日民協事務局通信KAZE 2010年10月

 検察批判を一過性のものにしないために


◆大阪地検特捜部のフロッピーディスク改竄問題をめぐって検察批判の風が吹き荒れている。無罪を闘ったり冤罪に取り組んでいる弁護士には、それほどタマゲタことではないが、警察や検察に踊らされているマスコミも、ようやく捜査権力がいかに出鱈目で非道なことをするかを少しは分かったと思われる。
◆大阪地裁特捜部の件は、フロッピーディスクの改竄だけがクローズアップされているが、問題はそれだけではない。新たに再審申立を準備中の三鷹事件の場合、裁判所は一〇人の内九人について「公訴事実は、いわば全く実体のない空中楼閣」と断じながら、検察のやりたい放題の無法に目をつむり、いずれの供述調書についても「拷問、脅迫を立証する証左は毫も存在しない」として竹内景助に無期懲役を言渡した。竹内は高裁で一度の事実調べもなく死刑とされ、最高裁は八対七の僅差で上告棄却、再審請求中に獄死)。
◆無罪を勝ち取った村木さんがなぜ起訴されたか。『私は無実です 検察と闘った厚生官僚村木厚子の445日』には、検察官が、関係者と本人の自白を得るために、取調べにあたって、長時間・長期間の取調べで疲労困ぱいさせ、拷問とも言える精神的・肉体的な苦痛を与え、脅迫的・加害的あるいは逆に利益的誘導や暗示または明示的誤導の限りを尽くしたことが詳しく紹介されている。
 これらはいわば警察・検察の常套手段であるが、同書が優れているのは、週刊朝日の取材班は全ての裁判を傍聴し、記録を精査した上で、関係者に直接当って取調べの実態を解明している点である。しかも、主任の前田恒彦検事だけでなく、虚偽の供述調書を作成することによって壮大な虚構≠作り上げた国井弘樹、林谷浩二、上田敏晴、遠藤裕介、白井智之、坂口英雄などの検事・副検事の取調べの状況を、実名をあげて具体的に明らかにしている。
 フロッピーディスクを改竄した前田主任検事や大坪弘道特捜部長、佐賀元明副部長がどのような目的で何を護ろうとしたのか、これからある程度明らかにされると思われるが、四三通の供述調書のうち三四通が裁判で不採用となった上記の作成者たちの責任も重大で、法律家としてその名前を忘れてはならない。
◆同書はあとがきで、「裁判官は冤罪を防ぐ『最後の砦』でありながら、同じ法務省の傘下≠ニいうこともあり、検察の言いなりに判決を出しがちだ」と決め付けている。同じ法務省の傘下≠ニいう表現は正確ではないにしても、ごく例外的な場合を除き、裁判所と検察庁がほぼ一心同体のような存在であることは紛れもない事実で、九九・九%という有罪率や数々の冤罪事件を見ればそのように思われても仕方がないというべきであろう。
 検察の実態については、特捜関係だけでも、魚住昭著『特捜検察の闇』、村串栄一著『検察秘録 誰も取り上げなかった事件の深層』、宮本雅史著『歪んだ正義 特捜検察の語られざる真相』など、当事者が書いたものを除いてもこれまでもかなりの書物が出版されている。中でも大部な学術書である『日本の検察制度 日米の比較考察』(デイビット・T・ジョンソン)は、大量の参考文献と検察官はじめ多数の法律家に当ってその問題点を検討した結果、日本の司法は「検察官の楽園」であり、「検察官による虐待と過酷な取調べ」などの事実を具体的に紹介し、さらに「いいなりのマスコミ」についても言及している。
◆上記の週刊朝日の記者たちのように真実を明らかにしようと努力している報道人が存在していることは事実であるが、捜査当局に踊らされ冤罪を生み出す共犯者のような報道機関の責任も重大である。本誌もこの機会に検察問題に加え、「冤罪とマスコミ」といった特集を組まれることを期待したい。

(弁護士 高見澤昭治)


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