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(1)東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所における大事故が発生してから1ヶ月が経過した。
報じられているところを総合すれば、地震と大津波で外部電源と非常用電源が停止し、1号機から4号機で炉心や使用済み核燃料プールの冷却機能が大幅に失われた。そのために炉内や核燃料プールの水位が急激に低下して燃料棒の上部が露出し、格納容器内の水蒸気を放出する作業を開始したが水素爆発を起こし、1号炉、3号炉、4号炉の建屋を損壊した。その後、放水などの懸命な努力にもかかわらず、現在、1号機と3号機では燃料棒の一部が、2号機では燃料棒が全部露出して、いずれも炉心融解を起こしていると見られている。また、1号炉では圧力容器の、2号炉では圧力容器と圧力抑制室の、3号炉では圧力容器の損傷した状態が続いている。
この間、大量の放射性物質が空気中に拡散し、高濃度の汚染水が海洋に流出するとともに、原子炉建屋内の高濃度汚染水処理の危機回避のため低濃度の汚染水を大量に海へ放出し、国際的にも厳しい非難を浴びている。
しかし現状は、未だに炉心に対する対応策はおろか、放射能汚染の拡散を防ぐ目途さえ立てられず、今後放射能汚染がどのように、どこまで拡がるか、まったく予断を許さない状況である。
(2)こうした中で、20キロ圏の住民には退避指示が出され、30キロ圏の住民は屋内退避を余儀なくされている。さらに新たな退避命令が下される恐れもある。近隣住民の不安や心痛は察するに余りある。心からお見舞い申し上げたい。
放射線の脅威に曝されながら事故の拡大を食い止めるために懸命な努力を続けておられる現場の皆様、避難民の誘導、不明者の捜索などにあたっておられる関係者の皆様に、深く敬意と感謝の意を表したい。
(3)被害拡大を食い止めるための現場の人々の懸命な努力にもかかわらず、危機的状況は依然として続いており、炉心溶融による最悪の事態も懸念される。
すでに30キロ圏外でも土壌や大気中の放射線量が基準値を超え、首都圏の浄水場でも放射能が検出された。また、一部の地域で野菜や原乳などの出荷制限が課せられ、さらに魚の汚染も報告される中、風評被害も広がりを見せており、農・漁業者を中心に、生産者への深刻な影響が現実化しつつある。
当然の事ながら、東電はもとより関係機関は、総力を投入してこれ以上の被害の拡大を防止するために、各界の英知を集めて、ありとあらゆる取組みをさらに強化することが、何よりも求められる。
また、空気、海、土壌、食品などに対する放射能モニタリングを広域で網羅的に行うと共に、その結果を、シュミレーションを含め速やかに情報公開すべきである。また、内部被曝の人体への影響などの正確な情報を徹底的に開示すべきである。そうしてこそ、避難地域の効果的な設定をはじめ、被爆線量を出来る限り僅少に押さえることが出来るし、また、風評被害の防止に役立つ。
(4)この度の原子力災害は、国と東電が地震国である日本の立地条件を無視して、安全神話を振りまいて原子力政策を推進してきた結果生じた、まさに“人災”である。東電と国は、この“人災”の責任を負う者として、生活の場を追われ、生活の糧を失った被害者に対して、早急に相当金額を仮払いするなどして生活支援を行うとともに、原子力損害賠償法の趣旨と目的に従って、因果関係などでいたずらに争うことなく、その損害を全額賠償すべきである。
(5)このような“人災”の再発を絶対に防止するためには、何よりもまず、今回の事故について、あらゆる角度から徹底的な調査、分析が行わなければならない。
そのためには、調査・分析には、従来の政策決定に係わった学者・研究者等や利害関係人を排除し、これまで原子力発電の危険性を指摘してきた学者等を参画させること、および、東電と国がこれまで公表して来なかった詳細な放射線の測定値を含む全てのデータを隠蔽することなく開示することが不可欠である。また、調査で得られた情報・知見は、全国民及び国際社会に開示されなければならない。
(6)日本では、近い将来、東海・東南海・南海のプレート型大地震を始め、各地で直下型地震も想定されている。地震を契機とする原発事故再発の絶対防止のためには、新規の原発建設を許さないことはもとより、54基ある全国の原子力発電所について、直ちに、今回と同程度の地震、津波に耐えうるだけの安全性を備えているか否かを徹底的に総点検し、危険性のある原子力発電所については即時運転を停止し、早急に廃炉にすべきである。
この総点検においても、従来の政策決定に係わった者や利害関係人を排除した人的体制で行われるべきである。また、その調査の内容及び結果は全国民に開示されなければならない。
(7)このたびの原発災害が国と東電による“人災”である以上、これまでの原子力行政を推進してきたものの責任を明らかにしなければならない。
東電と政府だけではなく、これを後押ししてきた学者や研究者の責任、多くの原発訴訟で原発の危険性に目をふさいできた司法の責任も含めて、徹底的に明らかにする必要がある。その上で原子力に替る自然エネルギーの開発に国として本格的に取り組むなどエネルギー政策を根本的に見直さなければならない。
こうした、これまでの行政、司法の責任の明確化、エネルギー政策の見直しの作業も、従来の政策決定に係わった者や利害関係人を全て排除した人的体制で行われなければならない。
(8)もし、以上述べたような原発の停止、エネルギー政策の転換のために電力が不足する場合には、病院や中小企業等の業務、高齢者等の生活に支障をきたさないよう、また、バリアフリーを後退させることのないよう配慮しつつ、必要に応じて企業に対し電力使用制限令を発動するとともに、生活スタイルを省エネ型に変更するなどして、自発的に節電対策を押しすすめる必要がある。
私たち法律家・法律家団体も、被災者への最大限の支援と、こうした安全で安心して生活できる社会を実現するための上記総点検作業を推進し、これまでの原子力行政を根底的に改めさせるために役割を果たすべく、全力を尽くす所存である。