日民協事務局通信KAZE 2006年4月

 第38回司法制度研究集会終わる
好評だった構成劇。裁判の迅速化と権利制限の危惧、現実に


▼「どう変わる?刑事司法」を主テーマとする第三八回日民協・司法制度研究集会が三月二五日の土曜日、東京四谷のプラザエフで開かれ、約一〇〇名が参加して、「刑事司法」の実態と問題点について研究・討論しました。

▼第一部の基調報告は「瀬戸際の刑事司法」と題して元裁判官の守屋克彦氏の講演。守屋氏は、「なぜ瀬戸際か」の説明からはじめ、最近の刑事立法について、実態法の面から処罰の早期化に伴なう法益思想からの離反、重罰化・厳罰化の傾向、その社会的背景を指摘、手続法の面から、事前的・予防的規制・捜査機関の介入の早期化、行政警察活動領域の拡大、司法警察活動と行政警察活動との領域流動化と予防司法化、警察の権限拡大傾向などについて具体的事例を引きながら、説明されました。

 また、裁判員裁判と刑事裁判手続きの「改正」問題にふれて、わかりやすい裁判、わかりやすい手続きを標榜し、国民の司法参加の一形態として導入された裁判員制度の、当初の理念からの逸脱、基本にあるべき適正手続きの軽視、迅速性の強調による被告人側の権利制限の危険性を強調、公判前整理手続の運用の実情にふれながら、公判前整理手続期日の指定とその後の公判期日指定が、迅速処理の自己目的化と被告人の権利制限、弁護人の負担増をもたらしている事実と、証拠制限の問題、被疑者段階からの弁護の必要性の問題等を指摘され、適正な裁判員裁判の実現のために、弁護人体制の整備、公正・中立な裁判官の確保、裁判員と職業裁判官との対等な評議の実現努力の必要性などを強調されました。

▼第二部では、構成劇「新宿御苑の杜 殺人事件」の上演。この構成劇は松尾弁護士が中心になって青法協弁護士学者合同部会で作成した裁判員裁判のシナリオに基づくもので、演出は青年劇場の福山啓子さん。弁護人と修習生は同じ青年劇場の広戸聡さんと重野恵さんで、被告人は早稲田大学学生の和田卓也さんという配役。あとは素人で、裁判長は北沢貞男元裁判官、右陪席裁判官は脇田康司弁護士、左陪席裁判官は佐々木光明神戸学院大学教授、検察官は佐藤和利弁護士という布陣。六人の裁判員も司法界と市民団体にその人ありとうたわれた名士(迷士?)たち。

 第一部の基調報告を具体化したと思われる裁判員裁判の構成劇は、まことにタイミングが良く、接見室、弁護人の事務所、公判前整理手続、公判廷、評議室など11場面で構成された、各キャストの迫真の演技は、観客の涙と怒りをさそい、鳴りやまぬ拍手の中での幕引きと相成りました。

▼第三部は刑事事件の現場から、板橋事件について小沢年樹弁護士、世田谷事件について小林容子弁護士、堀越事件について加藤健次弁護士、特別報告として、東京での公判前整理手続き五一号事件を担当した竹村真史弁護士から、それぞれ報告を受け、討議しました。

 まとめは澤藤統一郎弁護士が行い、「基調報告をはじめ、会場からの意見、報告を聞いて衝撃を受けた。危惧していたことが現実となってわれわれの前に迫っている。刑法だけでなく、憲法も教育基本法も民主主義も平和も人権も「瀬戸際」にある。今日を第一歩に改善・変革のたたかいを強めていこう」と締めくくられました。

 午後五時過ぎすべての議事を終え、会場を八階に移して「懇親会」が開かれました。懇親会には、「史上初めての日民協・構成劇」に出演した青年劇場のスタッフをはじめ、約四〇人が参加し、全員が発言しました。

 法律家はおっかないと思っていたが意外に気さくで見直したとか、こういう法律家だけだといいのにとか、この構成劇を全国に広めれば、裁判員裁判の実態がわかって市民の関心も高まるだろうとか、たまには裁判を忘れて青年劇場の芝居を観ようじゃないかとか、国際国内情勢はいまや累卵の危機にあるとか、持論展開の大演説や、思いもかけぬ人たちの応援歌などなど、賑やかで友情にあふれた二時間を過ごし、あしたからの決意を胸に、機嫌よく散会しました。
(副理事長 有村一巳)


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