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伊藤和子のNYだより

第0010回 (2005/03/23)
イラク開戦2周年のNYから

みなさん、こんにちは。
 お元気でお過ごしでしょうか?  NYから伊藤和子です。
 先週末はイラク開戦から2年。
 3月18-20にかけて、アメリカでは全米725箇所、全ての州で、デモ、キャンドルをもって徹夜、ヒップポップコンサート、イラクからの帰還兵を呼んでのピースラリーなどたくさんのプロテストが開催されました。以下のサイトを見ていただけると全体がおわかりいただけるのはないか、と思います。
http://www.unitedforpeace.org/article.php?id=2782

 イギリスなどではロンドンでとても大きなデモがあったようですけれど、アメリカは今回、地方分散型。
 何故NY,ワシントンに集中しなかったかというと、「東部だけにたくさん人を集めても、南西部の人たちにはまったく届かない。全部の州、地元でたくさんの人たちと話し合うことが何より大事」ということで、コミュニティのアメリカ人みんなに届くようなプロテストを考えたようです。
 United for peace and justiceという全米最大の反戦団体は、この間ずっとブッシュ支持の州を視野において、コミュニティ・レベルでどうやって反戦運動を広げていくか、ということに取り組んでいます(でも、やはり圧倒的な人数で「元気」を示してほしかったような気もしますけれど、ね。)

 注目すべきは、イラクからの帰還兵が市民集会に参加して、語り始めていることです。騙されてリクルートされた、民間人を殺す作戦に動員されて、帰還後も毎日悪夢にうなされる、トラウマによる精神疾患、劣化ウランの影響で流産した女性兵士、ホームレスになるしか道のない帰還兵など。
 キッシンジャーは以前「兵士は所詮みんなばかな奴ばかりだ。米国の目的達成のために最大限利用すればよい」と言ったそうですが、使い捨てにされている兵士たちの実情は本当にひどいものです。
 黙っている大多数の帰還兵たちに代わって一部の帰還兵たちが「この戦争は間違っている」と声をあげています。

 ところが、この間、現在アメリカのメディアでは、脳に重大な障害を負った一人の女性の生命維持チューブを外すか、つなぐかをめぐって大騒ぎ。
ブッシュをはじめ政治家、法律家、メディアが大騒ぎをしたあげく、いったん本人の意思で配偶者によって外されたチューブを政治の力でつなぎなおす、という顛末が繰り返し報道されています。
 いつもながら、世論の関心を全く他のことにそらす世論操作が巧妙に行われているわけですが、何故この1人の女性の命と同じ重さで、犠牲となったイラク人、ほとんどが国内のマイノリティの属する犠牲になった米兵の死をこの2周年という日にまったく論じないのか、と本当に怒りを感じる2周年でした。

 さて、話はかわりますが、NYはこの3月、国連女性の地位に関する会議、「北京プラス10」(1995年の第四回世界女性会議(北京女性会議)から10年目のフォローアップ会議)が開催されました。
  ところが、この会議も、アメリカの「ユニラテラリズム」の影響に振り回されて大変な事態になっていました。
  というのも、北京女性会議では、女性の地位の向上に関する包括的なアジェンダが採択されたのですが、ブッシュ政権は10年前に全ての国が一同に会して決めたこのアジェンダ(アメリカはヒラリー・クリントンが会議に乗り込んで積極的にアジェンダの採択を推進した)を「中絶の権利をうたっているアジェンダは容認できない」という理由で、ひっくり返そうとしたからです。
 アメリカは「中絶の権利も、リプロダクティブ・ヘルツも認めない」と言い、親米イスラム諸国を誘い込んで、北京会議のアジェンダを否定しよう、という活動を猛然と開始し、会議で採択される宣言の修正を強硬に要求しました。
   北京会議後、世界各国の女性たちはこのアジェンダを武器に女性に対する差別と暴力をなくそうと、たくさんの運動を展開してきたわけで、それをいまさら超大国の横暴でひっくり返されてはたまらない、という思いから、今回の会議には世界から6000人のNGO,女性たちが集まり、国連の会議室を席巻し、アメリカの横暴にストップをかけるためにアメリカ、そして各国政府にプレッシャーをかけるロビー活動を展開しました。
 NGOのロビー活動を受けて、各国政府もアメリカの行動を批判し、「北京アジェンダの完全な実施」を求める発言を次々と行い、特にIMF路線と闘っているアルゼンチンの政府代表などはアメリカ批判の大演説を展開して満場の喝采をあびたそうです。(それに引き換え日本代表はひどかった。日本だけ担当大臣が男性。日本語でスピーチ。アメリカの方針について一言も意見を言わない。北京会議の「宿題」を「これこれをやりました」「外国にお金を援助しました」と報告するだけ。)
 その結果、アメリカは孤立し、ついに修正要求を撤回せざるを得ない、という爽快な結果になりました。
会議で隣り合わせたナイジェリアの女性国会議員は「あれだけ孤立したんだから、アメリカだってこれ以上世界を敵に回して横暴を進められない、とわかったのよ。意見が違う世界各国が苦労して合意したことを10年たって否定するのを許したら全ては無になってしまうでしょ」と話していましたが、今回の一件は、小さいけれども、アメリカを孤立に追い込んだNGOと女性たちの勝利といえるでしょう。
 果たして6000人の女性たちがNYに集まらなかったらアメリカの横暴を止められただろうか?と思うと、やっぱりこのアメリカの横暴をとめるのはひとりひとりの市民・NGOの力をおいてほかにない、と痛感しました。

 しかし、これで懲りるアメリカではない。最近衝撃的なニュースは、ブッシュが、ネオコンのイデオローグ、イラク戦争のA級戦犯であるウォルフォイッツを世界銀行の総裁に推薦した、というものです。
 途上国は、IMFがアメリカ主導のグローバリゼーションの一環として強要する民営化・構造改革政策によって、益々貧困化が進み、苦境においやられ、IMF路線に本当に苦しめられています(私が机を並べている友人たちの多くは途上国からきたアクティビスト・ローヤーなので、彼らの国々が、IMFの路線によって大変な目にあっているのを目の当たりにして胸が痛みます)。
 世界銀行は最近、そのようなIMFの路線に距離を置き、時には批判的な見解を表明することすらありました。
 ところが、そのような世界銀行をアメリカの意向に忠実に「軌道修正」し、グローバリズムを徹底させよう、という意図でウォルフォイッツが推薦されたわけだと思いますが、やっぱりネオコンはタフで、世界支配の野望に満ち、執念深く、恥を知らない、と実感します。これは本当に大変な影響を世界に及ぼすことでしょう。何とかストップさせたいです。
  これから9月のミレニアム・サミットプラス5という国連の会議まで、5月のNPT再検討会議、7月の紛争予防に関する国際会議など、世界の市民の声を表明する機会がたくさんあります。
 日本からもたくさんの方が来られる予定で、5月には私も日本からくるイラク支援関係の皆さんと一緒にNYでイベントを企画しています。
 アメリカに拮抗する「もうひとつのスーパーパワー」である市民の声が、NYで、世界で鳴り響くことを楽しみにしています。
  
PS. 私は3月中旬、カリフォルニアを訪れ、全米初アフガン空爆に反対する決議を採択したバークレー市、全米で初めて愛国法に反対する決議を採択したサンタクルーズにもいき、街に満ち溢れるリベラルさ--NYともまた違った空気--に感心しました。
劣化ウランを告発し続ける科学者ローレン・モレさん、カリフォルニアで反戦運動を続ける川嶋京子さんにおあいしてきましたが、二人ともとてもお元気。特にモレさんは相次ぐ迫害をものともせず、イラク問題で大きなことを仕掛けている最中のようで、これからの展開が楽しみです。

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