸な事故が起こったとき、世間の耳目を集める事件が起こったときこうした方針が採られているだろうか。
■問題温存の哲学
 政治腐敗、警察の不祥事、談合などいつまでたっても悪の根を断ち切れない問題は枚挙にいとまがない。問題の本質に迫らないでただ単に賠償金を払ったり、何が悪かったかを曖昧にしたまま形式的に謝罪するということでは、再発が繰り返される。こうした事件では、問題の本質を明らかにしないままでの解決で、結局悪の根源を温存したままになっている。悪の根源は何時の場合でも不正・不当の利得を温存したがるのだ。
■医療事故についての態
 こうした問題解決のあり方は、あらゆる問題の解決のあり方に共通する。医療の場面でも多くの場合、患者に真相を明らかにしないままうやむやの解決がなされることはないだろうか。医師同士のかばい合いはないだろうか。
 民医連では、医療事故の再発防止のため医療事故を調査する第三者機関を創設することを提唱した。現在、医療事故を公表し、真相を究明して改善策を確立していこうとする医療機関について取材・報道を集中している。しかし、その報道姿勢をみるとあたかも医療事故を公表した医療機関で事故が多発しているかのような印象を与えるもので、事故に対してとっている積極的・前向きの姿勢を評価している報道はほとんど見あたらない。これでは、事実上事件公表を萎縮させてしまう。患者本位の医療を考えれば個別事故、しかも公表に踏み切った事故に目を奪われるのではなく、広い視野でその真相、問題点、責任の所在、再発防止などに焦点を当てた報道が望まれる。
 医師も社会一般からみればある種の特権階層だろう。特権についての批判は確実に高まっている。これも、医療事件を解く大きなファクターである。「隠蔽と問題温存」対「公表と真の再発防止」。どちらが時代の本流になるかが問われていると言えよう。
■国民の注目と批判の中でこそ
 えひめ丸事件を発生させたのは、強大な力を持つアメリカ海軍であった。アメリカ海軍の原子力潜水艦と軍需産業維持のために潜水艦の存在意義をアピールすることが必要だった。こうした思惑と、アメリカ海軍の横暴が結合して事件が発生した。しばしば行われていた体験航海では、お客を楽しませるために様々なエンターテインメントの要素が盛り込まれたのだろう。
 不正を温存しようとするもの、あるいは権力にしがみつき維持しようとする者、権力そのものが事件の下手人であるとき、これを許さないで問題解決をはかろうとするときには、巨大な力を結集しなければならない。社会的批判を集中して、また、大きな庶民の運動の中で解決を進めるしかない。相手が強大であればあるほど運動は大きくなくてはならない。他方で、問題解決の過程で国民の中に大きな民主的力量が蓄えられ、不正を許さない確固とした力が培われていくのである。大衆的裁判闘争を呼びかけるのもまさにこの理由による。
■えひめ丸事件とその解決が問いかけたもの
 真相を隠そうとするアメリカ海軍に対して、今までのたたかいの水準を一歩でも前に進めることができただろうか。弁護団に参加した者、運動に参加したみなさんに幾つもの論考を寄せていただいた。たたかいの経緯と理念、その結果について多くの方々の批判・ご意見をお待ちしたい。


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