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海上自衛隊のソマリア沖派兵に強く抗議し、「海賊対処法」に断固反対する声明

2009年3月27日
日本民主法律家協会 全国理事会
1、政府は、本年3月14日護衛艦2隻をソマリア沖に派遣した。
  また、これに関連して派遣前日の同月13日、「海賊対処法案」を閣議決定した。
  いずれも、平和と憲法原則に関わる重大な問題として、到底看過し得ない。

2、ソマリア沖への海上自衛隊派兵に関し、政府は同海域における海賊行為に対処するためと説明している。
  しかし、第1に、海賊対処は本来海上保安庁の所管業務である。実際、マラッカ海峡周辺を中心とした東南アジアにおける海賊行為に対しては、これまでにも海上保安庁が巡視船を派遣し、また関係諸国と協力協定を結び、共同訓練を行うなどして、非軍事の協力関係を築き、大きな成果を上げ(マラッカ海峡周辺の海賊被害は、2000年の80件から8件へと激減している)、国際的にも高い評価を受けている。海賊に対する対処は、このように海上保安庁で対応されるべきものである。
 第2に、政府は、今回の派兵根拠を自衛隊法82条(海上における警備行動)としているが、同法3条1項および同法6章の他の条文の内容から見ても、82条はあくまでも「我が国沿岸における警備行動を想定したもの」であって、ソマリア沖などといった遠洋での自衛隊の活動の根拠となるものではない。そうであるからこそ、政府と自民・公明の与党は、自衛隊法3条2項が規定する「別に・・定める」「法律」として「海賊対処法」を制定しようとするのである(現に、政府は海賊対処法成立後は、派兵根拠をこの新法に切り替えるとしている)。しかるに政府・与党は、そうした法案の成立はおろか、審議も全くなされないうちに「当面の緊急的措置」と称して先取り的に派兵を強行した。しかも、憲法9条第2項に反する疑いのある行為であるのに、今回の派兵については具体的活動内容や派兵期間さえ明らかにされず、もちろん国会への報告や承認も全くされていない。あまりにも、乱暴に法と国会を無視したものであって、到底許されるものではない。

3、「海賊対処法」案もまた、極めて重大な問題をはらんでいる。
 第1に、同法案は、活動地域も、活動期間も限定されていない。「海賊対処」の口実のもと、いつでも、どこにでも自衛隊を派兵することができる恒久法であり、これまでの「特措法」による制約を取り払おうとするものである。
 第2に、武器使用について、これまでも「特措法」は、その要件を拡大してきているが、基本的には「自己」や「その職務を行うに伴い自己の管理下に入った者」たちの「生命・身体の防衛、防御のため」と、防御的な場面設定をしてきた。しかし海賊対処法は、海賊船と見られる船の逃走の防止や他の船舶への著しい接近等を制止するための威嚇射撃などの先制攻撃を可能とし、武器使用要件を質的に緩和している。したがって、国の戦闘行為を禁止している憲法9条第2項に違反する疑いが濃厚である。
 第3に、同法では保護する船舶は外国船舶も含むので、関連各国と連携して武力行使を行う可能性が高くなり、集団的自衛権の行使の問題が出てくる。
 第4に、同法では防衛大臣が「対処要綱」を作成して内閣総理大臣の承認を得ればよく、内閣総理大臣は承認したときおよび海賊対処行動が終了したときに国会に報告するとしているだけで、自衛隊の軍事行動に対する国会によるコントロールは著しく形骸化されている。

 以上のように、「海賊対処法」は、憲法による自衛隊の武力行使禁止原則をなし崩しにし、自衛隊の派兵要件を緩和して、海外派兵恒久法の制定に向けての歩を進めようとするものにほかならない。

4、ソマリアの海賊問題は、同国の内戦と無政府状態、外国船による魚の乱獲や武器の密輸、それによる困窮した漁民の海賊化と軍閥の参加等々の複雑な問題に根ざしたものである。そうであれば、日本は、問題の根本的解決に向けて、憲法の平和原則に則って経済的支援、民政支援等の平和的手段に徹し、ソマリアの復興のための援助をこそ徹底すべきである。「海賊対処」などと称する自衛隊派兵は、これを口実として自衛隊の海外派兵の拡大を目論むものでしかない。
 我々日本民主法律家協会は、日本国憲法の平和原則の空洞化を更に推し進めようとする、このような海賊対処法案に強く反対すると共に、ソマリア沖護衛艦派遣に断固抗議するものである。
  



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