三月二五日に開催された第三八回司法制度研究集会において上演された、司法改革の問題点を問う構成劇『新宿御苑殺人事件』に「裁判員A」の役で出演しました。
私自身のセリフは「裁判官と同じ意見です。目撃証人の証言は信用できます」、「有罪!」、「せめて無期懲役は必要なのではないでしょうか?被害者は何の罪も無い女性なのですから…」など、ごく短いセリフが三〜四つに過ぎませんでしたが、それでも、小学校の学芸会以来の劇出演であり、当日の劇本番ではとても緊張しました。
青年劇場の方々に演技のご指導をいただいたものの、ほとんどの出演者が普段は演劇とは無関係な法律家たちであり、素人集団の芝居でした。
しかし、練習の段階から、それぞれの人がそれぞれの役になりきって、大変楽しい取り組みとなりました。
中でも被告人役を演じた早大法学部生の和田卓也君の迫真の演技が劇全体を引き締めました。
「他に適当な人を見つけてこなかったら、あなたが被告人役をやりなさい」と言われ、あわててスカウトしてきた彼ですが、法律家を目指す若い学生が日民協の活動に関わりを持つことは、協会にとっても、彼のような学生にとっても有意義なことであると感じさせられました。
劇は大変好評で、上演後多くの方から、「裁判員制度は結構なものだとばかり思っていたけど、この劇をみてその問題点が初めて分かった」との感想いただきました。
この劇の「ミソ」は、いい加減な弁護士がいい加減な弁護活動を行ったのでなく、ごく普通の、むしろ比較的まじめな弁護士が、熱心に弁護活動を行おうとしたにもかかわらず、公判前整理手続きと裁判員制度のもとでは、充分な弁護活動が果たせず、被告人にとって極めて不当な判決が下されてしまったところにあります。
憲法「改正」も、国民投票法制定も、教育基本法「改正」も、共謀罪の制定も、それを行おうとする側は、美しい言葉でその「改正」等の理念を語り、指摘される危険性、問題点に対しては、ごく一部の「不心得者」だけが不利益を受けるかのように反論します。
そこで、これら法「改正」等がなされた場合に、どのような事態が生じうるのかということ、そして、それはごく一部の「不心得者」だけではなく、「普通の人」、「まじめに生きている人」をも危険に巻き込むということを、具体的に、分かりやすく示すことが、反対運動等を行うにあたって極めて有効であると言えるでしょう。
そのことを、この構成劇への取り組みを通じて改めて認識させられた次第です。
(弁護士 渕上 隆)