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 法と民主主義2013年6月号【479号】(目次と記事)


法と民主主義2013年6月号表紙
特集★自民党改憲案と憲法の危機
特集にあたって………編集委員会・清水雅彦
◆安倍改憲論の背景とねらい・その新たな特徴………渡辺 治
◆憲法改正の発議要件の緩和について………井口秀作
◆自民党憲法改正草案批判──国民主権の視点から………澤藤統一郎
◆平和主義から考える自民党「日本国憲法改正草案」の問題点………飯島滋明
◆自民党改憲草案は市民の自由と権利をどう変質させるか──表現規制を中心に………田島泰彦
◆要注意!自民の「新自由主義」改憲案──統治機構部分をめぐって………小沢隆一
◆安倍内閣による憲法九条解釈変更の試みについて………麻生多聞
◆改憲、有事法制と秘密保全法制………斉藤豊治
◆各院憲法審査会の審議状況報告………「法と民主主義」編集委員会

  • リレー連載●改憲批判Q&A 1 いまなぜ 憲法96条改憲なのか?………清水雅彦
  • シリーズV「若手研究者が読み解く○○法 Part2」5 労働法 有期労働契約の不更新条項と労働契約法19条………金井幸子
  • 連載・裁判員裁判実施後の問題点●18 裁判員のPTSDが示す制度の基本問題………五十嵐二葉
  • レポート●マイナンバー法案の成立と今後………奥津年弘
  • 判決・ホット●「夫婦別姓訴訟」東京地裁判決………寺原真希子
  • リレートーク●明日の自由を守るために 〈4〉「壊憲」が目指す社会?自民党改憲草案・前文を読む?………黒澤いつき
  • 書評●田島泰彦/清水勉編『秘密保全法批判』(日本評論社)………梓澤和幸
  • 書評●赤塚不二夫/永井憲一編著『「日本国憲法」なのだ!』(草土文化)………佐藤むつみ
  • 委員会報告●司法制度委員会/憲法委員会………米倉洋子/小沢隆一
  • 資料・(声明)改憲と連動し、国民から自由を奪う秘密保全法案の制定に反対する
  • 時評●裁判所支部機能の充実が急務………崎 暢
  • KAZE●10年ぶりのトウキョウで………井上博道

 
自民党改憲案と憲法の危機

特集にあたって

 本誌では今年(二〇一三年)一月号で、昨年一二月の総選挙の結果と第二次安倍政権の発足を受け、憲法改悪の動きにどう立ち向かうかを考える特集(「安倍政権発足と憲法の危機」)を月刊誌としてはいち早く組んだ。その後も、前号(五月号)で安倍政権における教育問題をテーマに特集(「安倍政権の教育政策と教育の真の再生への途」)を組んだ。そういった意味で、今回は第二次安倍政権を検討する特集の第三弾となる。

 安倍政権は、当初、今年七月の参議院選挙が終わるまでは、経済政策を中心とした「安全運転」により政権を運営すると思われていた。もちろん、安倍首相がタカ派色を出せば、参議院選挙で勝てないからという見方もあるが、今はとにかく物価を上げないと、自民党だけでなく財界も財務省も望む消費税率の引き上げができないからである。しかし、景気の回復と安倍政権に対する支持率の高さから、最近は安倍首相もすっかり調子に乗って、「安全運転」もどこ吹く風とばかりに踏み込んだ発言を行ったり、憲法上問題のある危険な法律案も出てきた。

 ところで、自民党は昨年四月に改憲案(「日本国憲法改正草案」)を決定・発表した。二〇〇五年の新憲法草案の時も、当初は天皇元首化や家族規定、国民の国防規定など、復古色を出そうとしていたが、結局、国民の考えを意識してそのような復古色を断念する。しかし、昨年の憲法改正草案は、二〇〇九年の総選挙で民主党政権が誕生し、自民党が野党になったことによる気楽さと、民主党との差異化から復古色が前面に出てきた。さらに、この憲法改正草案は、新自由主義的な内容をも持つ改憲案になっている。

 株と円の動向という不安定要因があるが、デフレ脱却と今年七月の参議院選挙で自民党が勝利すれば、いよいよ改憲(解釈改憲、立法改憲、憲法改正)と憲法原理を否定した法律や政策が次々と出てくる可能性がある。これらを阻止するには、やはり参議院選挙前から安倍政権の改憲に向けた議論・政策・立法の危険性を指摘し、このような認識を広めておく必要がある。

 そこで本号では、「自民党改憲案と憲法の危機」という特集テーマで、以下のような論文を用意した。まず、渡辺論文は安倍改憲論の背景とねらいについて全面展開したもので、本特集の総論にあたる。井口論文からは各論であり、まず井口論文で憲法九六条改憲論について、憲法学からの冷静な検討を行っていただいた。続く澤藤・飯島・田島・小澤各論文は、自民党の日本国憲法改正草案のうち、それぞれ天皇制(国民主権との関係から)、平和主義(緊急事態条項を含む)、人権規定(特に表現規制を中心に)、統治規定(新自由主義改革との関係から)について検討したものである。さらに、立法改憲・解釈改憲については、麻生論文で安保法制懇と国家安全保障基本法案における集団的自衛権行使論について、斉藤論文で改憲の一部であり軍事立法としての秘密保全法について論じていただいた。最後に、編集委員会で憲法審査会の審議状況についてもまとめておいた。

 憲法改正には国会の発議の後に国民投票が控えている。国会の議席数だけでは改憲派が三分の二を超えていても、国民投票で憲法改正賛成票が多数になる確実な見込みがなければ、国会で改憲の発議はできない。なぜなら、一度国民投票で改憲案が否決されたなら、そう簡単に再び短期間で改憲の発議ができるわけではないからである。もちろん、だからこそ安倍政権は立法改憲も解釈改憲も考えている。そういった意味で、今度の参議院選挙は憲法改悪阻止派の議席を少しでも増やす大事な選挙であり、選挙後も憲法改悪反対の世論を維持していく必要がある。本特集が憲法改悪阻止運動のお役に立つことができればと思う。

「法と民主主義」編集委員会 清水雅彦


 
時評●裁判所支部機能の充実が急務

(弁護士)崎 暢

 法の支配を社会の隅々に及ぼす、それが今回の司法制度改革の理念のひとつであった。それはあらゆる地域で全ての市民が平等で良質な司法サービスが受けられることである。
 そのために地域司法の充実が必要であり、その重要な担い手である裁判所の人的・物的基盤の整備と司法予算の増大が根本的な課題であると指摘されてきた。
 司法制度改革審議会意見書から一二年が経過し、その間、「市民にとって利用しやすい、分かりやすい」などの視点が強調されながら司法制度改革がすすめられてきた。ところが、裁判所支部問題はその司法制度改革から取り残されてきた。それどころか、現状は、改革に逆行するかのように、裁判所の支部機能が低下しているといわざるを得ない(以下、裁判所支部とは地方裁判所支部を指す)。
 例えば、裁判官不足の問題。支部では、民事・刑事・家事事件などを兼務することが多いため裁判官一人あたりの負担が重く、そのため裁判官は多忙を極め、裁判官不足の弊害は本庁よりも深刻である。
 とりわけ、裁判官が常駐していない非常駐支部では、開廷日が限られているため早期な紛争解決に支障を来している。
 離婚訴訟で、本人尋問当日、その母親が亡くなった。本人が「家を抜け出して行く」と強く固執し尋問がなされたという例もある。その日を逃せば早期に期日が入る保障がないからである。
 大規模・中規模支部でも、行政事件や簡易裁判所の控訴事件を取り扱わず、裁判員裁判や労働審判を取り扱う支部も限られており、医療事故などの専門的な事件や執行事件を本庁に集中する傾向があり、本庁と比べて利用者に様々な不便が生じている。
 労働審判が利用できず、本庁までの時間と費用を考え、紛争の解決を諦めたという事例もいくつか報告されている。強制執行を諦めたという当事者の声も聞こえてくる。これらは、裁判を受ける権利の侵害であり、平等原則に反する。
 日弁連は、二〇〇三年一〇月に「裁判官及び検察官の倍増を求める意見書」を、二〇〇五年一一月に「裁判所支部の充実を求める要望書」をそれぞれ公表し、また、二〇〇六年から五回にわたり「全国支部問題シンポジウム」を開催するなどして、裁判官の増員や非常駐支部の解消を含む地域司法の充実を訴えてきた。さらに、昨年、「裁判所支部機能の拡充に向けての取組方針」を決議し、それに基づいて、いわゆる「支部キャラバン」と称した、各地弁護士会での協議会の開催に取り組んでいる。それは、支部の実情の意見交換の場であり、出席した議員、自治体関係者との情報交換の機会である。支部の実情を把握し、要求を汲み上げ、地域ぐるみの運動につなげるものである。
 いま、裁判所支部機能の充実のために、地域ぐるみの運動が求められている。それは、最初に述べた裁判所の根本的な課題の克服にとっても有効打である。
 一方で、現状のもとで、司法を容易に活用できる運用面の工夫も必要である。例えば、労働審判を取り扱わない支部の住民の利便のために、調停手続きにテレビ会議システムの活用などである。もう少し普遍すれば、物理的な時間と空間を克服するためにIT機器を積極的に活用することである。さらに、支部では、各種事件を兼務することが多いため経験豊かな裁判官の配置が求められる。それによって適正な紛争解決につながり、裁判所への信頼も高まることになる。また、支部機能の向上につながる。
 かつて、杉井静子弁護士(第二東京弁護士会)は、「司法基盤を整備するには、支部から出発することが必要である」と問題提起された(宮本康昭先生古希記念論文集収録「司法制度改革から取り残された裁判所・検察庁支部」)。その提起を受け、今こそ地域ぐるみ運動を実践し、制度改善に力を注ぐ時である。裁判所支部機能の充実こそが司法制度改革のひとつの理念の実現であることを肝に銘じたい。
(たかさき とおる)



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