日民協事務局通信KAZE 2002年8/9月

 「あの日」から1年……

(斉藤園生・弁護士)

▼九月一一日が近づいている。あの日の夜、テレビでは世界貿易センタービルが炎上している場面が延々と流れていた。ニューヨークの摩天楼で、大規模な火災が起きるとか、飛行機がビルにつっこむとか、とても現実の映像とは思えなかった。こんな大規模なテロが、あのニューヨークで起きることをいったい誰が想像しただろうか。この事件は衝撃的。

 「9・11」と同じくらい、「10・7」を言うべきだと私は思っている。アメリカ・ブッシュ政権が、アフガニスタンに「報復戦争」の攻撃を始めた日である。深夜のテレビで、臨時ニュースが流れた。暗澹たる気持ちで明け方まで延々とニュースを見続けたことを覚えている。9・11の同時テロと同じくらいの衝撃だった。これが第二の衝撃。  アフガニスタン空爆では、罪のないアフガニスタン市民が大量に殺され、膨大な数の難民が生まれた。しかも、ターゲットのビン・ラディンは未だに所在不明といわれ、今日でもアメリカ軍はアフガン攻撃を続けている。圧倒的軍事力を誇る米軍と、国家と言うにはあまりに稚拙なアフガニスタンを比較すれば、このような甚大な被害がでることは、事前に十分予想できたものである。にもかかわらずアメリカ国民は、「報復戦争」を叫ぶブッシュを、八割から九割という圧倒的支持率で支持した。これが第三の衝撃である。

▼9・11をアメリカで体験した河内弁護士は「アメリカが頭の先からつま先まで好戦国家になった」と報告した。リベラルと見られていた人々が一斉に報復戦争賛成派にまわる、報復戦争に反対する人に対して様々な形のバッシングが行われる、等々。民主主義の国、自由の国といわれるアメリカで、社会が国民の自由を否定し、意見を封じ込め、戦争反対の声を封殺している。誰に強制されるのではない、社会全体が「戦争肯定」に向かっている。実に恐ろしい現象だと思う。  果たして日本ではどうなるのだろうか。同じように日本でテロが起きたら、日本人は報復戦争を叫んで、一斉に戦争賛成に流れるのであろうか。それだけはごめん被りたいと思う。日本社会がそうはならない支えは、やはり九条にあるのではないだろうか。持っていると使いたくなるので武力は持たない、武力で国際紛争は解決しない、だからどんな名目でも戦争はしない。日本国憲法九条は実に良くできていると思う。問題は憲法に書いてあるだけでなく、日本国民である私たちが、骨身にしみて、どんなときでも九条と同じ考えに立てるかだろう。九条の考えの浸透度を、「平和主義」度とでも表現するなら、日本の平和主義度はどのくらいだろうか。

▼今、ブッシュ政権は今年の秋にでもイラク攻撃を行うと公言している。ブッシュ政権を支持する世論は、アメリカ国内では、アフガン攻撃時ほどの高率ではないが、いまだに六割をこえるといわれている。しかし、ようやくアメリカ国内で、戦争反対の運動も広範に広がっているとの報道が続いている。アメリカ社会も戦争推進一色ではない、平和主義も確実に広がっていることがわかる。  日本では有事三法案が継続審議になった。当初、一,二ヶ月で成立か、といわれていたにもかかわらず、国会提出前後からの全国に広がった反対の運動は、とうとう通常国会での成立を政府に断念させた。この間の闘いは実に熱かった。実は日本の平和主義度は結構高得点なのではないか、と私は思っている。


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