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 法と民主主義2013年4月号【477号】(目次と記事)


法と民主主義2013年4月号表紙
特集★適正手続を冒す「新時代の基本構想」──法制審特別部会の中間とりまとめ
特集にあたって………編集委員会
◆総論──法制審は何をするところか………五十嵐二葉
■各論
 ・「基本構想」第3・1(1)
◆「例外」設定は「可視化」に綻びを生む………豊崎七絵
 ・「基本構想」第3・1(2)
◆前提が充たされていない「司法取引」の導入………新屋達之
 ・「基本構想」第3・1(3)
◆人権保障の精神はどこに──現行法運用の検討ぬきでの盗聴拡大案………三島 聡
 ・「基本構想」第3・1(4)
◆自白への圧力除去にとり不十分な改革提案………葛野尋之
 ・「基本構想」第3・1(5)
◆取調べ中心主義の帰結としての弁護人の取調べ立会権の否定………立松 彰
 ・「基本構想」第3・2(1)
◆証拠開示の原点を論じる意義………渕野貴生
 ・「基本構想」第3・2(2)
◆検察司法の強化、検察官立証の容易化としての
「被害者等・証人支援保護政策」………立松 彰
 ・「基本構想」第3・2(3)
◆いま「被告人の証人適格」を認める必要があるか?………石田倫識
 ・「基本構想」第3・2(4)
◆被告人の権利保障に軸足をおいた議論を!………福島 至

◆特別企画●対米従属の正体──過去・現在
■特別企画によせて■今に続く過去 それは、「現代」とも言い表される………小沢隆一
■今に生きる 最高裁長官と米大使の密談………末浪靖司
■オスプレイ配備が示す法的問題点と沖縄の異議申立………新垣 勉

 
適正手続を冒す「新時代の基本構想」−法制審特別部会の中間とりまとめ

特集にあたって

 「足利事件」「志布志事件」「布川事件」「氷見事件」などの冤罪に対する無罪判決や、大阪地検特捜部の証拠改竄によるいわゆる「村木事件」など、検察・警察の在り方が問題になっています。「検察の在り方検討会議」が一昨年の二〇一一年三月、「新たな司法制度を検討する場が必要」と提言したことを受けて、二〇一一年七月に発足した「法制審議会・新時代の刑事司法制度特別部会」は、今年、二〇一三年一月二九日、「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」を出しました。しかし、この「基本構想」は、可視化などの法制化を口実にしながら、「通信傍受拡大、司法取引」など捜査機関の権限拡大が盛り込まれたものとなっています。
 一方、警察庁は二〇一〇年三月から、国家公安委員長主催の「捜査手法、取調べの高度化を図るための研究会」で、捜査の在り方の見直し、取調べの可視化・高度化をどう図るかを検討。同研究会は昨年二月、最終報告を出しましたが、法制審の「基本構想」は、ここで出された「高度化」の報告と連動したものとなっています。
 法務省は法制審議会には、かつての刑法改正では法案を示し、監獄法改正では要綱を示すなどの形で諮問してきました。しかし、日弁連などの反対で刑法改正は「口語化」だけの改正となり、監獄法は五回も廃案になりました。このため法務省は、「案」を示すことは得策でないと考え、抽象的な大枠だけ示し、委員には言いたいことを言わせて外形を整え、実質的に法務省の意向を出していく方式で今回の「基本構想」を作っています。
 本誌では、捜査機関の暴走と冤罪を防ぐ真の刑事司法の改革を求める立場から、今回の「法制審」での審議の狙いや「基本構想」で考えられている制度改革など「基本構想」への批判的検証を試みる特集を企画しました。「密室」の刑事司法にどうメスを入れ、捜査の暴走を防ぐかを考える素材にしていただければ幸いです。


 
時評●審議入りした共通番号法案その危険な本質

(獨協大学)右崎正博

 いわゆる共通番号法案(「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案」)の国会での審議が始まっている。「税と社会保障の一体改革」をうたった民主党政権の下で提案され、昨秋の衆議院解散劇により一度は廃案となっていたものであるが、今国会に再提出され、消費税の引き上げの前提として自公民三党の合意がなされているため、今国会で成立する公算が大きく、二〇一六年からの利用開始が見込まれている。
 共通番号制度とは、すべての国民に対して一一桁以上の「個人番号」を付し、その番号と氏名、住所、生年月日、性別、顔写真等が記載され、ICチップが付けられた「個人番号カード」を交付し、行政事務の処理にそれを利用するというものである。
 個人番号の利用が予定される事務の範囲は、年金・雇用保険・医療保険・介護保険等の資格取得・給付および保険料徴収の管理、児童扶養手当や各種自立支援給付金および生活保護費等の支給の管理、公的奨学金の貸与・返還等の管理、公営住宅の管理、災害時の支援金の支給事務など、また、税の申告や届出等の事務である。
 これら広範囲にわたる事務を個人番号によって一元的に管理することで、行政運営の効率化と国民の利便性の向上、社会保障給付と税負担の適切な関係の維持、手続の簡素化による国民の負担軽減などのメリットがあると宣伝される。しかし、あらゆる個人情報を国が全面的に把握し、一元的に管理することを前提とするので、危険性も無視できない。
 一九九九年の住民基本台帳法の改正によって、住民の本人確認情報(氏名・住所、生年月日、性別およびそれらの変更情報と住民票コードという一一桁の番号)を、本人の同意・承諾のないまま、国や地方公共団体相互の間で利用することを可能にする「住基ネット」(住民基本台帳ネットワークシステム)が導入されたとき、各地の住民から、憲法一三条の幸福追求権に含まれる「自己情報コントロール権」を侵害するとして、住基ネットの差止めを求める違憲訴訟が提起された。
 金沢地裁と大阪高裁では、プライバシーの権利の重要な内容である「自己情報コントロール権」を侵害するものであるとして、住基ネットを違憲とする判決が下されたが、後に最高裁は、本人確認情報はプライバシー性の程度が高くないとして、本人の同意がなくともそれを適法な行政目的のために利用することは憲法に違反するものではないとした。
 しかし、共通番号制が、行政機関相互間でやり取りしようとしている個人情報は、住基ネット訴訟で問題とされた本人確認情報とは比較にならないほど、個人の機微にかかわる情報を含んでいる。例えば、ある人がどこに住み、どこに勤めていていくらの収入を得ているのか、資産を保有しているかどうか、税の納付状況はどうか、また、その人がいつどのような病気をしてどこでどのような治療や投薬を受けいくら支払ったのか、健康保険等からいくら支払われたのか、などの情報も当然に含まれる。
 共通番号法案に対しては、集積された個人情報の漏えいの危険性があることや、情報提供ネットワークシステムの構築や維持に多額の費用が必要で巨大な利権の温床となる懸念もあるなど、さまざまな批判が寄せられているが、そのもっとも本質的な問題は、データ主体である本人の同意や承諾を得ないまま、あらゆる個人情報を国がほぼ完全に把握し、管理しようとする点にある。
 情報化が高度に進展した今日では、憲法一三条によって保障されるプライバシーの権利を、たんに「一人で放っておいてもらう権利」としてではなく、より積極的に「自己にかかわる情報を開示するかどうか、どの範囲で開示するかを選択できる権利」としてとらえるのが一般的な理解であるが、この法案については、もう一度、「自己情報コントロール権」の観点から徹底的な精査が必要と思う。



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