1.日本国憲法は、日本国民とアジア諸国民の夥しい犠牲のうえに、焼土と化した国土のなかから誕生しました。その最大の歴史的意義は、数々の侵略戦争の誤りを反省して、悲惨な戦争を二度と繰返さない平和国家の建設を、国内外に誓約したことにあります。
日本国憲法は、不戦の決意の証しとして第9条を設けて、戦力の不保持を宣言しました。これは、戦争を違法とする国際法思想進化の到達点であって、自衛戦争をも制限した国際連合憲章をさらに推し進めたものにほかなりません。
日本国憲法が、戦争のできる国造りへの強力な歯止めであることは当然として、国際社会の平和実現と民主主義の発展にも少なからぬ役割を果たしてきました。日本国憲法の成立は、徹底した平和国家をめざすその理念において、人類史的に画期的意義を持つできごとと言わねばなりません。
その日本国憲法が、制定後58年を経て、かつてない危機を迎えています。
2.日本国憲法は、その成立直後から厳しい試練に見舞われました。
国際社会を二分した米ソ両陣営の冷戦構造のもとで日本はその一方に組み込まれ、日米安保条約の強化と肥大化が、平和と独立、そして民主主義と人権の擁護を保障する憲法理念の全面的開花を妨げてきました。その過程で日本国憲法は幾度か「改正」策動の危機を経験しました。
しかしその都度、広範な国民が思想や政党政派を越えて憲法擁護に立ち上がり、冷戦下にあっても憲法「改正」を阻止し、明文改憲を許しませんでした。これは、平和条項をはじめ憲法が保障する民主主義と人権の諸原則が今日国民の日々の生活のなかに定着していることを示しています。
にもかかわらず、今事態はかつてなく深刻です。アメリカは9・11事件への「報復」としてアフガニスタンを、また大量破壊兵器の脅威に対する「先制的自衛権」行使と称してイラクを武力攻撃しました。この国際法違反の武力攻撃を契機として、日本はアメリカへの追随姿勢を一段と深めました。米軍占領地への自衛隊の海外派兵が実現し、憲法の禁止する集団的自衛権の行使と解せざるを得ない事態が生じています。こうして、無理に無理を重ねた解釈改憲が限界に達したとして、憲法9条を軸とした憲法改正の動きが今日現実化しています。
3.2005年秋には自民党が、続いて民主・公明両党も憲法「改正」案を発表することを予定し、既にその草案や論点整理が明らかとされています。それに符節を合わせて、衆・参両院の憲法調査会最終報告、「憲法改正国民投票法」案の上程が企図される事態に至っています。
各党「改正」案の中心をなすものは、さまざまな意匠を凝らしながらも結局は軍事力の保持のみならず集団的自衛権の行使をも憲法上正当化し、自衛隊の海外派兵を恒常化させようとするものです。憲法よりも日米同盟を上位に位置づけ、これと整合させようとするものと言わざるを得ません。
また、歴史的に確立されている近代憲法の基本的性格は、権力の濫用を抑制し国民の権利を保障するところにあります。ところが、各党の「改正」案は、いずれもこの立憲主義を危うくするものとなっています。将来徴兵制への途を開きかねない「国防協力の義務」をはじめ、各種の国民の義務条項を盛り込み、憲法の基本性格と理念を大きく変質させようとする危険な特徴を見なければなりません。
日本国憲法を「改正」し、平和と民主主義、人権擁護の保障規定を後退させることは、日本の今後の民主的発展を阻害し、かつて日本から侵略を受けたアジアの諸国民に大きな不信と不安を与えることは明らかです。また、アフガニスタンとイラクへの攻撃の正当性を疑問視し、アメリカへの追随を反省しようとしている国際社会にとっても、大きな損失をもたらすものと言わねばなりません。
4.日本民主法律家協会(日民協)は、1960年の日米安保条約の改定に反対した全国の弁護士及び学者・研究者など広範な法律家によって設立されました。日本の平和と独立を願い、軍事同盟の根拠法である日米安保条約を解消して真に憲法が輝く日の到来を希求した活動を続けて、今年創立43年を迎えます。
このときにあたり日民協と当協会に結集する全国の法律家は当協会設立の趣旨に逆行する今日の憲法「改正」の動きに強く反対します。
そして、再び広く日本の法律家に団結を呼びかけ、憲法を大切にしてきた多くの国民と連帯して壮大な国民運動を展開すること、自らもその一翼を担い憲法の擁護のために全力をあげて闘うことを誓うものです。
以上、宣言します。
日本民主法律家協会第43回総会