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■特集にあたって
二〇一三年一一月九日、永田町の全国町村会館で、第四四回司法制度研究集会が開かれた。今年のテーマは、「徹底批判『新時代の刑事司法制度』──冤罪と捜査機関の暴走を防げるのか」。法制審議会の「新時代の刑事司法制度特別部会」において議論が大詰めになっている刑事司法改革の基本構想について四名の報告者からそれぞれ報告をいただき、批判的に検討した。本号の特集は、この集会における報告と会場発言をまとめたものである。
法制審議会の「新時代の刑事司法制度特別部会」は二〇一一年六月に設置された。この部会は本来、厚労省郵便不正事件における大阪地検特捜部による証拠改竄という重大な検察不祥事と、同事件、布川事件、足利事件、志布志事件などの冤罪事件に対する深刻な反省を踏まえ、「検察の在り方検討会議」をへて、取調べと供述調書に過度に依存した捜査・公判のあり方を抜本的に見直し、制度としての取調べ可視化を含む新たな刑事司法制度を構築するために設置されたものであったはずであり、そのことは第一回会議における法務大臣挨拶にも表れている。委員には、厚労省事件で無罪となった村木厚子氏や、映画「それでもボクはやってない」の監督周防正行氏も入り、今度こそ取調べ中心の捜査方法や検察による証拠隠しにメスが入ることが期待されていた。
ところが、今年一月とりまとめられた特別部会の「基本構想」は、「取調べによる徹底的な事案の解明」は我が国の良好な治安を保つことに大きく貢献していると明言し、取調べと供述調書を中心とする捜査・公判の在り方を、改めるどころか賛美するスタンスであった。そのため取調べ可視化は、対象事件を限局したうえ取調官の裁量に委ねる案などが提示され、取調べへの弁護人立会権は否定、全面的証拠開示制度も否定するといった、あるべき改革にはほとんど手をつけないものであった。
そればかりか、捜査協力型の司法取引、黙秘権を保障した被告人質問を廃止し被告人の証人適格を認めるなど、適正手続とは逆方向の制度が提案されている。
重大な問題はそれにとどまらない。通信傍受の拡大、会話傍受制度の新設といった、犯罪捜査の枠を超えて市民生活を脅かす重大な危険を含む捜査方法を滑り込ませているのである。自白と供述調書偏重の捜査・公判を改革するという課題とはおよそ無関係の、治安警察的捜査権限拡大の提案である。
「基本構想」はその後約一〇か月をかけて二つの作業分科会で詰めの議論がなされ、一一月七日、再び「特別部会」の審議に戻った。その二日後というタイミングで、今回の司法制度研究集会が開かれたのである。
渕野貴生教授の基調報告は、「基本構想」の総論・各論に対する、被疑者・被告人の人権保障の原則からの、まさに徹底的な批判である。大久保真紀氏は志布志事件の取材経験から無実の人々に対する自白強要がいかに凄まじいものだったかを、また客野美喜子氏は東電OL殺人事件の被告人支援の経験から、司法取引による参考人の巻き込み供述や無罪の決め手となる証拠が開示されない恐ろしさを、それぞれ具体的に報告している。両氏が報告した問題はいずれも「新時代の刑事司法制度」では全く改善されないことに注目してほしい。泉澤章弁護士は、通信傍受、会話傍受といった「新しい捜査手法」の目的とその治安警察的危険性を、軍事立法・治安立法の新設・強化の流れの中に位置づけ、欠かせない視点を提示している。
なお、「新時代の刑事司法制度」の九項目の構想は非常に長く理解しづらいことから、資料としてコンパクトなまとめを掲載した。活用していただければ幸いである。
司法制度研究集会の約一か月後の一二月六日、国民の強い反対の声を押し切って、特定秘密保護法が強行採決により成立した。軍事立法であると同時に、取材・報道や市民運動を厳罰で取り締まる治安立法であり、罰則規定は、(何が秘密かも明らかにしないまま)、秘密の漏洩や取得のみならず、その未遂犯、過失犯、そして共謀、教唆、煽動を独立犯として処罰するという異常なものである。そして政府は、過去に三度廃案となった共謀罪の創設をまた検討すると言い出した。
「新時代の刑事司法制度」が今の構想のまま立法されて特定秘密保護法と結びつくと、通信傍受、会話傍受、司法取引などによる警察権限の強化は、いかんなくその威力を発揮するだろう。その先にあるのは解釈による集団的自衛権の肯定と明文改憲であり、そしてまたこれに反対する広範な国民の運動への弾圧である。
今回、小田中聰樹先生が、改憲の動き、国家秘密法、刑事司法改悪を、大きな流れとして捉える論文を特別寄稿して下さった。特集と合わせてお読みいただきたい。
「新時代の刑事司法制度」について、法務省は、早期に法制審の答申を得て、来年の通常国会への法案提出を目指していると言われる。私たちは、いま、基本構想の危険性を広く共有し、その誤りを徹底的に批判して、被疑者・被告人の人権保障、冤罪の防止というあるべき刑事司法改革の実現および戦前のような警察国家化を阻止することに向けて力を尽くさなければならない。
今回の司法制度研究集会と本特集が、そのために役立つことを願っている。
仙台市議会の本会議と委員会をチームで手分けして傍聴し、居眠り・離席・雑談をチェックし、議事録で本会議の質問を採点し、その両方を通信簿という形で公表する活動を続けている。
発端は政務調査費の裁判である。議員はオンブズマンの住民訴訟で政務調査費の返還を命じられれば支払っては来るが、心底反省しているように見えないし、目的外使用に改善の兆しも見えない。裁判が効いていないのではないか、効いていないとすればその原因はなにか、それを探るためには議会に出かけ何をしているか知る必要がある、と判断したのがきっかけである。
傍聴して驚いたのは、学級崩壊ともいうべき居眠り・離席・雑談の横行であった。通信簿を公表したことが効いたのか、離席・雑談はめっきり減ったが、居眠りは相変わらずである。居眠りしている議員を眠らないでチェックするのは苦行である。本会議の質問の採点も骨が折れる作業である。これらの作業を通して見えてきたものがある。
1 担当者に聞けば済む質問
事前に情報公開請求で資料を入手するか、担当者に聞けば済むことをわざわざ本会議で質問している例が極めて多い。事前に聞いてしまうと本会議や委員会で聞くことが無くなるからではないかと疑いたくなる。
2 二合目で引き返す質問
事前調査、現場調査を丹念に行い、「○○を知っているか」と切り込む質問は極めて少ない。抽象的課題を掲げて自らの一般論を付け加えて、市長の所感、方針を尋ねて、そこで終了している質問も極めて多い。市長の所感を引き出したところから本来の質問が始まるはずであるのに、そこで終了するのであるから、登山でいえば山の二合目で引き返すようなものである。1と2は全体の約半分を占め、それらの質問の書いた書面を質問者が読み上げ、予め用意した答弁用の書面を当局側の回答者が読み上げるという「双方書面読み上げ方式」の質疑は、議会の緊張感を失わせている最大の原因で、質問中、少なからぬ数の議員が熟睡しているのはそのためである。
3 どこまでも個人プレー
市当局は組織で対応するが、議員の質問はあくまでも個人プレー。政務調査費の支給先が会派であれば、会派をあげて組織的、長期的調査を行い、それに基づいて質問するべきであるが、そのような例は極めて少ない。サッカー(市当局)とゴルフ(議員)の対決であるから、情報量において、サッカーの優位は動かない。
4 各地共通
質問内容の採点基準は、@事前、現場調査を行ったかどうか(〇?四点)/A他都市の事例との比較を行ったかどうか(〇?二点)/B改善案が伴っているかどうか(〇?三点)の三つであるが、全て〇点が圧倒的に多い。この夏、仙台、京都、名古屋、福岡のウォッチャーが同一基準で採点した自らの市議会の質問の採点結果を公表しあったが、1、2、3の特徴は共通であった。政務調査費の目的外使用が改善されないのは、事前調査、現場調査を行わないで質問することが議会の慣習であったからである。慣習に従えば政務調査費は使い切れず、使い切れないから、目的外使用が後を絶たなかったのである。
5 その原因
その原因も明らかになった。質問の善し悪しが市当局、同僚議員、市民の評価の対象になっていないことである。優れた質問をしてもプラスにならないし、担当者に聞けばすむような質問をしてもペナルティーが下されることがない。市民は一票を入れた議員の質問内容を知らないから、質問の優劣は選挙に影響を与えることもない。評価の対象とならず、選挙と無関係であれば、楽な質問形態に行き着くのは見易い道理である。
6 楔を打ち込む
多数の居眠り議員、聞いている市当局幹部(これも多数)を見ていると、傍聴しているこの一時間のために支払われる議員と幹部の給与の合計はいくらだろうかと思わずにはいられない。市民が足を運び監視し、質問内容を採点、公表するという楔を打ち込むことによって、この惰性に変化を生じさせたいと思っている。
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