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家裁からの通信

(井上博道)
第0021回 (2004/08/11)
日本司法福祉学会報告

8月7日から8日まで千葉市の淑徳大学において日本司法福祉学会が開催されたので,その内容をお知らせします。
 日本司法福祉学会は,学者,弁護士,調査官や児童相談所,児童関係の施設や矯正・保護に関係する実務家が中心になって日本社会福祉学会から発展的に組織された学会です。メンバーの多くが実務家という学会はいくつかありますが,そうした学会の中でも,長年のケースワーク実践の経験をつんだ専門家が加入している学会といえます。
 今年のテーマは触法少年に関するものが中心でした。現在この国では刑事罰適用年齢が14歳以上とされています。そのため,14歳未満の犯罪を犯した少年は法制度上,いわゆる非行少年ではなく(つまり少年法が最初に適用されるのではなく)触法少年(児童福祉法が第一次的に適用される)という類型となるわけです。
 従って,触法少年の問題は,最初にかかわる機関としては児童相談所が家庭裁判所に優先する仕組みとなります。児童相談所は自らこうした触法少年に対する措置をおこなう権限と責任が与えられているわけですが,その一方で家庭裁判所に送致する(家庭裁判所の判断にゆだねる)ことも制度上は可能です。
 児童相談所が自ら触法少年の施設による保護を行おうとする場合,児童自立支援施設(都道府県が設置している施設がほとんどです)が中心的な役割をはたします。
長崎や新潟などであいついで触法事件がおきていますが,問題は殺人等の事件が発生した場合に児童相談所がいかなる選択をするのかという点なのです。
 少年法や児童福祉法の根本理念は,対象となる未成年者の行為(つまり犯罪行為)はそれはそれで重視はするけれども,こうした行為以上に未成年者の矯正(改善)可能性に視点を重点化する点で共通しています。だから大枠では目的は一致しているといえます。
 しかし少年法と児童福祉法が全く同じかといえばそうではありません。少年法はあくまでも司法でおこなわれる措置です。少年法改正問題の議論でも繰り返し出てきたことですが,犯罪行為を行った少年の責任の問題を排除はできないわけです。
 それに対して児童福祉法上の措置は,いわゆる司法における責任議論が直接対象になることはないのではないかと思うのです。責任の議論が必要な場合,児童相談所長が家庭裁判所へ送致できるという規定を設けたのは,少年法と児童福祉法の異質な部分を制度的に調整することが必要だからと考えられたからではないでしょうか。
 今回の日本司法福祉学会では触法少年の問題が全体会で取り上げられたのですが気になる議論が行われていました。あくまでも感想のレベルですが,少年法と児童福祉法の目的が共通している部分に注目して,触法少年の少年院送致も児童自立支援施設への入所も変わらないという主張があったことです。
 この点は大いに疑問です。かつて少年法改正問題の際,少年院も刑務所も更正の目的は同じだし,教育的措置も双方で行われているのでどちらに送っても同じだといった論調を主張する学者が一部にいたことを連想させます。
 素朴な質問ですが,少年院と児童自立支援施設は同じでしょうか。
もし同じであれば,児童福祉法上の機関は,多くの触法少年(施設入所が必要だと思われる少年)を家庭裁判所に送致すること,結果として少年院に収容することが心理的にも,実務的にも気楽にできるようになるでしょう。
 今日少年院は満杯の状態でありながら,都道府県の児童自立支援施設の入所者が激減している背景には,このような視点があるからでしょうか。児童福祉関係者にお尋ねしたいところです。
 同じ性格を持ちつつも,少年法上の措置と児童福祉法上の措置の異質な部分を認め,社会的なニーズに適応する制度設計や運営をすることが必要だと思うのです。
 少年院と児童自立支援施設をごっちゃにする議論が篤実な学者から出てくるところが,触法事件が社会の耳目を集める昨今のトレンドなのでしょうが,実務家や学問がめざしているのは,一般的なうけがいい耳障りの良い発言をすることではないと思うのです。
 シンポで長年児童福祉施設で働いていた実務家の意見がこころに残りました。「長崎の事件のような触法少年については,その行為は重大であるが,だからこそ児童自立支援施設が何ができるかを考える必要がある」(意訳ですが)実務家として真摯に向き合おうとする態度こそ,少年院と児童自立支援施設をごっちゃにする非学問的で,浅薄な議論を乗り越える心意気のある発言だと思ったのは私だけではなかったと思います。




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