|
|||
|
■特集にあたって
二〇一三年四月二六・二七日にわたり、仙台で当協会の拡大理事会が持たれた。
一日目は、「復興の現場で何が問われているのか」と題し、仙台の弁護士から、それぞれ生き生きとした日常活動をふまえて、実に興味深く感銘を受ける報告をうけた。被災の現場で活躍する実務家の渾身の活動報告は、まさに「この国のあり方」を問うものだった。
二日目は、自らも罹災者である石巻の庄司捷彦弁護士の案内で仙台から東松島、女川、雄勝と震災の現場を見て回った。声を失うほどの甚大な被害を直に感じるとともに、被災地に根を張り、真の復興に汗を流す人々との出会いに、多くのことを学んだ。
これら、現場でたたかう弁護士の活動は3・11から始まったものではない。長い実践の蓄積が世代を超えて様々な分野での創意溢れる活動となって広がっている。
本特集では、理事会席上での報告、それをうけての渡辺治理事長の総論、そして、 「被災者生活再建支援金」、「安全配慮義務」、「二重ローン」問題など、震災復興の現場でおきている諸問題にも言及するだけでなく、仙台に根をおろし、生き生きと諸活動に励む姿とともに、「被災現場にたった」東京の参加者からのコメントも掲載した。
改めて、「ふるさとを返せ」、「生業を返せ」という住民の声が聞こえてくる。住民を主体とした復興の実現とそれを阻害する要因がなんなのか、復興への長い道のりを思いつつ、共に学び・考え・行動するよすがになることを願いながら、お届けする。
「第三者委員会」という言葉が巷にあふれている。医療事故調査第三者委員会、いじめ問題調査第三者委員会、柔道助成金不正受給問題調査委員会、などなど。
第三者とは、直接の当事者でない者を指すが、第三者委員会とは何か。通常の理解では、起こった事件について直接の利害をもたない有識者に事件の調査と意見を求めるために作られる組織である。その法的な定義はないが、客観的な立場で事件発生の経過と問題点の所在を明らかにする任務を果たすことが期待されている。しかし、その客観性と公正性はどのようにして担保されるのか。
第三者委員会といっても、二種類ある。ひとつは問題を起こした当該組織ないしその上部機関が、事実関係の調査、あるいは対処方針を提案してもらうために設置する委員会である。もう一つは、当該組織を監督する任務を当初から与えられて、法律により外部に設置された委員会である。
前者には、「いじめ防止対策推進法」で学校やその設置者が設ける事実関係調査のための組織などがある。「大津市立中学校いじめ自死事件に関する第三者委員会」もその先駆けである。
後者には、昨今話題になる原子力規制委員会があり、食品安全委員会、消費者委員会、運輸安全委員会などがある。
前者は、第三者委員会の設置、委員の人選、構成、調査権限自体が当該行政庁の手で行われ、その設置手続は不透明であり、委員会自らの事務局は持たず、その独立性は希薄である。
後者の原子力規制委員会や運輸安全委員会は、形式上国家行政組織法の三条委員会(省庁の外局)として設置され、形式的な独立性が与えられる。しかし鉄道などの事故調査を行う運輸安全委員会の事故調査官の大半は国交省やJRなどの出向組で占められ、多くは二?五年のローテーションで元に戻っていく。農薬や食品添加物、牛肉BSEなど食の安全に責任をもつ機関として設立された食品安全委員会は自身の調査研究施設を持たず、製造企業の提出するデータと内外の研究結果に依拠せざるを得ない。その事務局長は農水省出向者の指定席になっている。原子力規制委員会の内部部局幹部の顔ぶれをみても、原子力発電など行政を推進する経産省出向者やOBが要所を占めている。消費者委員会は現在二一人の事務局しか持たず、調査開始までに時間がかかっている。国家公安委員会は独自事務局を持たず、予算と事務局は当該行政を担う行政庁に頼っている委員会もある。
事実を調査するが、その結果を行政に報告するだけ、あるいは行政の諮問を受けて、意見を具申するが、後は行政の長に判断を委ねる委員会も多い。例えば消費者委員会は調査結果を総理大臣に報告する審議会としての位置づけである。
オーストラリアには「ウォッチドッグ」という言葉がある。政策を推進する行政に対して、これを外部から監視し、法令逸脱や人権侵害をモニターし、コンプライアンスを求める役割を担う機関である。オンブズマン、独立汚職防止委員会、警察懲戒委員会などがあり、完全に政府から独立した法律上の権限をもち、首相以下の行政を監視している。委員の任命は両院により行われ、政治的介入を受けないシステムとなっている。
このような発想を国際基準としたのが、国内人権機関についての国連「パリ原則」である。これを具体化したものを要約すると次のようになる。@設立と任務・権限が憲法又は法律に規定されていること。A委員にふさわしい人選と多様性を確保できる透明な選任手続。B委員会は独立して権限を行使し、委員は身分保障を受けること。C財政的基盤と委員会自身が採用できる事務局(出向者は職員の二五%を超えてはならず、上層部のポストには出向者を就けてはならない等)
このように、第三者委員会というだけでは報告や意見を鵜呑みにできない。条件を充たしているのは公正取引委員会位である。とりわけ不祥事発生により事後的に設けられる第三者委員会については、@設置目的、A委員選任の基準と選任手続の透明性、B調査の権限、事務局の設置、C調査結果をどう扱うか、などを確認しておくことが重要である。先日成立した「いじめ防止対策推進法」では法文上これらに関する規定がなく、先が思いやられる。
(ふじわら せいご)
©日本民主法律家協会