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満月に足りない月夜

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 十三夜の月が夏の夜空に出ている。十時すぎに事務所を出るとまず事務所の角の路地の上に見える。雲がかかって少しかすんでいる。四谷駅までずんずん歩いていくと今度は四谷一中のグランド越しに広々と空を占領している。外堀通りを渡って地下鉄四谷駅に着くまで迎賓館までのはんてん木の街路樹の上にいつまでも待っている。あと二夜で満月の月は左側がゆがんでいる。空気が暑くてすっきりしないのか月も輪郭がぼけている。街路灯の光に負けて元気がない。月を見ると心和む。
 スーパーで安売り105円の「今風ハイ」を探して、野菜半額売れ残りワゴンに行き「今日は何もない」とちょっとがっかりする。悪玉コレステロールを駆逐するため豆腐を買う。これにかける薬味に工夫がある。石垣島産の島ラー油、このうまさにキュウリ、ザーサイ、大葉などのみじん切りを加える。これが絶品。 
 食料調達後はひたすら早足で帰る。11時にはBBC制作の「アウシュビッツ3」が始まる。放映しているのはNHK。夕食抜きのこの時間お腹が空いている。画面はリアルで深く辛い。食べたいけど見たい。「1年間に170万人か」ため息をつきながら豆腐を食べる。美味いけど悲しい。
 月だの豆腐だのの日常があのときもあったのだろうか。あのときも人は月を見ていたのだろうか。放送が終わる頃宴会も終わる。ちぐはぐな日常の時が進んでいく。
 次の日知人から花が送られてきた。アレンジが何ともよい。カサブランカが緑のなかでシックである。南青山ル・ベスベからわざわざ送ってくれた。さすが。私だって密かにこんなマダムになりたいとおもっている。ベトナムから100円で買てきたホテイアオイとトンボのカップにランをアレンジした。だからなんだって言うの。ほど遠いセンスである。