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異論・反論/北朝鮮の問題を私たちはどう考え、何をすべきなのか!

第0004回 (2005/11/16)
戦後処理を正しく行うことが大切 ―木村晋介氏の反論にこたえて―(日民協理事 吉田博徳)

 木村晋介氏が法民三九六号に投稿した私の意見に反論されましたので、再びその主要な論点について意見を述べたいと思います。


 一、人権問題について

 木村氏は私が「朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)には人権問題があるといえない」と述べたと書いていますが、そんなことは述べていません。私は「それは事実であるかも知れない、しかし現在は確認する方法がないから論評をひかえているのだ」と述べているのです。
 刑事裁判でも被告人の自白だけで有罪の判決は出せず、確たる物証が必要であると同様に、脱北者の自白やマス・コミの報道にも裏付けが必要だと思います。木村氏がいくつかの資料をあげられて確認できると述べられているのは、木村氏の自由ですから私はそれを非難はしません。しかし私は信頼できる機関の調査結果か、それに準ずる資料でなければ確認できないのです。それは私の自由ですからそれを非難される理由はありません。
 去る五月二三日、東京大学の安田講堂で金大中氏(元韓国大統領)の講演会がありました。話が終わってからある学生が「いま北朝鮮の人権問題がいろいろ言われています。この問題を解決するためには、北朝鮮国内の民主的改革を進める方法と、外部からの圧力という二つの方法があると思いますが、先生はどうお考へですか」という質問がありました。金大中氏は「いわゆる共産国にはいろいろと人権問題がありましたが、それに外部から圧力をかける方法で成功した例は一つもありません。かえって人権問題を強める結果になりました。だから私は外部から圧力をかけることには反対です。北朝鮮の人権問題を解決するためには、経済援助を増やし国民が人間らしく豊かに暮らせるようにすることです。そうすれば民主主義運動が強まり、人権問題も政治的に発展するでしょう。東ドイツがそのよい例です」と答えていました。木村氏が参考にして戴ければ幸いです。

 二、国際問題と内政干渉

 自主・平等・内政不干渉は国際交流関係の原則です。内政干渉とは「その国の人民が自らきめるべきことにたいして、他国が介入することをいう。介入は武力だけでなく政治的、経済的その他の圧力も含まれる」(社会科学辞典による)というものです。
 アメリカのブッシュ大統領が「イラクのフセイン大統領は独裁者だから、イラク民主化のためにはフセインを打倒しなければならない」という武力行使をはじめました。イラクの大統領を誰にするかはイラク国民の主権にかかわることであって、ブッシュ氏が介入すべきことではありません。内政干渉の典型例というべきでしょう。
 ある国の人権問題をその国の法律と制度によって処理するのは、その国の政府と国民の主権にかかわる問題ですから他国から云々すべき問題ではありません。但しその人権問題が国際的な関連をもつ場合には、国際的に対処できることは当然です。
 北朝鮮の指導者がたとえ独裁者であったとしても、独裁者であるかどうか、世襲制や主体思想や鎖国政策等が是か非かをきめるのは、北朝鮮の国民であって他国人が云々とすべきことではありません。私たちは北朝鮮も国連に加盟する主権国家として対応しなければならないのです。但し、木村氏が北朝鮮の実情を批判することは、それが内政干渉にわたらない範囲である限り自由ですが、他人にまで批判を要求しないで下さい。

 三、自主性について

 国際関係において自主性を尊重することはきわめて重要です。私たちは朝鮮(南北を含む)との交流に当たっては、日本人の立場に立ちその利益を守ることを重視してきました。だから外国からの不当な干渉には永年にわたり断固とたたかってきましたし、北朝鮮の拉致問題についても厳しく対処し、外務省交渉などを何度も行ってきました。
 しかし、私たちが自主性を貫くと同様に、相手方の自主性も尊重しなければなりません。
相手方の主張に道理があればそれに対しては誠実に答えなければなりません。北朝鮮が日本の植民地時代の莫大な被害に対する謝罪と補償を要求するのは当然であり、日本は速やかに精算する義務があります。
 木村氏は「拉致行為をするような北朝鮮は植民地時代の日本の悪行を批判する資格はない」ときめつけています。これは本末転倒の議論です。日本が行った莫大な強制連行や拉致などは、北朝鮮の拉致行為の四〇年以上も前のことです。北朝鮮の拉致があろうとなかろうと犯した罪の精算はしなければならないのです。日本が犯した罪の精算をしてこそ北朝鮮の人びとと対等の立場で新しい問題を話合うことができるのではないでしょうか。北朝鮮の拉致問題は日朝平壌宣言にもとづいて総合的に話合う他に道はないのです。
 木村氏はまた北朝鮮が韓国人約五〇〇人を拉致しており、国際問題としてとりあげるべきだと書いています。一九七一年に韓国で実尾島事件が起こってから、永年にわたり韓国から北朝鮮に各種の工作員を潜入させていたことが問題になりましたが、二〇〇三年九月韓国政府は「工作員一万三〇〇〇人余が養成され、そのうち死亡・失踪者が約七八〇〇人である」と発表しました。いま工作員への補償が大きな問題となっています。北朝鮮にいる韓国の「拉致被害者」なる者が、本当に北朝鮮が拉致したのか、韓国から潜入した工作員の末路なのかは私たちにはわかりません。この問題は同じ朝鮮民族同士の南北政府の交渉によって解決する外に道はないのです。他国人が云々できることではありません。マス・コミの報道を鵜呑みにしないで、自主的に検討することが大切です。

 四、おわりに

 第二次世界大戦の戦後処理についての日本とドイツの違いがよく議論されます。ドイツは被害者に対する謝罪や個人補償まで広範に行い、戦争はもう絶対にしない決意で西欧連合(EU)などの新しい歴史構築に熱心です。しかし日本は六〇年を経た今日今だにアジア諸国民への謝罪も補償もせず、経済援助でお茶をにごし、今また有事法制や小泉首相の靖国参拝、教科書問題等で、日本はまた戦争への道を歩きはじめたのではないかと、アジア諸国民から大きな批判をうけています。
 この違いは戦争責任のとり方の違いからきているものと思います。ドイツはヒトラーが自決して自ら責任をとり、国民はナチス党の指導者を何十年たっても時効なしに追及していますが、日本は最高責任者の天皇は何の責任もとらず、A級戦犯に次ぐ多くの責任者が間もなく大臣や首相にまで復帰しました。マス・コミや国民の戦争責任追及運動も充分ではありませんでした。
 今大切なことは、植民地支配や太平洋戦争などで、アジア諸国民に多大な損害を与えた、侵略の歴史の事実を明らかにして、その責任を追及し、遅くなったけれども謝罪と補償の戦後処理を正しく行うことです。その運動こそが憲法九条の改悪を許さず、再び不幸な歴史をくり返さない国民的な力となるのです。
 

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