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清水雅彦の映画評

第0001回 (2005/02/25)
『ステップフォード・ワイフ』〜単なる「男の意識」批判を乗り越えろ

【ストーリー】
TV局の敏腕プロデューサー、ジョアンナ(ニコール・キッドマン)は仕事に失敗し、辞職。失意の底に突き落とされる。そんな時に、同じ職場を辞職した夫・ウォルター(マシュー・ブロデリック)は、新天地での人生を提案する。二人がやってきたのはステップフォードという郊外の街。街全体が美しく整備され、フル・オートメーション化された豪邸ばかりが建ち並び、ここには犯罪も貧困もない。この街では、男性たちはマイク(クリストファー・ウォーケン)が会長を務める男性協会で遊び、女性たちはマイクの妻・クレア(グレン・クローズ)を中心に笑顔を振りまきながら掃除やお菓子作りなどに励む。その中で、浮いていたのはジョアンナと彼女の友だち・ボビー(ベット・ミドラー)。しかし、ある日突然、ボビーも変身してしまう。実は、ステップフォードの女性たちは、有能な妻たちに劣等感を抱いていた男たちによって、昼は家事、夜はセックスのためのロボットに改造されていたのだ。そこで、ジョアンナは……。


【コメント】
最初に言ってしまうと申し訳ないのですが、映画としては全体の俳優やセットにお金をあまりかけず、脚本も演技力ももうひとつの作品です。原作は、1972年に出版されたアイラ・レヴィンの『ステップフォードの妻たち』(日本語版ではハヤカワ文庫)で、当時のウーマン・リブ運動を背景に書かれた本。もちろん、原作と映画では細かな設定や展開は異なり、映画自体は分かり易くて踏み込んだ解釈をしています(原作はウーマン・リブ運動への風刺とも解釈可能)。作品としてはあまり期待しないで見に行った方がいいです。

しかし、設定は細かく考えられています。ステップ・フォードの妻たちは、みんな胸元チラリのワンピースを着て、いつも笑顔を振りまいている。ボビーにこの街にはアフリカンやネイティヴが存在しないことを言わせたり、キリスト教の行事に関わっていなかったユダヤ人の彼女も変身させる。変身すると、茶髪だったボビーも、栗毛髪だったジョアンナも、バービー人形のような金髪に変わり、服装も胸元チラリに変わる。そして、大変無精だったボビーも家事に励み出す。この街では、女たちは男たちにとって「かわいい妻」であり、都合のよい無償奉仕のメイド兼娼婦ロボット(胸を大きくする機能付き)にすぎないのだ。しかも、この街を支配していた黒幕が、実は男ではないことも巧妙だと思います。

この映画を見て考えたことは、今の日本の状況ですね。真冬でもテレビでは二の腕をさらす女性タレント、女性の間で寄せて上げるブラやピチシャツがはやり、女性誌では「モテ」特集が組まれる。女子高生が火をつけ、ヘアカラー協会が助長した茶髪・金髪は中年の男女にまで波及し、「大人の子ども化」をもたらす(何で赤色や青色、アフロやパンチではないのでしょうかね)。手軽なプチ整形では二重がはやる(アジア人だから一重でいいじゃない)。要するに、日本人には美のモデルが白人であると刷り込まれているし、女性はセクシャリティーを売り物にする。確かに、男性の目と関係なく、女性の目を意識していたり、自己満足もあるでしょうが、なぜ女性はそんなに「外見」と「性」を気にするのか。

たとえば、上野千鶴子さんの『家父長制と資本制』(岩波書店)を読んだときに、結局は意識が問題にされていて違和感を感じました。私なんかは古いと思われようと「存在が意識を規定する」と考えます。上部構造が下部構造を規定する反作用もありますが、下部構造が上部構造を規定する作用が基本だと思います。情報・通信・ファッション・整形・娯楽など余計なモノにお金を使わせなければ過剰な資本の投資先がなくなってしまう高度消費社会で、商業主義の手のひらの上で踊らされているのが多くの日本人ではないでしょうか。映画自体は冒頭を見てもわかるように、「男の意識」を批判したものと捉えることができますが、現実社会では「男の意識」に応える「女の意識」も問題だし、さらには両者の「意識」の根底にある社会構造が問題だと思います(ちなみに、この「ステップフォード」の街は、私の関心対象である「要塞まち」(Gated Communities)ですね)。

気軽に始めるつもりの映画評が初回からこんな調子ですみません。多くの女性陣をはじめ、いきなり「敵」を増やしてしまったかもしれませんね(笑)。



原題:The Stepford Wives
2004年アメリカ映画
監督:フランク・オズ
ドリームワークス映画・パラマウント映画提供、UIP配給
上映時間:1時間33分
現在、全国のTOHOシネコン系映画館にて上映中
http://www.stepfordwife.jp/

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