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悪い商人は西からやってくる

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 長くなった家裁の調停から帰ると何やらトマトの箱が届いていた。送り主は「澤藤統一郎」。トマトまで作っていたのか。待てよ送り状には果実とある。わかったもんね。あの自慢のプラムでしょう。きっと2階の窓から採ったんでしょう。悔しいけどうれしい。
 文京区本郷産の無農薬プラムである。一番熟れて果汁が滴っているのをがぶり。甘い果汁が口に広がり歯の間に果肉の繊維質が引っかかる。不ぞろいのみんながそろって箱の中。鳥ではなく人間に食われる運命になった。一日冷蔵してまた明日である。
 澤藤さんちには優秀な庭師がいて庭を丹精しているらしい。前に息子さんが庭の梔子の花を持って事務所に現れたことがある。切り口に水、ティッシュサとランラップで巻かれていた。
 何しろ私は澤藤先生が大好きで、ひいきの引き倒しのように誉めまくっている。本人はいやそうにしている。誉め言葉に知性が足りないのできっと恥ずかしいに違いない。その先生を「連れの庭師」が「私はもう夫と息子のことは考えたくないんです」なんて言っている。日民協の会議が終わるといつも電話するのに。考えたくなくなるぐらいに思っているってことね。自宅事務所の先生はいつも女房の手のひらの上にいるんだって。
 わからないことがあったら何でも澤藤先生に聞くといいんだって思っていたのに。事務局長日記が終わって道に迷ったような毎日の私。
 20年以上も前、先生は消費者事件の弁護団会議のとき盛岡から上京して「悪い商人は西からやってくる」とおっしゃった。この人は宮沢賢治だと私は思った。
 「良い人は北からやってくる」盛岡から東京に、澤藤先生の銀河鉄道は本郷駅に止まっている。