日民協の総会は、前日、軍事占領地域に自衛隊を送り込むイラク派兵特措法案が衆院を通過した中で行われた。総会アピールにあるように「周囲の景色はけっして明るくはない」なかで行われた。
しかし、講演と討論の内容は、けっして暗いものではなく今後の展望と可能性を抱かせるものだった。
そう感じることができたのは、唯一の超大国であるアメリカは強く見えるが実はそれほど強くはないのではないか、ということが講演と討論の中で示されたからである。アメリカが「強い」行動をとれば取るほどその矛盾は大きくなって、世界市民の行動も大きくなり、国連も民主主義的機能を強化していくのではないか、ということである。
最上敏樹教授の講演の中で印象に残っているのは、アメリカのイラクに対する武力行使を抑えられなかったことに関して、「意味のある敗北」と総括されていることである。アメリカの独走をとめようとしたフランス、ドイツ、ロシア、それを支持した国々、そして、世界各地で展開された市民運動の中に、「これまで経験したことのない今後の世界のための新しい要素」を見いだされている。討論の中でも、こうした見方を支持する意見が相次いだ。
総会後の情勢の推移は、総会の講演と討論の内容が適確であったことを物語っている。
イラクの統治は困難を極め、実質的な戦闘状態が継続し、米兵等の死者が後を絶たない。こうした中で、ブッシュ大統領の圧倒的優勢とみられていた来年の大統領選挙に「異変」が起きている。ニューズウイークの最新世論調査によると、再選を望まないとの回答が四九%に上り、再選支持の四四%を上回り、また、イラク政策を懸念する人は六九%に上った。一方、民主党の弱小候補と言われていたディーン氏が、徹底した反戦姿勢への共感を得て、有力候補となっている。アメリカの「強い」単独行動主義は矛盾を深め、これを抑止する力がアメリカ国内にも広がってきている。
このように、アメリカの単独行動主義は世界の市民と国際社会から厳しい対応を受けているのであるが、どうも、日本だけは世界の流れに逆行しているようである。七月二六日、イラク派兵特措法が参院で可決され成立した。そして、イラクに自衛隊を派兵する準備がなされている。
問題は、アメリカの単独行動主義に付き従い戦争国家の道を走る日本政府を私たち国民がどうやって変えていくかである。総会では、肝心のこの点が議論不十分だったように思われる。しかし、重要な問題意識は提示されたのではないか。ひとつは、平和のビジョンである。EU体制が不戦・平和と繁栄の共同体を目指したのと同様に、北東アジアにおける不戦・平和と繁栄の共同体的結合を目指すというビジョンである。ふたつは、運動の経験のない人たちとの情報と体験の共有である。world peace now、有事法制反対の取り組み、憲法劇、憲法フェスティバルは、インターネット時代の今後のたたかいにとって重要な意味を持っていると思う。
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