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 法と民主主義2014年10月号【10回号】(目次と記事)


法と民主主義2014年10月号表紙
特集●棄民のアベノミクス・安倍税制─大企業に減税、庶民は大増税
特集にあたって………編集委員会・奥津年弘
◆アベノミクス総決算に向けた批判的視点………二宮厚美
◆安倍政権の「地方創生」戦略批判………岡田知弘
◆安倍政権の税制改革のもくろみ………浦野広明
◆消費税は本当に間接税なのか──輸出大企業に還付金を与えるための不純な仕組み………湖東京至
◆アベノミクスと法人税減税………菅 隆徳
◆消費税増税阻止の運動で安倍政権を追い詰める──増税後の影響調査から見る業者の実態………原 陽一

  • 特別掲載●沖縄から「法と民主主義」を訴える………高良鉄美
  • メディアウオッチ2014●沖縄知事選挙とメディア批判 軍靴の音を再度、沖縄に響かせてはならない………島 洋子
  • シリーズV「若手研究者が読み解く○○法 Part2 16「社会主義法」 ロシアにおける陪審裁判を受ける権利………中山 顕
  • 寄稿●「地下室の死体」………藤江・ヴィンター 公子
  • 判決・ホットレポート●山木屋原発自死事件判決について………向川純平
  • リレー連載●改憲批判Q&A 7月1日の閣議決定は、何を決めたのか?………小沢隆一
  • リレートーク●〈15〉地方議員による憲法授業への介入………神保大地
  • 連載・裁判員裁判実施後の問題点 bQ4 司法とは何だ そこで裁判員は何をするのか〈下のB〉………五十嵐二葉
  • 司法をめぐる動き5 裁判員裁判をめぐる近時の動向──量刑問題を中心に………立松 彰
  • 9月の動き………司法制度委員会
  • あなたとランチを(6)………ランチメイト・柿沼真利×佐藤むつみ
  • 書評●浦野広明著『税務調査に堂々と立ち向かう』日本評論社………田村 淳
  • 書評●瑞慶山茂責任編集『法廷で裁かれる日本の戦争責任』高文研………澤藤統一郎
  • 委員会報告●司法制度委員会/憲法委員会………米倉洋子/小沢隆一
  • 時評●許してはならない「閣議決定」のデマゴギー=虚言………石村善治
  • KAZE●壊憲政策と日弁連集会………南 典男

 
特集●棄民のアベノミクス・安倍税制──大企業に減税、庶民は大増税

 ◆特集にあたって
 消費税は導入後二五年が経過し、税率も二回上がった。導入・税率引上げに際し、「社会保障を充実させるため」、「財政再建のため」などと言われてきた。しかし社会保障の質は削られる一方、国債発行残高は急速に増加した。消費税増税の税収は法人税減税に消えてしまった。一方で勤労者の給与額は一五年間で約六〇万円も減少した。事業者はますます「転嫁」が難しくなり、生活者・中小事業者の間では矛盾が広がっている。
 安倍政権になっても、実質可処分所得は減少し続けており、四月の消費税引上げによる経済の落ち込みは、国民の消費支出の大幅減少のため、この二〇年内実質最大となっている。
 もはや社会保障財源論、財政再建論は、消費税増税の論拠として通じなくなってきている。そこで安倍政権は、国民経済の落ち込みを逆手にとり、大企業の業績向上が、給与収入に反映されるのだというトリクルダウン理論を唱えて異常な法人税減税をさらに進めようとしている。
 今回の特集では、まず二宮氏に、この大企業至上主義の「アベノミクス」ついて批判してもらい、岡田氏に、与党の来年の一斉地方選挙対策となっている「地域創生」論についてその本質について報告してもらう。
 税制面では浦野氏には、安倍政権の税制全般について、概観し批判してもらう。湖東氏には、今回の再消費税増税に伴い議論となっている複数税率とさらに還付額が大きくなる輸出戻し税について、検討・報告してもらう。菅氏には、大企業に法人税減税、中小企業には増税となる外形標準課税について報告してもらう。最後に中小事業者の運動の中にあり活動されている原氏には、その視点から消費税引き上げの影響を報告してもらう。
 これら報告を多くの方に届け、安倍政権が来年一〇月に行おうとする税率引上げを阻止する運動の糧としたい。

「法と民主主義」編集委員会 文責・奥津年弘


 
時評●許してはならない 「閣議決定」のデマゴギー=虚言

(福岡大学名誉教授)石村善治

 二〇一四年後期の憲法状況は、日本国憲法制定以来、最も深刻な状況に入りこんでいるといってよいのではないか。自民党の「日本国憲法改正草案」(二〇一二年四月二七日)の発表とならんで、安倍政権の憲法攻撃が昨年以来急速に加速化している。「国家安全保障会議設置法」、「特定秘密保護法」の成立、「武器輸出三原則」の放棄、「安全保障法制の整備」に関する「閣議決定」(二〇一四年七月一日)。そして、その「奥」に戦時中の「国家総動員法」(一九三八年四月一日)に類する自民党「国家安全保障基本法案(概要)」(二〇一二年七月四日)が準備されている。

 7・1の「閣議決定」は、従来の政府の「集団的自衛権」の解釈を変更する重大な役割をもつものであるが、その中には看過しえないだけでなく、日本国憲法、とくに前文に対するデマゴギーともいうべき「言説」があることに注目したい。「閣議決定」は、武器使用を承認する場合として、@「米軍部隊に対する武力攻撃に至らない侵害の発生」の場合、A「他国軍隊に対する支援活動を行う」場合、B「国際的な平和協力活動(PKO)を行う」場合、C「我が国及び我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生した」場合に、我が国の「武器使用」を認めている。まさに従来の「閣議決定」を全面的に否定するものであるが、この中のCの「説明」として、憲法前文のいわゆる「平和的生存権」と憲法一三条を持ち出し、「武力行使」の根拠にしている。その際、本文にある「全世界の国民」のうちの「全世界」を削り、さらにそれに続く「ひとしく恐怖と欠乏から免かれ」の語句も削除し、「国民の平和的生存権」と「生命・自由・幸福追求権」を根拠に、「武力の行使は許容される」としている。
 日本国憲法前文の「全世界の国民の平和的生存権」の「確認」=誓約こそが、日本国憲法の世界に誇る「誓い」だと考えている者にとっては、許しがたい虚言=デマゴギーだといわなければならない。残念なことに、これらの指摘がほとんどなされず、知られていない。

 周知のごとく、憲法前文の「平和的生存権」は、一九四一年八月一四日の英米共同宣言(後の大西洋憲章)の第六の文言によるものであり、そこでは、「ナチ暴政の最終的破壊の後、両者(英・米)は、すべての国民に対して、各国の国境内において安全に居住することを可能とし、かつ、すべての国のすべての人類が恐怖及び欠乏から開放されてその生命を全うすることを保障するような平和が確立されることを希望する」と宣言し、さらに「連合国の共同宣言」(一九四二年一月一日)として、中国を含む「連合国」の承認を得ている。その中の文言(第六)は、ほとんどそのまま日本国憲法前文に盛り込まれている。
 私は、この「全世界の国民の平和的生存権」こそが、日本国憲法のみならず、かっての「連合国」はもちろんのこと、全世界の「平和の星」たる意味をもっていると思っている。それだけに、今回の「閣議決定」のデマゴギー=虚言を許してはならない。

※終戦を一八歳、旧制高等学校文科の二年生で迎える。学友三〇人の半分は軍役に服し、旧満州からシベリアに抑留され、死亡した級友や、一級上の寮同室の先輩は、一九四四年秋に召集され四五年五月には「九州南西沖で特攻死。」そんな戦中体験があるだけに、日本国憲法の平和原則、特に「全世界の平和的生存権」のための研究と社会活動をおこなっている。



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