ひろば 2017年4月

 法と民主主義の危機


日本国の現状は、一口で言うならば、まさに混迷の極みにあり、それを解決する方向も方法も見出せない状況にあると言っても過言ではないであろう。
 安倍首相やその妻が、直接、指示したり、依頼したかどうかはともかくとして、森友学園や加計学園などについて、権力内部で安倍首相に対する「忖度」が横行し、不正義が行われていることは、間違いのない事実である。それにもかかわらず、責任を曖昧にするために、官僚達が勝手に文書を改ざんしたり、廃棄し、たとえ国会で追及されても、事実を歪曲し、いい加減な答弁を繰り替えすという事態が横行している。
 このような現状を改善するには、文書管理の在り方について抜本的な制度改革が必要なことは言うまでもないが、その根本原因としては、戦前から続く中央集権的な国家体制の下で、保守政権が官僚を取り込んでそれを牛耳っているのに、野党が細かなことでいがみ合って一致団結できず、これを許してきた実態があることは確かと言えよう。

平和の関係では、専守防衛を建前とする自衛隊を南スーダンやイラクに派遣し、その地がどのような戦況にあり、そこで自衛隊が何をしたかを記録した日報を隠匿してきたことは、憲法9条を無視して、日本を軍事行動も含めたアメリカの同盟国として強化することに繋げるためとしか考えられない。

ところで、上記の問題もさることながら、長く続く国内の人権状況や司法問題の深刻さも、恐るべき状況にある。
 原発事故で甚大な被害を生じたにもかかわらず、大資本の意向を気遣って原発を次々と再稼働させるという、国民の生命身体の安全を考えたら絶対にあるまじき決定を政府がする一方、原発裁判をめぐる司法判断も右往左往する体たらくで、日本では、もう一度、原発が暴発しない限り、完全に止めさせることはできないのかと憂慮せざるをえない。

こうした事態をもたらした原因として、最も悔やまれるのは、司法改革の失敗を指摘せざるをえない。中途半端な裁判員制度の導入で官僚司法制度を維持・存続させてしまい、さらに今や人権を重視する国家では稀有となった死刑制度──国家による殺人──の存続と、冤罪被害者の救済の立ち遅れも指摘せざるをえない。検察官の横暴を阻止するために、後者については再審法の制定は、まさに急務である。

ところで、「法と民主主義の危機的状況」という表題を見て、本誌『法と民主主義』が危機的状況にあると誤解されたら、それは全くの間違いである。バックナンバーを見ても、各号ともその時々の重要なテーマを取り上げ、敢然と取り組んでいることが分かる。
 今後も、人権と社会正義、平和と民主主義を実現するために、司法問題を中心に、立法・行政についても問題点を広く取り上げ、また、新たな会員を増やすためにも、著名なあるいは中堅の学者や弁護士だけでなく、現実に厳しく向き合い、改革を進めようとする若い法律実務家や法学研究者たちに、できるだけ執筆活動に参加する機会が与えられたらと考える。そのことによって内容がより斬新なものとなり、マスコミなどを含め、法律家以外にも、さらに広く読まれる雑誌になることを期待したい。

(弁護士 高見澤昭治)


戻る

©日本民主法律家協会