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 法と民主主義2019年1月号【535号】(目次と記事)


法と民主主義2019年1月号表紙
特集★2019年 安倍政治の終焉を!
特集にあたって………澤藤統一郎
◆巻頭言・安倍政治に未来は創れない──憲法と市民の力で安倍政治に終止符を………広渡清吾
◆沖縄から安倍政権を総括する………小林 武
◆憲法9条に適合的な非武装による安全保障の方法論とは──ジーン・シャープ「市民的防衛」について………麻生多聞
●講演会・「ウソとごまかしの『安倍政治』総検証」〈18・12・3 衆議院第1議員会館〉から
◆「安倍政治」と「ポスト真実」………小森陽一
◆「働き方改革」一括法のごまかし………上西充子
◆「公文書管理」の原則はどこにあるのか………右崎正博
◆「日米FTA」の捏造から見えるもの………古賀茂明

  • 司法をめぐる動き・世界が注目するカルロス・ゴーン事件と日本の刑事司法………渕野貴生
  • 司法をめぐる動き・12月の動き………司法制度委員会
  • 判決・ホットレポート●映画「沈黙〜立ち上がる慰安婦」への妨害禁止仮処分事件………神原 元
  • メディアウオッチ2019●《「代替わり」キャンペーンの底流》「平成最後」に無防備なメディア、壊れる「社会」のルール 危惧される「強硬策」 ジャーナリズムは発言を………丸山重威
  • あなたとランチを〈42〉ごまかしてもダメ………ランチメイト・上西充子先生×佐藤むつみ
  • 新企画・「改憲動向レポート」(11)「今年こそ新しい時代の憲法のあるべき姿を国民にしっかり示したい」という安倍首相………飯島滋明
  • インフォメーション 
  • 時評●私たちの責務………小田中聰樹
  • ひろば●本当に怖い原発の話………大久保賢一

 
2019年 安倍政治の終焉を!

 ◆特集にあたって
 例年、年頭にその年の憲法の命運を思う。日本国憲法の安泰を確信できる年は稀でしかなく、多くは憲法の消長を憂慮せざるをえない。明文改憲についても、解釈「壊憲」についても、である。とりわけ、安倍政権成立以来の近年は、明文改憲の外堀が埋められていく感が強く、その憂いが深い。
 さて、二〇一九年は「安倍九条改憲」のせめぎ合いの中で、新年を迎えた。とうてい、憲法の安泰を確信できる事態ではないが、本誌は「安倍政治の終焉」を視野に、改憲策動に終止符を打つ展望を語る特集とした。
 本年は、この安倍改憲策動阻止の成否に決着がつけられる年となる。明文改憲を許さず、これを阻止し得ることとなれば、憲法を国民のものとして定着させることになろう。いま、国民運動の進展次第で、その成算は十分にある。
 広渡清吾氏の巻頭言「安倍政治に未来は創れない─憲法と市民の力で安倍政治に終止符を」は、その展望を具体的に語っている。明治維新以来の一五〇年間が「大日本主義」と「小国主義」との対抗の歴史であったとの視点から、「小国主義の柱」として九条を位置づけ、安倍政権の九条改憲は戦後日本社会を岐路に立たせているとの認識を示している。
 しかしながら、この岐路は危機であるとともにチャンスでもある。今年七月の参院選が分け目。市民と立憲野党の共闘が、新たな政治参加を呼び起こし安倍政治を代える力をもたらすことになる、という。
 また、二〇一九年は、明文改憲だけでなく、多様な憲法の理念が現実政治の中に課題として浮かびあがってくるとしでもある。天皇の生前退位に伴う代替わり問題が国民主権や主権者意識に関わるものであり、政教分離原則も問われる。「3・1事件」「5・4運動」の一〇〇周年でもあって、日本国憲法の背景にある歴史認識がクローズアップされる年ともなる。韓国との緊張関係の中で、「従軍慰安婦」や徴用工問題が、大きな問題となりつつある。憲法理念との関連で、歴史修正主義と対峙しなければならない。さらに、一〇月には、消費増税をめぐって財政や福祉、経済政策が大きな問題となる。問題山積であるが、そのすべてが安倍政権との厳しい対決を要する課題となっている。
 いま、最大の具体的政治課題は沖縄をめぐって生じており、大浦湾の美ら海を埋め立てる安倍政権の辺野古新基地建設の強行が、全体の状況を象徴する事態となっている。本号では、沖縄の現場から、「沖縄から安倍政治を総括する」と題する小林武氏の論稿をお送りする。
 また、安倍九条改憲へのアンチテーゼとして、麻生多聞氏の「九条に適合的な非武装による安全保障方法論──「市民防衛」について」を掲載した。「市民防衛」とは、軍隊ではなく一般市民を防衛の主体とし、非暴力手段により市民生活を防衛するという安全保障方法論の新たな提案である。
 【なお、小林・麻生両氏の論稿は、「憲法ネット103発足1周年記念シンポ〈安倍政治を問う─9条・教育・沖縄〉」の発言に加筆していただいたものです。】
 以上の、明文改憲、解釈「壊憲」のすべての課題が、安倍政権の姿勢と結びついており、安倍政権との対峙が必要であるところ、安倍政権の最大の弱点は、「ウソとごまかしの」体質にある。
 森友学園、加計学園問題を機に噴出した安倍政権の文書管理のお粗末、そしてこれを糊塗しようとする隠蔽、改竄、虚偽説明の数々。これを糾弾する「ウソとごまかしの安倍政権に終止符を!」のアピールと賛同署名の運動を、法律家6団体が事務局として支えた。
 その運動が主催した昨年一二月三日の講演会・「ウソとごまかしの『安倍政治』総検証!」の四人の講演に加筆していただいたものが左記の各稿である。いずれも、分かり易い講演内容として評判のよかったもの。年頭号への掲載にふさわしいものとしてお届けする。
 小森陽一氏 「安倍政治」と「ポスト真実」
 上西充子氏 「働き方改革」一括法のごまかし
 右崎正博氏 「公文書管理」の原則はどこにあるのか
 古賀茂明氏 「日米FTP」の捏造から見えるもの
 保守の側が日本国憲法の「改正」を唱え、革新・リベラルの側が「改憲阻止」をスローガンとして抵抗する図式は基本的には変わらない。しかし、保守政権が大国主義や復古主義、あるいは新自由主義の立場から改憲を試み、国民がこれをはね除けて憲法を守り抜くたびに、国民は憲法をあらためて獲得し、憲法は国民の血肉となっていく。
 なお、二〇一九年は亥年、一二年に一度統一地方選と参院選の両選挙が重なる年。前回の亥年二〇〇七年には、七月二九日に参院選の投開票が行われ、自民党が歴史修正主義的な惨敗を喫した。その後の迷走の末、安倍晋三第一次政権は、九月一二日に内閣総辞職して倒れた。というよりは、醜態を晒して政権を投げ出した。
 今年も、憲法にとって良い年であらんことを。


「法と民主主義」編集委員会・澤藤統一郎 弁護士


 
時評●私たちの責務

(東北大学名誉教授)小田中聰樹

1
 安倍内閣・自民党が改憲案を第197国会(2018年10月24日?)に提出することを阻止できたことは、民主主義勢力・平和勢力による憲法運動の成果として高く評価したい。
 安倍首相は、昨年8月12日下関市の講演会で自民党改憲案を前記国会に提出する意向を表明するなど、再三に亘り改憲の意欲を表明したが、断念した。
 断念に追い込んだのは、戦後日本の憲法運動、民主主義運動、平和運動の力量である。このことを再度確認し強調したいと考える。
2
 とはいえ、安倍内閣・自民党・追随勢力(翼賛政党、財界、腐敗官僚、右翼団体など)による悪政の展開は、深刻な状況にある。改憲策動を始めとして、昨年12月18日の閣議決定の「新防衛計画の大綱」・「中期防衛計画大綱」に基づく大軍拡、過労死容認の「働き方改革」、辺野古新基地建設の強行、原発依存政策の展開(原発再稼働推進、原発輸出)、民営賭博公認のカジノ法、などが数々の悪政の代表例である。
3
 もう一つの例が、翁長前沖縄知事が辺野古新基地埋め立て承認の撤回手続きをとるとしたことに対して、沖縄防衛局が不服として行政不服審査法に基づき撤回の効力停止を国交相に2018年7月27日に審査請求したことである。その請求の根拠とされたのが行政不服審査法である。
 この法律は、「国民」に対し行政庁が違法又は不当な処分、公権力によって国民の権利、利益を侵害した場合に国民を救済することを目的としている(第1条)。
 この目的規定に照らせば、沖縄防衛局には請求の根拠は全くない。のみならず、同法第7条第2項は、「国の機関に対する処分で、その固有の資格において当該処分の相手方となるものについては、この法律の規定は、適用しない」、と規定している。この規定によっても、沖縄防衛局に請求の法的根拠がないことは一層明らかである。
 しかも、この請求は、行政機関たる沖縄防衛局が同類の行政機関たる国交相の判断を求めるものである。請求も判断も「同じ穴の狢」同士という滑稽で奇妙な手続きとなる。
 「茶番劇」となること必定である。果たせるかな、2018年10月30日、石井国交相は、日米同盟にも悪影響を及ぼしかねないなどの理由で、撤回の執行停止を決定したのである。
4
 このように合法性を無視し、「国民」の権利と利益を制限・剥奪する無法な政治権力に対し、警戒を怠ってはならない。特に警察権力による刑事弾圧的手法の駆使、自衛隊によるその補完的強圧、政治勢力・マスコミなどによる分裂工作や謀略活動には特に警戒が必要である。
 いま沖縄では、辺野古新基地建設の賛否につき民意を問う県民投票が行なわれようとしているが、投票実施のための予算が否決される事態が一部の市町村で生じている。この動きは、沖縄県民に対する分裂工作の現れである。
5
 以上のような無法な動きに対して、これを跳ね返すには、運動が不可欠である。
 この運動の思想的な核となるのは、多様性を抱えた幅広い市民の統一と団結である。
 第二次世界大戦後、松川闘争、60年安保闘争、反原発闘争、反核運動、憲法運動(9条の会、市民共同アクション、憲法会議など)をはじめとする数多くの民主主義運動、平和運動が統一と団結の旗印の下に展開されてきたという歴史を踏まえて、次のように述べて結語とする。
 私たちは、豊富な運動経験と高い力量とを蓄積している。このことに自信を持ち、国家権力の無法極まる暴走を阻止し、平和憲法、人権憲法、福祉憲法、「希望の憲法」を護り抜き、平和な未来を次世代に引き渡すべき責務があると考える。
 私たちの運動は、必ずや深刻な現状況を根本的に打開し、変革するであろう。
(おだなか としき)



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