日民協事務局通信KAZE 2003年4月

 肉食恐竜を法の鎖でつなごう

(事務局長 澤藤純一郎)

■二〇〇三年二月から三月のなかばまで、平和を求める民衆の声が空前の熱い風となって世界を覆った。
 世界同時に、一〇〇〇万人を超す人々が反戦デモに参加した。デモには、これまでにない家族連れ、若者の姿が目立っていた。アメリカでさえ、ロスアンゼルス、シカゴに続いて、ニューヨークでも開戦に反対する議会の決議が採択された。日本でも、六〇〇を超す地方議会の決議があがった。あらゆる世論調査が、戦争に反対する圧倒的な世論の存在を示していた。
 もしかしたら…。空前の反戦世論と、国際世論結実の舞台である国連は、無法な唯一超大国の戦争を阻止できるのではないか。私は一種興奮した気持を抑えられなかった。
■しかし三月二〇日、国連安保理を置き去りにして、米英軍は対イラク開戦に踏み切った。あきらかな国連憲章違反の武力行使である。以来、戦争一色の報道が日常化している。なくもがなの戦闘で、多くの民衆が犠牲を強いられている。泣き叫ぶ子の映像が飛び込んでくる。苦しいほど胸が痛い。
 あの空前の反戦世論の盛り上がりは、春の夜のつかの間の夢だったのだろうか。今吹く風は、戦車をおそう砂漠の嵐であり、都市の上空で炸裂する大量破壊兵器の爆風である。国際世論も国際法も、そして積み上げられてきた平和構築に向けての人類の叡知も、無法な超大国の圧倒的な軍事力の前にはまったく無力なのだろうか。私は、落ち込んだ自分の姿を隠せなかった。
■イラクの脅威などは、取るに足りない。今世界は、強大なアメリカの軍事的暴走という「衝撃と恐怖」に曝されている。人類が、巨大肉食恐竜と共存できるか、という深刻な課題に直面しているのだ。
 恐竜の側につき、恐竜に忠誠を示して、その機嫌を取りながら生き延びようという処世術もあろう。いち早く戦争支持を表明した小泉内閣の方針であり、「反戦は利敵行為」という輩の姿勢でもある。しかし、恐竜に飼い馴らされる立場を選択することは、人間の尊厳を保って生きようとする者には到底耐え難く、採り得ない。
■思えば、法とは権力という強者を縛る鎖であり、足かせである。国内法もしかり。国際法も、平和を求める人類の叡知が、各国の政府、なかんずく軍事的超大国に課した制約である。
 今人類は、凶暴な恐竜に平伏するのか、これを国際法の鎖でつなぎ止め無害化するのか、重大な岐路にあるのではないだろうか。つなぎ止めるちからは、国際世論以外にない。その国際世論は、けっしてどこか遠くにあるものではない。自然に湧いて出てくるものでもない。私たちが、その小さな部分部分を意識的に作っていくものなのだ。
 とすれば、今落ち込んではいられない。多くの人々と一緒になって頑丈な鎖をつくり、これを恐竜の足に枷としてはめ込む作業をしなければならない。
■日民協は、他の法律家団体に呼びかけ、法律家諸団体の共同行動として、二月二〇日「イラク攻撃に反対する一二〇〇人法律家アピール」(本誌前号に掲載)を発表し、三月一一日「アメリカのイラク攻撃を国際法の観点から考える国会内意見交換会」(本誌今月号に掲載)を行い、「イラク開戦に反対する国会決議を求める請願」(会員には配布済み)運動に取り組んでいる。世界の反戦運動の中のごく一部であるが、大きな力となった運動の確かな一部でもある。
 さて、法律家として、これから平和のために、何をなすべきなのだろうか。国連に、政府に、国会に、内外の世論に、どう働きかけるべきなのだろうか。皆様の智恵をお貸しいただきたい。すべては、平和と民主主義のために。恐竜の恐怖から、世界の罪なき子を守るために。


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