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 イラク攻撃に反対する法律家1200人アピール 2003年2月

 われわれは、イラク攻撃に反対し、平和的手段によって大量破壊兵器の問題を解決することを支持する。

 アメリカは、クウェートに配備された10万人の兵力を含め、すでに湾岸周辺に15万人の兵力を集結させ、実戦「訓練」を行っている。イラク南部のいわゆる「飛行禁止区域」について、本年だけでも10回にわたって空爆をしている。

 ブッシュ大統領はイラクを「悪の枢軸」と決めつけた上で、フセイン大統領には大量破壊兵器によって周辺諸国を再び侵略する意図があると主張して、「先制自衛」を口実にして、大量破壊兵器の廃棄やイラクの政権転覆のために武力行使も辞さないと公言している。

 しかし、「先制攻撃」には国際法上の根拠がないことは明白である。政権転覆のための武力行使は国連憲章2条4項に違反する。そもそも国連は、戦争が無辜の民衆にもっとも大きな被害をもたらすことを深く反省して、「平和に対する脅威」についても平和的解決を優先させ、主権国家による武力行使も武力による威嚇も原則的に禁止した。

 国連安全保障理事会決議1441号もこの流れに逆行することは許されない。イラクの受諾によって開始された大量破壊兵器の査察の結果、本年1月27日の安保理事会に提出された報告書は、核兵器開発の事実はなく、化学兵器の開発などについても明確な証拠はないことを明らかにしている。イラクが協力を拒否した事実があるにしても、査察の継続が必要という結論は導かれるものの、武力行使を直ちに根拠づけうるものではない。

 それにもかかわらず、ブッシュ大統領は、本年1月28日の一般教書演説において、いまだに独自の判断に基づいてイラクを攻撃する可能性を示唆している。

 しかし、仮にイラクに大量破壊兵器があるとしても、それを廃棄・除去するには平和的手段によるべきであり、主権国家に対して武力によって強行することは、現代国際法上許されない。国連憲章は、自衛権行使の場合に限って、しかも、安保理事会が必要な措置をとるまでの間に限定して、武力行使を承認するにすぎない。安保理事会は、平和の構築のために国連憲章に体現された平和的手段を十全に尽くす責務があることを軽視すべきではない。

 アメリカ政府が独自の判断でイラクに対して武力を行使すれば、「侵略」のそしりをまぬがれず、これ自体が国際法上の犯罪とされうる。イラクへの武力行使があれば、現在ハーグにおいて設立準備が進められている国際刑事裁判所は、武力行使に伴う、戦争犯罪、人道に対する犯罪、ジェノサイドを裁く公正かつ独立の唯一の国際機関として始動しうるものである。アメリカ政府が一貫して国際刑事裁判所の手足を縛ろうとしていることは、軍事力を優先させ、国際法のとうとうたる流れに逆行し、紛争の平和的解決義務に反する。

 20万人を越える兵力が集結すれば、何が起っても不思議はないという状況になる。現在展開している兵力を引き上げなければ、「意図しない」武力行使すら発生する可能性が生じ、いったん武力が行使されれば、民間人を含む大量殺戮と環境の重大な被害が必ず発生することになる。これは、国連憲章前文にいう「戦争の惨害から将来の世代を救う」方法として、最悪の選択であることは明白である。またアメリカがイラク攻撃に核兵器の使用を計画していることは、国際司法裁判所の勧告的意見で確認された現代国際法に違反するものであり、とりわけ強く弾劾されなければならない。

 また日本政府は、イージス艦のインド洋派遣などを通じて米軍のイラク攻撃にも協力しうる姿勢を示しているが、ブッシュ政権の国際法に違反する戦争政策に協力することは、違法な戦争に加担することである。日本政府はむしろ、平和的な解決のために積極的な外交イニシャティブをとり、「北風」の圧力より「太陽」の知恵が優れていることを率先して示すべきである。いまこそ、日本国憲法前文に掲げるように、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」創造的な行動をとるべきである。「戦争は解決ではない」。

2003年2月

日本民主法律家協会・全国理事会


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