日民協事務局通信KAZE 2011年1月

 真の司法改革の実現に向けて官僚司法の根本的な改革を


 新しい年を迎え、日本列島は寒波に襲われ、特に東北・北陸は大雪で大変。そうした中、内閣改造が行われたが、人選を見ても、ますます民意から遠ざかるとともに、混迷を深めることが予測される。
 「混迷」といえば、司法の現状は、その最たるものと言ってよいであろう。私たちが求めてきた司法改革はまったく実現されず、官僚司法制度を温存したまま、裁判員制度の導入だけが喧伝され、その評価をめぐっての対立が激烈を極めている。
 日民協は、一九六八年に第一回司法制度研究集会(司研集会)を開催して以降、四一回にわたって市民のための司法はどうあるべきかを巡って、毎年たくさんの参加を得て、討議を重ねてきた。そして、日本の司法の閉塞状況を打破するために、一九八九年から九六年にかけ、フランス・ドイツ・スペインの裁判官を招き、司研集会でそれぞれの国の実情を紹介してもらうとともに、各地で講演をお願いした。さらに、一九九八年には約一ヶ月をかけてドイツの裁判所を廻って制作したドキュメント映画「日独裁判官物語」の撮影と、全国各地での上映運動に組織を挙げて協力した。
 そうした状況の中で、司法改革の機運が徐々に醸成され、一九九八年六月、小渕内閣が「司法制度改革審議会」を設置し、二年の期限を定め、佐藤幸治会長の下で審議が進められることとなった。ところが、審議会の目指す方向が、グローバリゼーションに対応するための司法改革≠ナあることを危惧した日民協では、これに対抗すべく「司法改革市民会議」を設置し、議論を重ね、二〇〇〇年二月付けで意見書をまとめ審議会に提出した。しかし、残念ながらその内容は全くといってよいほど受け入れられなかった。
 司法改革市民会議は、二〇〇〇年一一月に審議会が中間報告を取りまとめたので、これを検討し、その結果を、「国家と財界のためでなく、市民のための司法改革を」という意見書にまとめ、「法と民主主義」二〇〇一年一月号に掲載して公表した。司法改革市民会議の意見書は、第一部で「市民にとってあるべき司法改革」を具体的に提示し、第二部で「中間報告の内容と問題点」を「この国のかたち」とか「公共性の空間」といった空疎≠ネ基本理念を問題にするとともに、改革の眼目とした「人的基盤の拡充、制度的基盤の整備、国民的基盤の整備」の内容についても徹底的に批判した。
 審議会の提言を受けて導入されたこの度の司法改革≠ヘ、一言でいうならば全くのまやかしという他ない。民主的な司法制度を確立するための法曹一元制の実現や裁判官の任用制度、給与体系の改革には全く手をつけず、官僚司法制度はそのまま維持された。
日本民主法律家協会が創立五〇数年を迎えた本年の司研集会は、そういう現状を踏まえ、改めて市民のための真の司法改革とは何かを確認し、その実現のためになにをすべきかを研究し、討議する機会にすべきではないかということになった。
 そのプレシンポとして、二月四日に新藤宗幸千葉大教授を迎えて、報告をいただくとともに、活発な意見交換を行いたいと考える。新藤教授は、岩波新書『司法官僚―裁判所の権力者たち』の中で、「市民にとっての司法改革とは、まずなによりも、裁判官と裁判所の『自立』の制度条件を整えることにある。この条件を欠いたままでの法廷への『参加』や一部の有識者による裁判所委員会への『参加』などは、市民の司法を築くことにつながらない」と明確に指摘している。
 司法の現状に危機感と問題意識をもっている多くの会員・非会員多数の参加を期待したい。

(副理事長・高見澤昭治)


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