日民協事務局通信KAZE 2012年2・3月

 「平和利用、なーんちゃって」 まっとうな言論人の矜持


 二月、私の住む地域でアーサー・ビナード氏の講演会が開かれた。
 アーサー・ビナードは一九六七年、米国・ミシガン州生まれの詩人。二〇年前から東京に住み、多くの著作を世に出す傍ら、テレビ・ラジオにニュースのコメンテーターとして出演している。『ここが家だ ベン・シャーンの第五福竜丸』(集英社)で日本絵本賞を受賞。
 講演テーマは「平和利用、なーんちゃって」。最初はおかしな演題だなと思ったが、要するにアメリカを筆頭に各国は平和利用の名を借りた核(兵器)開発をずっと続けている。原発は私たちの暮らしに何にも役に立っていない、という主旨を彼の言葉で表現するとこうなるという、いわば「掴み」だ。
 「平和」をテーマにした講演会に行くと、講師の声より客席から聞こえてくる鼾の方が気になる時があるが、彼は詰めかけた人々を飽きさせることなく、ジョークを交えた巧みな話術で二時間しゃべり続けた。
 政府が出した「終息宣言」についてのたとえ話が巧みだった。
 「あるところの海岸沿いにとても頑丈に作られた刑務所がありました。そこには凶悪な犯罪者が収監されてる。ある日、地震が来て刑務所の壁が破れ、そこから囚人たちが逃げ出した。たいへんだーって言って警察も自衛隊も来たけれど、その囚人たちがおっかなくて近づけない。で、囚人たちは空へ飛んでいったり海に出ちゃったりした。で、みんな出ちゃって牢屋の中が静かになってからこの国の権力者が来て『みなさん安心してください。脱獄は終わりました。もう大丈夫』って言うのね。たしかに脱獄は終わったけれど、囚人たちは今、善良な市民の生活の場にいる。毎日の食卓にも来る。毎日空気の中で待っていて、いつ皆さんを殺そうかなって待っている。その中を子供たちが通学して、給食を食べる。とんでもない牢破り」
 原発問題を巡るメディアの報道については「僕が今出ている番組ではある程度喋ってもいいことになっている。でもいつまでそれが続くか分からない。まあ番組だっていつまで続くかわからないけど(笑)。国民が冷温思考停止になると僕らも切られちゃうんだよね」「僕は喋るときは本当のことを言う。それでクビを切られたならオッケー」「騙されない市民にならないと。もちろん騙す奴が悪いんだよ。だけど騙される方もいけない。テレビ見て『あらそーなのぉ』『へえー』じゃダメなんだよね。これじゃメディアは変わらない。怪しいなと思ったら自分で掘り下げなきゃ」
 「NHKのニュースを見ていると面白くってしょうがない。三分のニュースの中に百万の嘘が詰まっている。全部ウソ。ほぼ嘘。いや、半分くらい嘘かな(笑)。メディアを、楽しく疑ってみてください」と講演を締めくくった。
 今のところ講演料も安いし、話は面白い。アーサー・ビナード、お奨めです。ぜひ各地で呼んでもらいたい、まっとうな言論人の一人です。

(税理士 田村 淳)


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