日民協事務局通信KAZE 2004年4月

 風に吹かれて
 ゆるゆるとメコン

(弁護士 佐藤むつみ)

 ホーチンミン市の戦争証跡博物館には小学生がたくさん見学に来ていた。庭に展示されているアメリカ軍の戦闘機や戦車のあいだを駆け回る。おみやげ物売り場の前で物色。きゃーという子ども達の声が博物館の庭に広がる。ベトナム戦争が完全に終わったのは一九七五年四月。この子たちは当然生まれていない。この子たちの父母も生まれていなかったかも。
 博物館はあっけらかんとした南国の空の下にある。展示内容は重い。よく知った日本のフォトジャーナリスト達が撮った写真がたくさん掲載されている。虐殺の数々、枯れ葉剤の被害、死産した奇形の嬰児、そして虎の檻の再現まで。ベトナム語と英語の説明。戦争被害のコーナーの説明には日本語の説明も付いている。ところどころの説明文は剥がれていて残念。全展示に誰かきちんと説明を付けてあげたらと思う。
 ベトナムはここ二〜三年可愛い雑貨と衣料品、安い物価と美味しい食べ物で若い女性に人気の国である。ベトナムでアオザイを作ってちょっとしゃれたお店で美味しいスイーツを食べる。けだるい午後をのんびりする女性にもここに来てもらいたい。
 戦争の無惨さ愚かさは誰の目にも明らかである。他国に行っての戦闘が誤りだったことはついこの間充分すぎるほど分かったというのにイラクはベトナム化している。そこに自衛隊が派遣されている。ナパーム弾や枯れ葉剤と同じように劣化ウラン弾の被害が深化して広がる。同じことを繰り返しその結末は取り返しのつかない破壊である。ベトナムでおよそ三〇〇万人のベトナム人が死亡四〇〇万人のベトナム人が負傷した。五万八〇〇〇人以上のアメリカ兵が死亡したとパンフレットにある。七八五万トンの爆弾(銃弾は含まない)と七五〇〇万リットル枯葉剤ダイオキシンがばらまかれた。第二次世界大戦中にアメリカが各戦場に落とした爆弾の量は二〇万五七二四四トン、それでもベトナムは勝った。
 前の日に行ったメコン川の圧倒的な水量と複雑なデルタ、細くしなやかな人々。小舟のうえでの身のこなし。大儀なき泥沼の闘いに駆りだされたアメリカ兵の敵ではない。累々と屍を積み上げても勝てないのである。
 九条を改正して日本はどんな国になりたいのであろうか。戦争で誰が死ぬのか誰が儲けるのか何度も何度も経験しているのにまだ学ばない。「行け行け」と行っている人は最期まで死なないのである。まずは小泉とブシュがイラクに行って闘いなさい。
 愚か者にならないようにこの一年「法民」は連続企画を持つ。九条を確信にしなければならない。それは我々の叡知を集めたものでなければならないと思う。そして「インセクト昆虫」なんて言われて皆殺しにされるのも、殺す側に加担するのも絶対にごめん被りたい。


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