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 法と民主主義2008年1月号【425号】(目次と記事)


法と民主主義1月号表紙
特集1★政策形成訴訟のあり方を考える
特集Tの企画にあたって……編集委員会
◆座談会・政策形成訴訟のあり方を考える─4事件を素材として 出席者……水口洋介/宮原哲朗/米倉洋子/野間 啓/安原幸彦
◆資料・各訴訟基本レポート
◆インタビュー・小野寺利孝弁護士が熱く語る 「政策形成型訴訟」をライフワークとして……小野寺利孝/聞き手・佐藤むつみ
特集2★学生無年金障害者訴訟最高裁判決を斬る
特集Uの企画にあたって……編集委員会
■最高裁判決の批判的検討
◆裁判過程からみた最高裁判決の問題性……新井 章
◆最高裁は少数者の基本的人権擁護と憲法理念の実現に真摯であれ……高野範城
◆新潟訴訟の「はざま差別」論への無回答……今井慶貴/和田光弘
◆最高裁判決批判(広島)と今後の全国の裁判について……石口俊一
◆学生無年金障害者訴訟最高裁判決の検討─憲法14条論を中心として……植木 淳
    • シリーズ●若手研究者が読み解く○○法R「裁判法」 司法制度改革における「国民の視点」……飯 考行
    • 連載掲載●9条世界会議をめざして─E9条を守る運動にとっての「9条世界会議」……笹本 潤
    • 連載・軍隊のない国(24)●キリバス共和国……前田 朗
    • 日民協文芸●〈参〉
    • 書評●北野弘久著『税法学原論』・第6版……奥津年弘
    • 時評●9条世界会議のめざすもの……新倉 修
    • KAZE●年頭の決意!……海部幸造

 
★政策形成訴訟のあり方を考える

特集1の企画にあたって
 ここ数年、大きな世論の力を支えに、四つの訴訟(トンネルじん肺根絶訴訟/原爆症認定集団訴訟/中国「残留孤児」国家賠償請求訴訟、薬害肝炎訴訟)は、政府の政策を動かしてきました。
 さまざまな人権侵害と被害の回復のために司法判断をテコにしながら、勝訴判決のみならず、敗訴判決までも乗り越えて、その限界にも挑戦しつつ成果を勝ちとってきました。
 トンネルじん肺根絶訴訟は、裁判勝利、世論と国会議員を動かして、トンネルじん肺根絶のための省令改正、積算基準の見直しの六月一八日政府合意を獲得しました。
 原爆訴訟も、連戦連勝で、新年に入り、厚労省から「原爆症認定の新基準」のイメージが示され、政府の原爆認定基準をかえ、原告全員認定に向けて動きつつあります。
 中国残留孤児訴訟は、判決は一勝七敗ですが、世論を動かし、中国残留孤児対策の法律を制定させました。
 C型肝炎訴訟は、四勝一敗の判決で、世論を支援に首相と与党を動かして、今年一月一一日に国会において「薬害肝炎救済法」(一月一六日施行)の成立を受け、国との和解に基本合意しました。
 これらの訴訟を担った各弁護団にご出席いただき、個別の事例を超えて政治や行政に影響を及ぼす「政策形成訴訟」と呼ばれる多くの事件がもつ普遍的な共通の課題、世論の形成、政治決着へのアプローチ、「官」を動かす力等々、法廷内外の連帯した力で、大きな壁を切り崩していった過程を、座談会方式で検証したいと考えました。
 もっか進行形の訴訟ゆえ、座談会の実施は、昨年の仕事納めである二〇〇七年一二月二八日に、日本民主法律家協会の本部事務局会議室にて行われました。
 各事件について、あらかじめ基本レポートの提出をお願いし(本誌26〜32頁掲載)、それを踏まえたうえで、深い議論がなされました。
 司会は、多くの「政策形成型訴訟」に関与し、また、政府・国会との最終調整の場に直面し、政治力を発揮しながら、困難な場面をかいくぐってきた安原幸彦弁護士にお願いしました。
 今後は、アスベストなどの大規模な政策形成型訴訟が続くとともに、正社員・非正社員と「区分け」されている労働の現場においても、社会的な普遍的な問題に高めることができるのではないか、との意見も出されました。
そしてまた、政策形成型訴訟の生みの親とももくされる小野寺利孝弁護士からは、その熱き思いを佐藤むつみ編集長がお聞きしました。
 併せて、政策形成訴訟のあり方を考え、そこから学ぶべきものを読みとっていただければ幸いです。

(「法と民主主義」編集委員会)


 
★学生無年金障害者訴訟最高裁判決を斬る

特集2の企画にあたって
 一九五九年発足の国民年金制度のもとで、二〇歳過ぎて学生であったがゆえに、被保険者とされないまま、その間に障害を負ったにもかかわらず、障害年金の支給を受けられなかった学生たちがいる。彼らは、年金制度の欠陥を指摘し、「無年金」扱いの解消を求めて立ち上がり、地裁では勝訴判決を受けながら、二審で逆転敗訴となり、昨年九月二八日に最高裁第二小法廷から、一〇月九日には最高裁第三小法廷から、原告敗訴の判決が言い渡された。
 年金制度の谷間に落とされていた障害者の実態に目をむけることもなく、また、年金制度の理念も無視し、障害学生たちを「無年金」のまま放置してきたことを、国(政府・国会)の問題解決への怠慢を指摘することもなく、最高裁は合憲だという。
 今号では、血も涙も通わぬ冷酷非情な判決内容について、この訴訟を担った各地の弁護団から、詳細な報告とともに、最高裁判決の批判的検討を試みた。また、いわゆる人間裁判「朝日訴訟」をはじめ多くの社会保障事件を手がけた新井章弁護士からは、「裁判過程からみた最高裁判決の問題性」と題して、最高裁判決の不当性をあきらかにし、北九州市立大学の植木淳准教授からは、憲法一四条論を中心に、最高裁判決の分析をしていただいた。
 司法が弱者の人権救済にここまで非情で無力であってよいはずはない。人が人として生き抜くために、今こそ、声をあげねばならない。

(「法と民主主義」編集委員会)


 
時評●9条世界会議のめざすもの

(9条世界会議実行委員会共同代表・青山学院大学教授)新倉 修


 二〇〇七年一一月一日、海上自衛隊のイージス艦と補給艦が、石破茂防衛大臣の帰国命令に応じて、インド洋から引き揚げたとき、インドのムンバイに住む法律家から一通のメールが届いた。「おめでとう。これはあなた方がされてきた平和の努力の成果です。」と。この法律家は、ムンバイ大学でも教鞭を執ったことのあるニルーファー・バグワットさんという。一九九一年の第二回アジア太平洋法律家会議(東京・大阪)にも参加し、火を吐くような弁舌で有名になった。とりわけ舌鋒が冴えわたったのは、史上最悪の化学工場事故といわれるボパールの毒ガス事件を取り上げたときだった。一九八四年にインドでユニオンカーバイトの子会社が有毒ガスを流出させ死者二万五千人を出した事故を、彼女は多国籍企業の「犯罪」として追及した。またアフガニスタン国際戦犯民衆法廷では、裁判官として、石油・天然ガスに絡む多国籍企業ユニカルの責任を指弾した。その碩学弁護士が、9条世界会議に対して純真な敬愛の念を吐露している(詳しくは本誌四二三号)。
 昨年九月に「全国人民法律家連合(National Union of Peoples' Lawyers)」の設立総会(セブ市)で、民衆のために生命を賭して闘う数多くのフィリピン法律家に出会った。とりわけ、全国事務局長に選ばれたネリ・コルメナーレスさんは、印象が深い。彼は、高校時代にマルコス政権に反対するデモに参加して三年間投獄されたが、その間、アムネスティ・インターナショナルが呼びかけたレターが刑務所に続々と届き、虐待を免れたと述懐する。一枚の葉書が一人の人間を支えた。そのネリさんが二〇〇五年の第四回アジア太平洋法律家会議(ソウル)で「フィリピンでは法律家や裁判官が続々と殺害されている」と訴えた。「ミャンマー」でジャーナリストの長井健司さんが殺されたこともショッキングだった(詳しくは『軍縮問題資料』二〇〇八年二月号の拙稿)が、反対者を殺すという手法そのものが民主主義の否定であり、断固として抗議すべきであり、また抗議する人と固く連帯すべきだという思いから、この創立総会に参加した。
 ちょっとショッキングなこともあった。来賓の一人としてエストラーダ大統領時代の副大統領が招待されていた。彼は、高潔な人柄でつとに民衆の尊敬を得ており、大統領の腐敗に対する糾弾の先頭に立ったことでいっそう名を馳せたが、禅僧のような風貌から鋭く「フィリピンが貧しいのはなぜでしょうか」と演説の口火を切った。原因は日本にあるという指摘に、場内は水を打ったように静かになった。要するに、日本が巨大な経済力を背景に不平等な通商関係をごり押しして、フィリンピン人民の資源を掠めとり、介護などのサービスについての門戸開放要求に対して日本語の修得を押しつけるという批判だった。ルソン島の少数民族の代表でもある女性法律家は「あなたを傷つけたのではないですか」と私を気遣ってくれたが、「いいえ、彼は日本政府や日本の企業を批判しましたが、日本国民を批判したわけではありません。」と私は答えた。元副大統領とも演説の後紹介されて、「障害は話し合いで解決しましょう」と言って笑顔で握手した。
 われわれは葛藤のない世界に生きているわけではない。しかし軍事力に依存した超大国の寒々しい行く末は、堤未果『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』(海鳴社・2006)でも指摘されている。卑近な例をとれば、ハリケーン被害が拡大したのはイラク派兵のせいだとも言える(Paul Joseph, Are Americans Becoming More Peaceful?, Paradigm Publishers, 2007, p.21.)。もっと踏み込めば、海外基地を拠点に世界を支配するアメリカ「帝国」は共和主義という人間関係を破壊している(Chalmers Johnson, The Sorrows of Empire, Metropolitan Books, 2004)。出口のない軍事力の介入を終結させるために、国際連帯によって平和の力を強めるべきだ。9条世界会議は、そのための絶好のチャンスだ。



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