日本民主法律家協会
理事長 鳥生忠佑
6月18日、政府はイラク派遣の自衛隊を多国籍軍に参加させてイラク暫定政府への主権委譲後もそのままの形で残留することを、閣議決定した。
私たちは、これまで、アメリカの対イラク先制攻撃を明白な国際法違反行為として弾劾し、イラク特措法を米英の軍事占領に加担する違憲の立法として批判し、サマワへの自衛隊派遣実施はイラク特措法が定めた「非戦闘地域であることの」条件にも反することを指摘して強く反対した。このたびの現地部隊の多国籍軍への参加は、政府のこれまでの憲法解釈すら踏み越えるものであり、その不法に厳重に抗議するものである。
政府は、自衛隊と多国籍軍司令部との関係について、「自衛隊は統合された司令部の下にあって、同司令部との間で連絡・調整を行うが、同司令部の指揮下に入るわけではない。自衛隊は引き続き、我が国の主体的な判断の下に、我が国の指揮に従う」とし、こうした点について米英両政府の了解を得ていると説明する。しかし、自衛隊が多国籍軍に参加する以上は、参加諸国の軍隊と一体化した行動を余儀なくされることを意味する。「統合された司令部の下にあって、同司令部との間で連絡・調整を行う」ことは、政府自身が認めるところでもある。多国籍軍と一体とならないという強弁は、児戯に等しい。
また、外務省は、自衛隊の活動における自主性を担保するものとして、21日に、「自衛隊が多国籍軍の中で活動する場合の活動のあり方に関する米国、英国との了解について」を発表した。この文書は、氏名秘匿の米英の高官と日本の在外公使との間の了解を、日本側において文書化した形式となっている。憲法上の重大事項に関わる取り扱いとしては、その形式においてあまりに軽々しく姑息なやり方と言わざるをえない。
しかも、「了解に達した内容」として、「イラクの完全な主権の回復後、イラクで活動する自衛隊は、多国籍軍の統合された司令部の下、これまでと同様に人道復興支援を中心に活動する。」「自衛隊のイラクでの活動に対するイラク政府よりの同意及びその活動に関するしかるべき法的地位は、多国籍軍の一員として確保される。」とされている点は見逃すことができない。
自衛隊は、紛れもなく、「多国籍軍の一員としての法的地位」を獲得するのである。その上で、「多国籍軍の統合された司令部の下」で活動することになる。その活動は「人道復興支援を中心に」するが、イラク特措法におけるもう一つの自衛隊の任務である「安全確保支援活動」を除外するものとされていない。その具体的な業務の内容は、「国際連合加盟国が行うイラクの国内における安全及び安定を回復する活動を支援するために我が国が実施する医療、輸送、保管(備蓄を含む。)、通信、建設、修理若しくは整備、補給又は消毒(これらの業務にそれぞれ附帯する業務を含む。)」(3条3項)であり、武器を携行した米軍兵員の輸送もこれに含まれるとするのが、政府の解釈なのである。
私たちは、政府の今回の措置はこれまでの政府憲法解釈からも違憲の事態が生ずるものであって、自衛隊の「多国籍軍」参加に強く反対し、自衛隊のイラクからの即時撤退を求めるものである。