トップへ>日本民主法律家協会第51回定時総会 |
1 新自由主義の再起動・日米軍事同盟強化を阻み、新たな改憲策動に立ち向かおう
(1)野田政権が登場し、新自由主義の再起動が始まった。新自由主義改革の矛盾が爆発し反貧困、反新自由主義の運動圧力を受けて政権交代が起こったのは今から3年前の夏であったが、アメリカと財界の巻き返しを受けて民主党政権は無残な変節を遂げた。
焦点は、野田首相が「命をかける」と称した社会保障と税の一体改革である。2012年6月26日、消費税率を10%に引き上げ、社会保障の根幹を掘り崩すことを内容とする社会保障と税の一体改革関連法案が、衆議院本会議において強行採決された。
これら法案は、社会保障と税の双方から、憲法25条が保障する人間の尊厳にふさわしい生活を営む権利を侵害するものであり、私たちは各法案に強く反対するものである。
しかも、このような重大な法案を、あらかじめ民主・自民・公明党の3党合意で決め、国会審議も省いて採決に及んだ今回の事態は、民主主義を踏みにじる暴挙であり、断じて許すことができない。
(2)新自由主義大攻勢は、「社会保障と税の一体改革」にとどまらない。野田政権は、昨年の福島第一原発事故による未曾有の被害を尻目に、大飯原発3、4号機の再稼働をなりふり構わず強行し、大企業の安定した操業を確保するとともに大企業の巨大な市場である原発輸出の障害物をなくそうとしている。TPPへの交渉参加、労働者派遣法の骨抜き改正、有期労働規制に関する労働契約法の改正による非正規労働者温存政策も現国会で強行されようとしている。新自由主義・構造改革を遂行する地域づくりも進行している。
(3)民主党政権の変質に伴い、日米軍事同盟強化の動きも新たな段階に入っている。オバマ政権の圧力の下、民主党政権は公約を投げ捨て、軍事同盟強化にのめり込んだ。菅政権は、普天間基地の辺野古移転推進に止まらず、集団的自衛権の解釈による容認、国際平和協力法制定はじめ武器輸出3原則の見直しにまで及び、自民党政権時代の動きを加速化するものであった。菅政権のあとを継いだ野田政権は、普天間基地移転の推進に本腰を入れると同時に、オスプレイ配備、自衛隊の南スーダン派兵など、日米軍事同盟強化の遅れを取り戻すためにアメリカの要求を次々呑んでいる。
(4)加えて、自民党をはじめとした諸政党や大阪維新の会が改憲案、改憲構想を発表し、衆参両院の憲法審査会も活動を活発化している。改憲案では、自衛隊の海外での武力行使を可能にする9条の改悪と同時に、新自由主義の政治がなかなか進まない現状を打破し「決められる政治」を実現する権威的政治体制づくり、市民的政治的自由の制限などももくろまれている。消費税増税協議で先鞭をつけ、衆院選後にめざされている「大連立」ができた暁には、この改憲問題が一気に浮上することは確実である。
さらに改憲の浮上と併行して、改憲を先取りする動きが起こっている。少数政党の議席を奪い改憲をスムーズに進行させるために、また新自由主義改革を強行することをねらって、衆院比例定数削減法案が民主党によって衆院に提出された。かかる比例定数削減を許すようなことがあれば、国民の民意はますます国会に反映しないことになり、民主主義の根幹が揺らぎかねない。また秘密保全法の制定ももくろまれている。
こうした改憲、それを先導実施するような企てに反対する広範な声を力にし、その運動の先頭に立つことは日民協の創立の原点である。
2 新自由主義回帰による司法や裁判に対する重大な攻撃
新自由主義の巻き返しは、司法や裁判に関わる領域にも重大な影響をもたらし始めている。
まず、障害者自立支援法違憲訴訟や薬害肝炎訴訟など、国を被告とする政策形成訴訟において原告団と国との間で締結された基本合意が政府によって反故にされ、約束された法律案の提出が履行されない事態が、とりわけ野田政権となった今国会で相次いで起こっている。社会保障の充実や医薬品に対する規制強化など新自由主義政策と相容れない政策は、たとえ訴訟上の合意であっても踏みにじるという前代未聞の暴挙であり、危機的事態である。
また、泉南アスベスト訴訟、薬害イレッサ訴訟、首都圏建設アスベスト訴訟等、国民の生命や健康を害する企業の加害行為につき、加害企業及びこれに対する国の規制権限の不行使の責任を追求する集団訴訟において、昨年から今年にかけて企業や国の法的責任を否定する判決が相次いで言い渡されている。これら訴訟については、訟務検事が判決前に法律雑誌に国の責任を否定する論文を掲載し、判決による被害者救済は事前規制型社会への回帰につながり財政事情からも妥当でない旨論評しており、こうした動きも軽視することができない。
新自由主義・規制緩和政策は、国民の生命や健康など基本的人権を確実に侵害する。従って、訴訟を通じてその救済と政策転換を求める取組みは、福島第一原発の被害救済をはじめとして今後ますます大きな意義を持つ。その中で、再起動した新自由主義は、国民が訴訟の成果として勝ち取った政策の実現すら踏みにじることを始め、裁判内容にも露骨に影響を与えることを目論み始めているのである。
私たち法律家は、新自由主義の犠牲者である広範な国民とともに、司法が本来の人権保障機能を果たすよう、従前にも増して取り組みを強化すべき時期に差しかかっている。
3 軍事同盟と新自由主義政治に終止符をうち憲法の実現をめざす法律家運動を
国民は、こうした新自由主義の攻勢に不満や怒りを鬱積させているが、行き場のない不満の中で政治の方向性を見失う状況も生まれている。裏切った民主党に対する不信とともに、新自由主義の推進者だった自民党に対する不信も強く、行き場を失った国民の中からは、橋下維新の会に期待する声も現れている。だが橋下維新の会がめざしているのは、小泉政権以降の構造改革・軍事大国化の遅延に苛立つ支配階級の要望に応えて新自由主義の急進路線の強行をめざすものであって、決して新自由主義からの転換をめざすものではない。
しかし同時に新自由主義に終止符を打つ新しい動きも起こっている。憲法9条の改悪反対の1点で、良心的保守の人々とも手をつなごうという九条の会運動の精神を継いで、原発ゼロの運動が各地で起こり、さらに原発再稼働に反対する若者たちの運動が大きな盛り上がりを見せ、これらが合流して、首相官邸前では60年安保反対闘争以来の大集会がもたれている。TPPに反対して、地域では、農協や医師会、保守政党の人も巻き込んで地域と産業を守るという点での取り組みも盛り上がっている。これら1点での共同が日米軍事同盟と新自由主義に終止符を打つ大きな輪となれるかどうかに、最大の眼目がある。共同の旗印は憲法である。
以上から見えてくる私たちの課題は、新自由主義の再起動を阻み、民主党政権の「実験」の教訓を踏まえて、今度こそ、新自由主義に代わる日本社会のあり方を構想するという課題である。それは、憲法を生かす社会の実現といいかえることができる。
私たちは、改めて市民的・政治的自由を土台とした民主主義の強化と真の多数派形成を追求し、新自由主義政治の再起動を阻み、憲法を生かす新しい政治への転換と,憲法を守り弱者や労働者の人権保障機能を果たす民主的司法の実現を求めて、多くの国民と連帯し、法律家運動の要として闘っていくことをここに宣言する。
2012年7月7日
©日本民主法律家協会