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その場所の夏

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 10時横浜地裁川崎支部。駅前は再開発でビルが建ち並び、裁判所までの道も街路樹が大きく見事である。第1京浜の上の大きな歩道橋を超えるとどこか殺伐とした匂いがする。裁判所の裏は川崎競馬場、斜め前は競輪場。ワンメータで不快そうな顔が目に浮かぶ駅待ちのタクシーは避けて歩く。裁判所の前にも無粋な横断歩道橋。これが無いだけで町は息づくのに。
 弁論が終って帰り道、まだ「藪伊豆」は開店前である。ここで蕎麦をたぐるのが楽しみなのにこの時間では。時々一杯飲んじゃうもんね。地下1階にある「藪伊豆」前の喫茶店はとっくに店じまいをしてしまった。仕方ないので駅にもどると駅ビルに知った店ばかり並んでいる。
 つまみ食いもせずに一路東京地裁に。いつも口ばかり動かして遊んでばかりいると思っている人がいたら考えを改めてもらいたい。事務所が休みになっているのにこの仕事ぶりである。
 昼近く四谷についてただいま。事務所までの道すがら芙蓉、夾竹桃、百日紅、夏の木の花が満開である。大きな枝を広げるケヤキの下を通ると涼しさと蝉の声。12時にはイグナチオの鐘が事務所に帰る私の肩越しに聞こえる。事務所の前に来るとゴーン寺の鐘の音。私の町である。
 鯛焼き屋の若葉も夏仕様で店の前にはかき氷の案内、水車の水がラムネの上にきらきらとふりかかっている。
 それぞれの場所で夏が過ぎていく。